09/08: 『ぼくはうみがみたくなりました』福田是久監督・伊藤祐貴 対談:第2回
Category: TalkHolic-Creator
Posted by: HogaHolic

取材・文/水上賢治
第1回:内ではなく、外へと飛び立つ映画を目指して。
第3回:伊藤祐貴、現場にて撮影期間中“浅野淳一”で居続ける
第4回:監督が目指したこと。浅野淳一が現場にもたらしたもの
第5回:作り手として、演じ手として
自閉症の青年と心に喪失感を抱えた少女の交流を温かく綴る本作。自閉症の愛息への想いを込め、父親の山下久仁明が 書き上げた同名小説をもとに、1000名を越す賛同者からの協力や寄付金で映画化が実現。様々な人々の想いを乗せた作品は、障害者を扱った映画が陥りがちな教育的で品行方正なだけの内容に止まらない。弱者を哀れむような悲壮感とも無縁で、ある意味、“自閉症”というテーマに抱きがちな暗いイメージとは違った、大きく扉が解き放たれた快活な作品に仕上がっている。重要なテーマを真摯に受けとめて“全力投球した”と言い切る福田是久監督と主演の伊藤祐貴が作品に懸けた想いを語る。
第2回:“天使”を探し求めた主役オーディション
映画は最愛の人を失った悲しみから立ち直れていない明日美が、自閉症の青年・浅野淳一とその障害のことを知らずに出会い、ふとしたきっかけでドライブへ。偶然の小旅行がスタートして、2人はまた不思議な出会いを重ねていく。そんな中で、淳一が出会った人々にひとつの安らぎを得ていくんですね。ここでやはり重要になってくるのは、浅野淳一という主人公の存在感。この主役に魅力がないと物語はまったく成り立たない。先ほど、淳一役はオーディションで決められたとの話が出ましたが、そこで福田監督はどんな人物を探していたのでしょう。
福田:原作と脚本を読んで、僕が感じたのは、淳一という人物は周囲の人々にちょっとした癒しを与えていく。漠然としたイメージなんですけど、"天使"のような存在に思えたんですね。でも実際のオーディションは、はっきり言ってしまうとまるで逆のイメージの人ばかりだったんですよ。自閉症をネガティブな境遇と受けとめて、その悲しみの痛みを引きずったような演技をする人が多くて。だから、演出部の連中と制作部の連中と頭を抱えていたんです。そんなとき、ひとり"スコーン"と突き抜けた、バカに明るい自閉症児が目の前に現れたんです。しかも明るいだけじゃなくて、自閉症の演技もリアルでずば抜けてうまい。はっきり言ってしまうと、僕が予想していたよりもさらに天使で。この役をこんなに明るく違和感なく演じることができるんだと逆に関心させられたんですね。それが伊藤くん。そのとき、隣に助監督とカメラマンがいたんだけど、同時に目を合わせて"いけるね"とOKサインを出していました。
監督はこうおっしゃっていますが、伊藤くんはどういう気持ちで挑んでいたんですか?
伊藤:前回お話しましたがボランティアスタッフとして、自閉症の方々と時間を持つことができたのですが、そこである兄弟に出会ったんです。この兄弟がめちゃくちゃ明るい。いつもニコニコしている。それから自閉症についていろいろと調べる中で、いわゆる自閉症的な行動は、ちょっと興奮してテンション が上がらないとそうはならないとも知って。それまで僕自身も漠然としたイメージで自閉症をネガティブに捉えていたんですけど、ちょっと違うなと思ったんですね。役作りをしていくうちにその思いはさらに増して。前回、監督もおっしゃっていましたけど、自閉症の方は、ひとつのことにすごく固執して集中する。その感覚って誰にでも一面としてあるんじゃないかなと思ったんですね。そう考えていくと、自閉症は障害というよりも、ひとつの個性に思えてきたんです。だから、オーディションのときは、これはもうひとつの意思表示として"僕は浅野淳一をこういう人物と捉えました"と思い切って出してしまおうと思いました。そうすると自然と明るい雰囲気になったんです。もちろんどうしてもこの役をやりたかったので、ネガティブの入ったアプローチも、いわれたらすぐ出せるように用意はしておいたんですけど。
福田:あとで参考にしたご兄弟のVTRを見せてもらったんですけど、今回の浅野淳一役をやる上で確かに"なるほどな"という人選なんですよ。この オーディションの時点で、伊藤くんは浅野淳一という人物をすでにキャッチしていたと思う。これが実は重要で。つかんでいないとただ単に"自閉症の人を演じ る"というひとつの"型"での演技になってしまう。そうなるとまったくリアルでナチュラルな姿は生まれない。その溝をどうにか役者に説明して埋める作業と いうのは至難の業。僕としてもそんな作業はできれば省きたい。だから淳一役は、役者にほぼ任せたいのが本音で。それこそ僕の意図と伊藤君の考えがシーンご とに違っていたら、いつまでたっても先に進まないし、映画も成立しない。だから、僕は伊藤君がオーディションの時点で浅野淳一を掴んでいたから、安心だっ たんですよ。淳一の演技に関して悩む必要はもうない。その時点で、僕としては"あとは任せた"という感じでした(笑)。
伊藤:役作りに関しては徹底的にやりました。脚本にカレーが好きとあったから、ひたすらカレーを食べたり(笑)。ストイックに貪欲に淳一の人物に迫っていきました。その中で僕が淳一に感じたことと、監督が抱いていた淳一の人物像がいい意味であのオーディションの時点ですでに共通になっていた気が今 はしています。

「ぼくはうみがみたくなりました」公式サイト
http://bokuumi.com
東京都写真美術館ホールにて9月18日(金)まで公開中(全国順次公開)
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