09/05: 『ぼくはうみがみたくなりました』福田是久監督・伊藤祐貴 対談:第1回
Category: TalkHolic-Creator
Posted by: HogaHolic

取材・文/水上賢治
第2回:“天使”を探し求めた主役オーディション
第3回:伊藤祐貴、現場にて撮影期間中“浅野淳一”で居続ける
第4回:監督が目指したこと。浅野淳一が現場にもたらしたもの
第5回:作り手として、演じ手として
自閉症の青年と心に喪失感を抱えた少女の交流を温かく綴る本作。自閉症の愛息への想いを込め、父親の山下久仁明が 書き上げた同名小説をもとに、1000名を越す賛同者からの協力や寄付金で映画化が実現。様々な人々の想いを乗せた作品は、障害者を扱った映画が陥りがちな教育的で品行方正なだけの内容に止まらない。弱者を哀れむような悲壮感とも無縁で、ある意味、“自閉症”というテーマに抱きがちな暗いイメージとは違った、大きく扉が解き放たれた快活な作品に仕上がっている。重要なテーマを真摯に受けとめて“全力投球した”と言い切る福田是久監督と主演の伊藤祐貴が作品に懸けた想いを語る。
第1回:内ではなく、外へと飛び立つ映画を目指して。
この映画を語るには、最初にバックグラウンドを説明しておかないといけないと思います。まず、原作は今回、映画の企画と脚本も担当されている山下久仁明さんが"多くの人に自閉症のことを知ってほしい"と思いから書き下ろした小説で。それをもとに山下さんは映画化を企画し、インターネットで製作費を募るわけですが、その矢先に自閉症である愛息の大輝くんが亡くなってしまう。こうした悲しい出来事を経ながら、本作は1000名以上の賛同者からの協力、寄付金が集まり、プロジェクトが始動しました。たぶん、福田監督、伊藤さんともにこのお話を事前にお知りになったと思うのですが、そのとき、どういうふうに受け止められましたか?
福田:僕は脚本を読む前に、直接、山下さんとまずお会いしました。その中で、この作品には山下さんの、そして賛同してお金を寄付してくださった自閉症の家族を持つ方々の強い想いが詰まっていることをひしひしと身をもって感じたんですね。ですから監督のオファーをいただいたことはとても光栄だったんですけど、その場で"やらせてください"と即答はできなかったんですよ。果たして自分が期待に応えられるのか?この強い想いを引き受けるに当たって自分に相応の覚悟がないと皆さんに失礼に当たると思ったんです。それでいろいろと悩んだんですけど、自閉症について自分なりに調べてみました。その中で、自閉症の方は一極集中というか、ある事に興味を抱くとその世界にのめり込んでいくことを知って。僕もひとつの作品を作り始めるとスイッチがオンになってそこに全力投球で周りが見えなくなってしまう。"もしかしたら自分も自閉症の方と同じような感覚を持ち合わせているかもしれない"と思えて。その瞬間に、何か他人事ではなくて自分の身近にある題材に感じられて、責任重大ではあるけれど"これはぜひトライしてみたい"と思いました。
伊藤:僕はオーディションがあると聞いて、そのとき、原作があると知らされたので、とりあえず山下さんの小説をアマゾンで取り寄せたんですね。特急便ではなく普通便で(笑)。それが届くのを待っていたある日、マネージャーに"呆れたなぁ"と怒られたんですよ。でも、それは原作を読んで納得しました。自閉症の役を演じるに当たり、やらなければいけないことが山ほどある。これは自分が甘かったと思いました。と同時に、役者としてものすごい魅力を感じる役でしたから、これはどうにかモノにしたいと思いまして。それからはもう必死で、まず図書館に行って、自閉症に関する本を片っ端から借りてきて読みまし た。また、福祉施設にお願いして、半日なんですけどボランティアスタッフとして働かせていただいて。自閉症の方と向き合う時間を持ちました。そうした準備 を進める中で、さらに"自分が演じたい"との思いがどんどん強くなっていって。最後は神社に行ってオーディションが受かるように祈っていました(笑)。だ から、決まったとの連絡が入ったときはほんとうにうれしかったですね。ただ、僕も監督と一緒でいろいろな人の想いがつまっている映画ですから、そこで改め て気を入れ直したところがあって。皆さんの記憶にしっかりと残るよう、浅野淳一という役を魅力的な人物にしないといけないと気持ちを新たに撮影に向けての 準備に挑みました。
こういう有志の想いのつまった作品は、その期待に応えようとするあまり内輪話で終わってしまうケースある。さらに言うと、シビアな題材ですから、 学校で上映されるような教育映画になりがちで。結局、当事者の心にしか届かないことになってしまうケースが多々あります。ただ、この作品に関しては、当事 者の皆さんの思いを汲みながらも、一般の人の心にもしっかりと届く、外に開かれた映画になったと思います。
福田:そこのバランスをどうするかはひじょうに難しいことでした。山下さんや自閉症を家族に抱えた人ら、いわばの身内の想いにはもちろん応えたいし、自閉症に対して社会が理解を深める作品になるようにする点はないがしろにできない。でも、一方でこの映画の発するメッセージを本当に受け取ってほしいのはそれ以外の人で。それを伝えるためには一般の人に興味を持ってもらえる内容でなくてはならない。で、最終的に、とにかく劇場の大きなスクリーンで見せる、しっかりとした"映画"を作ろうということに僕は行き着きました。
伊藤:実は僕も脚本をいただくまでは、ある意味、守備範囲の限られたというか、限られた人にしか向けられていないというか。まさに小学校の体育館で上映されるような、教育映画を想像していたんですね。でも、脚本をいただいて、監督と実際にお会いして、"これは違う"と。普段、映画館で見るような映画になるんだと思いました。その瞬間、出演者なんですけど"いったいどんな映画になるんだろう?"とワクワクしましたね。

「ぼくはうみがみたくなりました」公式サイト
http://bokuumi.com
東京都写真美術館ホールにて9月18日(金)まで公開中(全国順次公開)
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