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INTERVIEW04

エロティック系のオリジナルビデオを数多く手がける一方で、『青いうた のど自慢 青春編』など、一般映画でも高い評価を得ている金田敬監督。昨年、オスカーを獲得した『おくりびと』の滝田洋二郎監督をはじめ、現在の日本映画界はピンク映画出身の監督が大活躍している。ただ、現在のシーンにおいて、彼のようにエッチ系と一般作を量産している監督はきわめて珍しい。その金田監督の独自のスタンスを如実に物語る2作品が奇しくも相次いで一般劇場公開に! 両極のフィールドを往来する監督に話を訊いた。

取材・文/水上賢治

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社会派ドラマとエロス系を両立させる理由とは?

滝田洋二郎監督、若松孝二監督、崔洋一監督、根岸吉太郎監督などなど。挙げたらきりがないほど、現在の日本映画界はピンク映画出身の監督が今や重鎮としてシーンのど真ん中で活躍しています。ただ、今も昔も一般映画に進出したところでエッチ系からは卒業される方がほとんど。金田監督のように自由に往来というかエロス系をあくまで基本軸に、一般映画を手がける人はほとんどいない。そう思っていたら、奇しくも金田監督のフィルモグラフィーを実によく現す、社会派ドラマといっていいほどの作品『アンダンテ〜稲の旋律』と、SM系官能映画『奴隷船』が立て続けに公開されることになり、“今こそお話をききたい”と思いました。

「アンダンテ」金田:この両極にあるような作品が同時に公開されている時期が、全国のどこかであると思うんですけど、これは僕もすごくうれしいんですよ。“自分らしい”というか、どこか心の中でずっと“こんなことがあればなぁ”と考えていたことでもありまして。たぶん、多くの方が、同じ監督が手がけているとは思わず、知ったらびっくりしてくれるのではないでしょうか(笑)。

まずはじめに『アンダンテ〜稲の旋律〜』の方からお話を伺いたいのですが、これはどういった形で金田監督のところにお話が来たのでしょう?

金田:よくご一緒させていただいている制作会社の方から、“やってみないか”とお話をいただきました。原作があることや、日本の農業問題、ひきこもりといった社会問題なども映画の主題にあるとの説明があって。その場で僕がイメージしたのはストレートな教育映画。僕自身はオファーがあれば“来るもの拒まず”でいろいろなタイプの映画にチャレンジしたいと考えているので、即座に“やりたい”と思いました。ただ、いわゆる一般的に“教育上よろしくない”とされるエロい作品をやっていますから、“本当に僕でいいのかな?”と思って。大元のプロデューサーの方に直接お会いしたとき、“僕の名前をアマゾンとかで検索したら、えらい破廉恥な作品がいろいろ出てきますけど、それでもいいんですか?”と確認しました(笑)。そうしたら“それ以外でもしっかりした作品も撮っておられるので”と言われて。あとで“やっぱりダメ”はなしですよ(笑)とさらに念を押させていただき、引き受けた感じです。

私自身は旭爪あかねさんの原作は未読なのですが、対人恐怖症とうつ状態でひきこもりに近い生活を送られた彼女自身の体験をもとにした往復書簡の構成で。かなり引きこもり問題や農業問題を深く掘り下げた内容と聞いています。先ほど監督が題材は“教育映画”との話がありましたが、まさにそうなりうる主題で。制作の仕方によっては、農業問題やひきこもり問題のケーススタディを前面にだして、その窮状を訴えるだけの啓蒙またはプロパガンダ映画に陥る可能性があった。でも、この映画は、そこに陥らず、ひじょうに魅力ある女性の再生劇になっていたと思います。だからこそ、間口の広い作品になったような印象を受けたのですが……?

金田:まさにそこは一番苦心したところなんですよ。というのも、原作は日本の食料自給率といった大きな問題から、それこそ農家の嫁不足や親のエゴや子への過度の期待といった、家族間やコミュニティ内で収まるような問題まで様々なテーマがぎっしりつまっている。これを原作通りに、すべて語るのはまず無理なので、どこにポイントを置くのかに頭を悩ませました。その中で、僕としてはこういう様々な日本社会の問題を含んだ内容ではあっても、作品がいわゆるひとつの答えを大手を振って掲げてしまう、啓蒙やプロパガンダに陥ることだけは絶対にごめんだった。さらに言うと、こういうシビアな主題を置く映画は、安全圏で得てしてそういうことに関心のある人が納得してくれる形にしてしまいがち。でも、僕はそういう関心のある人や当事者の方に納得してもらえるよう配慮することも大切ですけど、それ以上にまったく関心のない人たちが観て、何かを感じ取ってもらってこそ価値があると思うんですね。そう考えたときに、食料自給率の現状やひきこもりの実情を声高に訴えるのではなく、まずは人と人の関係性と、その営みをしっかり描いた人間ドラマにしようと思いました。それで主人公の千華とお母さんという母娘の関係を主軸に据えて、そこから様々な問題が浮かびあがって見える形がベストと思ったんです。で、その方が、最終的にはみなさんにも身近な問題として自身の周りにもありうることとして捉えてもらえると思ったんですね。ですから、“間口の広い作品”といっていただけるのはありがたいです。まさにそういう普遍的なドラマにしたかったので。

主人公の千華は母の強い希望で幼いころからピアノを習うが、親の過度の期待に耐えられずに挫折して、登校拒否から大学を中退。いったんは働き出すが、今度は対人恐怖症になり、引きこもり生活に入ってしまう。もはやどこにも自分の居場所がない彼女が、ひょんなことから自然農業に取り組む晋平と出会い、農業に従事することで心の再生を果たしていく。映画では、この彼女の微妙な心の変化が実に丁寧に描かれていました。これを受け手に伝えるのには繊細な演出が必要であるとともに、役者さんには繊細な演技が求められたと思います。今回、主演を務めた新妻聖子さんは映画初出演にして初主演ということですが、監督はどういったことを彼女とは話合われましたか?

「アンダンテ」金田:彼女は『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』など大きな舞台で活躍してきたミュージカル女優。ただ、舞台の経験は豊富ですけど、映画は今回が始めてだったんですね。ですから、その違いに戸惑いがなかったといったら嘘になると思います。これはあくまで僕の感じたことなんですけど、やはり舞台というのは幕が上がったら、下りるまで終わらない。役者さんはその間、気持ちを途切らせることなくステージに立つ。ですから、その戯曲のはじめから終わりまでの過程を自分自身で把握して、全体像をとことん解明して、ある意味、それぞれに物語の入口から出口までを捉えて挑まれると思うんですね。加えて、舞台はライブという場でありますから、自分の演じる人物のそのときの気持ちを身体全体で表現していくところがある。ただ、映画というのはテイクとシーンを重ねてつくっていく。順撮りでない限り、脚本の順番通りに撮ることはない。また、シーンによっては気持ちを必要以上に入れることがいいとは限らないこともある。そこは戸惑ったと思います。例えば、僕のお気に入りのシーンに千華が靴を洗うシーンがある。ここは、後ろ向きだった千華が少しだけ前向きになったかもしれないということを漂わす場面なんですね。ここで重要なのは、本人は自分が前向きになっていることに気づいていないこと。みなさんそうだと思うんですけど、“自分が前向きになったから、これやろう”とかいちいち考えて行動しませんよね(笑)。無意識で、われわれはそういう行動や態度をとっているわけです。映画では、そこを自然に出したい。でも、彼女(新妻)は物語の全体像をつかんで“ここの気持ちはこう”と決め、前向きな気持ちを意識した演技になってしまっていたんですね。でも、何度も舞台で共演している相手役の筧(利夫)さんの舞台と映画での演技の違いを見て、そういう部分に気づいたみたいで。そこからは何の問題もありませんでした。スケールのある女優さんですから、これをきっかけに映画でも活躍してほしいですね。

その筧さんが演じた晋平役ですが、これがある意味、映画の鍵を握る重要人物だったと思います。彼の影響が千華を変え、そこから様々な問題が浮き彫りになってきましたから。でも、この人物が実はすごいユニークで。ある意味、日本人が農家に抱くイメージを覆す。そこを筧さんがデフォルメすることなく、さらっと人情味ある人物として演じたことでこの映画に深みをもたせたと思います。

金田:その通りなんです。僕ら農家の方というと“勤勉で真面目”と勝手にイメージしてしまうんですね。それで“暗い”“しんどい”という仕事のイメージにもなってしまって。でも、それはこちらの勝手な固定観念ですよ。今回、ロケで千葉県の横芝町のいろいろな方にお会いしましたけど、ぜんぜんそんなことない。その一般的な嫌なイメージを払拭したかったんですね。それでちょっと冗談好きで、ちょっとおっちょこちょいが玉に瑕(きず)みたいな人物にして。ただ、これを下手な役者さんがやると単なるお調子者になってしまうんですけど、そこはやっぱり筧さんでしっかりと人間的な魅力と厚みを出してくれました。実は筧さんは僕の大学の1つ先輩で。ですから、“筧先輩ありがとうございます”って感じで、もう足を向けて寝れませんね(笑)。

あと、美しい田園風景が収められていますが、これは撮影が大変だったのでは?

金田:そうですね。今回は春から秋にかけて、まさに稲の成長とともに撮影を進めたのですが、自然には逆らえないと思うことの連続。途中からは“なるようにしかならない”と腹をくくって、そのトラブルも楽しむようにして進めていきました。でも、今振り返ると、自然と大地からいろいろと多くのことを僕自身が教わっていた気がします。


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「メインフィールドはあくまでピンク作品です」

では一転するんですが(笑)、話を『奴隷船』の方に移らせていただきたいと思います。これは愛染恭子さんのエロス作品出演最後の引退作。大役を任された形になりましたね。

「アンダンテ」金田:これまでいろいろとピンク映画はやってきましたけど、愛染さんとご一緒したことはなかったんですよ。ただ、知人を介して、愛染さんご本人とはお付き合いがあったんですね。そういうこともあって、たぶん僕に今回はお鉢が回ってきたと思うんですが、やはりうれしかったですよ。ピンクをやり続けいる人間である僕からすれば、愛染さんは憧れであり、監督として一度は組んでみたいと思っていた大女優さん。もし、これから先に日本の映画史がまとめられたとき、必ず“エロスの女王”として記録されるべき人じゃないですか。その女優さんとご一緒できるわけですから、力が入りました。

原作が稀代のSM作家、団鬼六さんの同名短編小説。愛染さんの役はかつて愛人奴隷で、いまは温泉旅館の女将におさまっている50歳の人妻で、彼女を中心に異常性欲の世界にのめりこんだ男女のアブノーマルな愛が描かれていきます。でも、正直なことをいうと、ストーリーとかもう関係なくて(笑)。これはもう“愛染恭子”を見る映画だと思いました。

金田:それ正解です(笑)。正直なことを僕も言わせてもらうと、愛染さんもそれなりのお年ですから、ハードな濡れ場とか“大丈夫かな”と思ってたんですよ。でも、まったく問題ないどころか、もう圧倒されっぱなしでしたね。愛染さんはもう見せ場を知っていて、“ここポイント”というところで光輝く。さすがでしたね。それは単に裸のシーンだけじゃないんですよ。

道を歩くシーンとか、ふとした佇まいとかとんでもなくゾクッとさせられる瞬間があるんですよね。

金田:そうなんですよ。すごい表情や佇まいが撮れたと思って、何度、撮影の志賀葉一さんと顔を見合わせてしまったことか! これは失礼にあたるんですけど、愛染さんはむちゃくちゃ演技がうまいかというと、そうじゃないと思うんですよ。でも、あの人はなにか内面からとんでもないものが出てくる。それが何かを言葉で表現できないんですけど、そのオーラが人を惹きつけてやまない。だからこそ、30年も裸の世界で第一線を張ってきたんだと思います。もう、お見事ですよ。ほんとうに。とにかくこの映画は愛染さんを観てください。これが見納めですしね。でも、愛染さんのことだから、来年とか復活してやってられる気もするんですけど(笑)

では、今度は監督自身のお話を訊きたいと思うのですが、こういうピンク系の映画と、一般映画を行き来する理由は?

金田:僕は最初からピンク映画の監督になりたかったんですよ。僕が子供のころ、映画はハリウッド超大作や角川映画が中心。宇宙を舞台にした映画やファンタジー映画を観るのは好きでしたけど、こんな世界は自分では思いつかないとずっと思っていた。だから、そのときは監督になりたいなんて考えもしなかったんです。でも、学生時代、ピンク映画を観て。特に高橋伴明監督のファンだったんですけど、どこにでもいるような男と女のちっちゃな物語なんですけど、むちゃくちゃビビッドにこっちに響いてくる。このとき、宇宙とか夢の世界にいっちゃうのは無理だけど、男と女の性愛の話だったら自分でも作れると思ったんですね。そうしたら、そのころ、石井聰亙さんとか長崎俊一さんとか日大の学生からいきなり映画監督になる人が出た。“学生でも映画監督になれるんだ!”となり、これは俺もなれるかもと思ってしまったんです。

それで大好きなピンクの映画の監督に進むことを心に決めた。

金田:ええ。だから、僕にとってメインフィールドはあくまでピンク作品です。でも、悲しいかなピンクの監督だけだと、メシが食えない(笑)。それでいろいろとやるんですね。
ただ、考えは学生のときと実はあまり変わってなくて。結局、僕は男と女の些細な愛の形を描くドラマをやりたいんですね。それにはラブシーンが必要で、ラブシーンはやるならやはり裸で撮りたい。そう考えるとやっぱりピンクが、僕が一番やりたいことになんですね。

これからもあくまでピンクが中心なんですね。でも、金田監督のようなスタンスをとられる方はほんとうに今は少ないです。

  『奴隷船』
愛染恭子のラストヌード作『奴隷船』
(C) 2010 shin-toho. All rights reserved.

金田:まあ、いろいろあって、これは人づてに聞いた話ですけど、ピンクをやっている監督は、大手から声はなかなかかからないそうです。いろいろと事情はあるんでしょうけど、やはり難色を示されることが多いようです。だから、これもあくまで伝え聞いた話ですけど、ある監督は、ピンクのときは名前を変えてやっているとか。その人のことはぜんぜん責めませんけど、僕は絶対にそれだけはしたくない。ピンクが僕の主戦場ですから。実名の“金田敬”で、これからもピンクを仕事の中心に置いていきたいと思っています。

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■好きな映画
『女生きてます』シリーズ
『青春の蹉跌』
『カリフォルニア・ドールズ』

■好きな監督
森崎東
神代辰巳
ロバート・アルドリッチ

■好きな俳優
長門裕之
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■好きな女優
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スペーサー   Profile: 金田敬(かねだ・さとし)
スペーサー
1963年大阪府出身。
大阪芸術大学舞台芸術学科を卒業後、井上梅次、廣木隆一、石川均監督達の助監督として映画・TVで活躍する。1990年に監督に昇進し、単館系映画・Vシネマ作品を監督する。2003年『青いうた のど自慢青春編』を監督し、好評を得る。2007年『愛の言霊』、2008年『春琴抄』と続けて監督作が公開。1月23日より『アンダンテ〜稲の旋律〜』がポレポレ東中野にて公開中のほか、『奴隷船』が3月6日(土)より銀座シネパトスにてロードショー。

『アンダンテ〜稲の旋律』公式サイト
http://andante.symphie.jp/

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『奴隷船』公式サイト
http://www.shin-toho.com/doreisen/
   

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