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TOP > INTERVIEW:田中千絵インタビュー
INTERVIEW02

日本統治下からの台湾の歴史を背景に、人生の岐路に立った人々の心の再生を温かな視線で描いた映画『海角七号 君想う、国境の南』。今は亡きエドワード・ヤンに師事したウェイ・ダーション監督の長編デビュー作となる本作は、母国で台湾映画史上最大のヒットとなり、社会現象まで巻き起こし、国内の映画賞を総なめにした。台湾の映画史に残る一作となった本作でヒロインに抜擢されたのは、日本人女優の田中千絵。この映画の大ヒットをきっかけにアジア映画界注目の存在となった彼女に、この映画への出演の経緯、作品にかけた想いを直撃した。

取材・文/水上賢治

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『頭文字[イニシャル]D』を経て、アジアを目指す

今回の台湾映画『海角七号』の出演への経緯をおうかがいしたいですが、台湾に語学留学をしていたそうですね?

田中:はい。中国語をマスターしたくて、8ヶ月の間、台湾で学んでいました。

その中国語をマスターしようと思ったきっかけは?

01田中:『頭文字[イニシャル]D THE MOVIE』の出演が大きな刺激になりました。この映画は皆さんご存知だと思うのですが、主演のジェイ・チョウが台湾で、ショーン・ユーとエディソン・チャン、アンドリュー・ラウ監督が香港、そして鈴木杏さんや私が日本。アジアの力が結集した現場でした。この映画で私が何よりも感動したのは、“言葉の壁を越えてひとつの魅力的な作品を作れる”という事実。その瞬間、アジア映画の可能性をすごく感じたんです。でも、同時に当時、私は中国語がひと言も話せなくて、現場でスタッフや共演者と自分の言葉でうまくコミュニケーションがとれなかった。このことがもどかしくて、悔しくて…。心残りになってしまいました。その撮影後、アンドリュー・ラウ監督からは“中国語を勉強して、アジア映画界にもっとチャレンジしては?”という激励をいただて。その後、ジェイ・チョウのPVへ出演させていただいたんですけど、その現場もすばらしく、“アジアを視野に入れて頑張ってみたい”と思うようになり、語学留学を決心しました。

8ヶ月間は俳優活動を休止したとききました。

田中:仕事を続けながらの勉強になると、中途半端になってしまう気がしたんです。正直、不安はありました。これまで積み重ねてきたキャリアを失う可能性もあるわけですから。留学期間中、同期の女優さんがどんどん有名になっていったり、素敵な作品に出演されたりしているのを知って、“自分の選択は正しかったのか”と悩んだこともあります。今振り返ると、自己との戦いでした。でも、この時間が自分を見つめ直すいい機会にもなりました。例えば、台湾でレニー・ゼルウィガー主演の『ミス・ポター』を見たのですが、このとき、ひとりの観客として映画を楽しめたんです。それまで、日本にいたときは映画を観ても“この女優さんのこの演技がすごい”という風にしか見れない自分がいて。どこか映画を観ることが自分の女優としての宿題みたいになっていたんですね。でも、日本を離れることで映画を映画として楽しむことができた。そのとき、改めて映画のすばらしさに気づき、自分はこの世界で生きていきたいと思いました。

その留学時に今回の映画のオーディションの話が来たそうですね。

田中:語学留学を終え、帰国準備も万全。帰りの航空チケットも手配した(笑)矢先に、今回のお話をきいて。これも何かの縁とオーディションを受けることにしました。当日は、まず、ウェイ・ダーション監督にストーリーを説明されたのですが、こんな経験今までになかったんですけど、全身に鳥肌が立ちました。感動のあまりに。私はどうやら本当に心の底から感動したとき、鳥肌が立つようで(笑)。以来、それが私の感動のバロメーターになっています。それぐらいストーリーがすばらしいと感じましたし、また友子という役にもすごく魅力を感じ、心の中で“絶対にやりたい”と思いました。

では正式なオファーがあったときはどんな気持ちでしたか?

田中:決まったときは喜びよりも驚きでした。やりたい気持ちはやまやまでしたけど、まさか受かるとは思わなかった。素直に信じられなく、間違いじゃないかと思って、2度“えっ”と聞きなおしてしまいました(笑)。

今回演じた友子はモデルでの活躍を目指しているが芽が出ずじまい。中国語ができることから通訳を頼まれることになる。ということで日本語と中国語での演技が求められたわけですが、どう対応したのでしょう?

02田中:語学留学である程度マスターはしていたんですけど、最初は中国語での演技に悩みました。何が1番の苦悩だったかというと、日本語でセリフを言うときよりも、中国語でいうときの方が何か感情が追いついていない感じがして。感情が言葉に乗り切っていない違和感がずっとあったんです。表面的には問題ないのかもしれないけど、自分の中ではすごく違和感があって気持ち悪い。もう、どうしようかと思いました。

その違和感はどうやって解消を?

田中:解消法を編み出しました(笑)。まず、中国語のセリフを日本語に置き換えて、その日本語のセリフを言ってみて“ここ”という感情表現を見つける。そのつかめたところでまた中国語に戻す。この工程をひたすら繰り返していました。

それは地味ですけど、すごく労力を必要とする作業ですね。

田中:そうですね。でも、私としてはこの感情の溝を埋めることに必死でしたから、さほど苦ではなかったですよ。むしろこの経験には感謝しています。なぜなら、この試行錯誤で、演技はセリフを本当に自分の心から出た言葉で表現しないとその感情は伝わらないことに気づいた。今回の作品を通して、演技は心でするものと教わった気がしています。

そうして挑まれた中で、ご自分で1番印象に残っているシーンはどこですか?

田中:いろいろあるんですけど、忘れられないのは酔っ払って主人公・阿嘉の家の前で泣き叫ぶシーンですね。ここは友子が日本から台湾にまできたのに仕事がうまくいかなくて、いろいろな形でたまったストレスがついに爆発する場面。あそこまで感情的になったことはありませんけど私も留学時、言葉がうまく伝わらず落ち込んだり、イライラしてしまったことがある。そういった経験が友子の現状と重なってしまって。あのシーンはカットがかかっても、しばらく感情が収まらなくて、ずっと泣き続けていました。

その阿嘉と友子のドラマがある一方で、本作は日本と台湾の歴史をつなぐ物語がサイドストーリーとしてあって。その中で日本統治下の時代が物語の重要な鍵を握ります。

03田中:台湾がかつて日本の統治下にあったことは教科書で学びましたけど、それ以上のことは知りませんでした。でも留学して、もっと知らなくてはいけないと思いました。というのも、留学時、台湾の80代ぐらいのおじいちゃんやおばあちゃんと知り合う機会があったんですけど、みなさん日本語が流暢。しかも、今の日本人よりもすごくきれいな日本語で話される。また、ある方には“僕は昔、日本人だったんだよ”と言われて、非常に複雑な気持ちになりました。このとき、初めて私は台湾の歴史であり、日本の歴史を肌で感じた気がして、台湾についてもっと興味をもたないといけないと思いました。

そういう意味で、この『海角七号』は日本公開されて映画がもしかしたら完結するのかもしれないと思いました。

田中:そうなんです。私も初めてウェイ監督からこのストーリーをお聞きしたとき、自分が出演するか否か別として、この映画は日本で必ず上映してほしいと思いました。それほど、日本の人に観てほしい内容が多く含まれてもいる。ですから、日本公開が決定したときは、ほんとうにうれしかったです。


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「人の心を届けられる女優になりたい」

これまでのキャリアについて訊きたいのですが、女優を目指されるきっかけは何だったのでしょう?

田中:両親の影響が大きかったと思います。父はメイクアップアーティストのトニー・タナカで、小さいころから芸能界の話を聞いていました。ですから、幼少時から芸能界に入りたい願望がどこかにありましたね。でも、始めは女優じゃなくて歌手を目指していたんですよ(笑)。小学校のとき、ドリカムの音楽に触れて、もう吉田美和さんの大ファンになって。“私も美和さんのような表現者になりたい!”と本気で思っていたんです。ただ、いざ事務所に入って活動を始めたら、たまたまドラマお話をいただいて。お芝居の世界に触れてみたら、その魅力の虜になってしまい、女優へ道を歩みことを決心しました。

そうして始まった女優人生で、どんな俳優を目指されているのでしょう。

田中:ある監督が、すぐ涙が出る女優さんを見て“ロボットみたいで感情がない”とおっしゃられた。私も同感です。役に対する向き合い方は女優さんそれぞれで違うし、何が正解というわけでもないと思います。ただ、なにか高度な技術だけを身につけた女優にはなりたくない。私は脚本を読んで演じる役に感動して、その役と同じ気持ちになって、役に溶け込みたい。その役が映画を通して、ひとりでも多くの人の心にちょっとした幸せを届けられたら、これ以上望むことはありません。“どんな女優になりたいか?”と聞かれたら、その人物の心をしっかりと届けられる女優になりたい。それが目指すところです。

今回は女優活動の休止、語学留学を経ての出演。田中さん自身にとっても新たな一歩を踏み出した作品になったのではないでしょうか? 今回の経験はどういうものになりましたか?

Photo田中:今回の映画は、いままでの自分に一区切りをつけ、新たな気持ちで挑んだ1作になったことは間違いないと思います。だから、いま、新たな気持ちで映画界の扉の前に立っている心境なんです。ある意味、ここからが私の女優としてのスタートだと思っている。ですから、この作品は私をスタートラインに立たせてくれた映画。この映画の大きなテーマのひとつに“夢を諦めない”があると思うんですけど、私もその言葉を胸にアジアで活躍できる女優になる夢に向かってこれから頑張っていきたい。



 
スペーサー   Profile: 田中千絵(たなか・ちえ)
スペーサー
1981年8月17日東京生まれ。高校生の時にスカウトされ『美少女H』(98)でドラマデビュー。映画『ピンポン』(02)、『春の雪』(06)に出演。『頭文字<イニシャル>D THE MOVIE』(05)とアジアのスーパースター、ジェイ・チョウの代表曲「七里香」(04)のMVに出演したことをきっかけに女優として中国語を学ぶ重要性を感じ、06年単身渡台。その縁で本作台湾プレミア上映に際し、ジェイ・チョウが祝辞を寄せ、話題になる。現在台湾を拠点に活躍中。08年末、台湾 Yahoo!による世論調査「2008年台湾マン・オブ・ザ・イヤー」において第三位にランクイン、09年7月ニューズウィーク日本版では「世界が尊敬する日本人100人」に選出。09年、『對不起、我愛?(原題)』『愛到底(原題)』に出演。最新作『愛情36計(原題)』で、中国映画界に進出を果たし、台湾のみならずアジアで幅広く活躍する日本人女優として注目されている。父は、メイクアップアーティストのトニー・タナカ。

「海角七号:君想う、国境の南」公式サイト
http://www.kaikaku7.jp/
   

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