09/17: 『ぼくはうみがみたくなりました』福田是久監督・伊藤祐貴 対談:第4回
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Posted by: HogaHolic

取材・文/水上賢治
第1回:内ではなく、外へと飛び立つ映画を目指して。
第2回:“天使”を探し求めた主役オーディション
第3回:伊藤祐貴、現場にて撮影期間中“浅野淳一”で居続ける
第5回:作り手として、演じ手として
自閉症の青年と心に喪失感を抱えた少女の交流を温かく綴る本作。自閉症の愛息への想いを込め、父親の山下久仁明が 書き上げた同名小説をもとに、1000名を越す賛同者からの協力や寄付金で映画化が実現。様々な人々の想いを乗せた作品は、障害者を扱った映画が陥りがちな教育的で品行方正なだけの内容に止まらない。弱者を哀れむような悲壮感とも無縁で、ある意味、“自閉症”というテーマに抱きがちな暗いイメージとは違った、大きく扉が解き放たれた快活な作品に仕上がっている。重要なテーマを真摯に受けとめて“全力投球した”と言い切る福田是久監督と主演の伊藤祐貴が作品に懸けた想いを語る。
第4回:監督が目指したこと。浅野淳一が現場にもたらしたもの
伊藤さんが現場で淳一で居続けたという話を聞いて思わず納得なんですけど、淳一と相対する役者さんたちのリアクションが"これは果たして演技? それとも素?"と思えるシーンがたくさんあったんですね。で、思ったんです。それこそが自閉症の方を前にしたときの一般の人たちのとるリアクションなのではなかろうかと。
福田:そうなんですよ。淳一は"自由な天使"の存在。はっきり言ってしまうと、次にどんな行動をとるのか読めない。なので台本があるとはいえ、相手役の方に次に何が起こるのか予測してどっしりと構えられたらダメ。淳一と向き合う人すべてが"次はどんな行動をとるのだろう"と常に彼を理解しようとする気持ちでいてくれないといけない。それは自閉症の方を前にしたときの一般の人たちがとるリアルなリアクションだと思うんですね。そこに嘘があってはならない。だから徹底的にリアルさを追求しました。なぜなら、そうすることでこの物語を他人事ではなく自分の身近な話として受けとめてもらえると思ったからです。
そこでひとつ重要だったのが、大塚ちひろさん演じる明日美の存在だったと思います。ある過去を背負い、人生に行き詰まりを感じていた彼女は何の予備知識も持たない中で自閉症の淳一と出会う。いうなれば彼女は、自閉症に対して大まかなイメージはあるけれどもその実情についてはあまり把握できていない世間一般の方々の代表者といっていい。その彼女の存在があったことで、今監督がお話されたように自閉症についてよく知らない人も興味を覚える物語に内容になったと思います。彼女がいることで"障害者のみなさんの声に応える映画"の枠にとどまらない、外に開かれた広がりのある映画になったと思います。それで、ここで見せる大塚さんの反応はほんとうにリアルですね。
福田:伊藤くんがそういう形でいてくれたので、次になにが起こるのかわからず、秋野太作さんや大森暁美さんらほかの役者さん同様に大塚さんも結果的に自然とそうなったんですけどね(笑)。でも、彼女はほんとうにがんばってくれました。伊藤くんも自分の心情を語らない主人公だけど、この明日美も実は語らないヒロインで難役。"自閉症である"ということを事前に知らないで淳一と向き合ったときに抱く様々な感情を言葉ではなくて、自分の内から自然と出てくる所作や仕草で表現しなくてはならない。その上で、僕は大塚さんに、いわゆる演劇スクールで習うような演技を淳一と相対するときに関しては一切排除してもらいたいと注文を出しました。例えば人は驚いたときに、よく芝居では"びっくりした"なんてセリフをつけますよね。でも実際は、そんな言葉は出ないで声が出ず、一瞬固まってしまうと思うんですね。そういう芝居的なことはNGといったんです。これは演技者に対して、演技をしないようにといっているようなもので彼女はたぶん相当悩んだと思います。でも、彼女は見事にやりきってくれました。
伊藤:この前、山の手線に乗っていたら僕の隣に自閉症の方がものすごくニコニコしながら座っていたんですね。そうしたら、その向かい側に座っていた高校生ぐらいの女の子が"この人なんだろう?"みたいな不思議な顔をして座っていて(笑)。それで渋谷についたとき、女の子の横の席が空いたんですけど、その自閉症の方がなぜかそこに移動して座ったんですね。そうしたら、彼女は"えっ、なんで"みたいな感じでびっくりして声もでない。その彼女のリアクションが大塚さん演じる明日美のリアクションとまったく同じで。僕は改めて大塚さんすごいと思いました。
すごいといえば、秋野さんが自閉症について語るあるセリフがありますけど、これはある意味、自閉症を家族にもつ人々の心情を代弁しているというか…。これはやはり映画を語る中で重要なファクターだと思うので、ここに記すことは伏せますけど。このセリフは鮮烈で、また深い実感がこもった言葉でもあると思います。
福田:賛否両論あると思います。
伊藤:そうですね。意義を唱える人も中にはいると思います。
福田:そうだね。それこそ心にグサッと刺さって、我が身に置き換えて、自閉症についていろいろと理解を深めようと思ってくれる人もいるだろけど、逆に"そういう考え方はどうなの?"と疑問を投げかける人もいると思う。でも、僕はそれでいいと思う。議論を交わすことで物事への理解がはじめて深まると思うから。

「ぼくはうみがみたくなりました」公式サイト
http://bokuumi.com
東京都写真美術館ホールにて9月18日(金)まで公開中(全国順次公開)
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