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INTERVIEW

<住田雅清容疑者。42歳、重度身体障害者。>このセンセーショナルなキャッチコピーとともに、多くの映画ファンに衝撃を与えた柴田剛監督作『おそいひと』。完成からおよそ6年、劇場公開から約2年半の時を越えて、遂にDVDがリリースされた。主演・住田雅清氏の躍動する肉体、World’s end girlfriendによる音楽、そして登場人物の内面に肉迫したモノクロームの映像、これらが渾然一体となった本作は、全国の映画ファンに熱狂的な支持を集めた。現在も精力的に映画を創り続ける柴田監督とともに、改めて『おそいひと』を振り返り、世紀の問題作が如何に誕生したか、そして本作を経た現在の心境に迫った。

取材・文/鈴木タイジ

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世界中を席巻した『おそいひと』現象

公開は2年半ほど前ですが、撮影はいつごろだったんですか?

柴田監督(以下、柴):撮影が始まったのが、2000年ですね。「とんでもない作品に着手してるんだなぁ…」という実感が撮影中からジワジワとあったのを憶えています。撮影がひと段落したときは「やり終えた…」という感慨もありました。それで油断してじゃないですけど、撮影終了直後、車で高速道路を移動中に、スタッフが荷台から記録用紙をすべて落としてしまって…。高速道路に大量の紙がバラバラと落ちていく様子を「あー!!」ってみんなで悲鳴を上げながら眺めていたのを覚えています(笑)。
  『おそいひと』
『おそいひと』
© 2010 Shima Films All Rights Reserved.
撮影の準備を含めると主演の住田さんとは1年半くらいは一緒にいましたね。最初は、自宅から住田さんの家まで、ほぼ毎日往復していたんですけど、移動の時間もかかるので、住田さんの家に住んだ時期もありました。住田さんは嫌がっていた…いや、本当に嫌がってましたね!(笑)。住田さんの家に、ヘルパーさんが食事を作りにくるんですけど、その時、住田さんが僕に「このご飯は私のものですから食べないでください」って(笑)。撮影も終盤にさしかかるころは、映画を作っているのか、住田さんのヘルパーやっているのか、わからなくなることもありましたね。

『おそいひと』は、日本での劇場公開までに多数の海外映画祭でも上映されましたね。

柴:2005年のオランダ・ロッテルダム映画祭と韓国・リアルファンタスティック映画祭には、住田さんと一緒にいきました。そのほかにも、14カ国17の映画祭で上映してもらっています。そこから日本での劇場公開が始まったのが、2007年11月30日の土曜日でしたね。結局、そこから都内では、4ヶ月間上映していました。最初はポレポレ東中野でのレイトショー上映があって、そこにモーニングショーが加わり、昼興行もやりましたね。ポレポレ東中野での上映が終わってからは、渋谷のシアターNでも上映してもらいました。自分の中で公開前はもちろん「ヒットしてほしい」という願いはありましたけど、ここまでの規模になるとは思っていなかったですね。作品の完成から公開まで、かなり時間はかかったけど、『おそいひと』をじっくり世の中に広めていけたので、最終的には作品にとって、その時間がプラスに作用していきましたね。

都内での大ヒットをうけて、地方でもかなりの数の劇場で公開されました。

柴:『おそいひと』を撮影したのが西宮(兵庫県)と大阪だったし、出演者やスタッフ、それから制作に関わってくれた人も関西在住が多かったから、東京での劇場公開が終わって、次は関西で上映しようということになったんですよ。僕自身が東京から京都へ移住して地方公開の準備をしました。でも都内で上映しているときから、地方に住んでいる人たちがブログで「『おそいひと』こっちで上映しないかなぁ…」みたいなことをいっぱい書いてくれていて。それと『おそいひと』の評判が地方の劇場の人たちにも伝わった効果もあって、「上映したい」と声をかけてくれた劇場もありました。そのときは僕の中で、一年間は上映活動に時間を割いてもいいだろうという気持ちもあったし、バンドがツアーをする感じで、自分の作品をもって全国へ行きたかった。関西での上映が具体的に動き出す頃には、他の地方の上映も調整できるようになって、ツアーが組める日程が出たんですよね。結局、日本では東京・大阪・兵庫・京都・愛知・新潟・北海道・石川・広島・岡山・香川・福岡・沖縄で劇場公開して、群馬の高崎映画祭で上映してもらったり、福井や新潟、関西各地の映画館以外の環境でも、上映会を開いてもらったりしました。各地の公開や上映の時には、僕も劇場に行きましたね。

お客さんの反応はいかがでしたか?

柴:ほんといろいろでしたね。いろんな人がいたなぁ…。地方では東京以上にお客さんと話す機会が多かったです。上映後に1時間半も話し込んだりしたこともありました。岡山での上映の時に、お客さんとして中学校と高校の先生が何人も来てくれて、すごく熱心に映画を見てくれていました。つい最近、ポレポレ東中野でアンコール上映をしたんですけど、そのときのお客さんが僕に「公開当時は地方在住だったので、『おそいひと』をやっと見ることができました!」と言ってくれて。地方でも上映したつもりだったんですけど、『おそいひと』=『東京でしか見られない映画』というイメージが付いているのかなぁ…とも思いましたね。そういうことがないように、これからも引き続き上映活動はしていきたいですね。それは『おそいひと』に限らず、自分の作品はすべてそういう活動をしていきたいです。

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柴田剛の頭の中にあった真のエンディング!? 
そして“障害者ファイトクラブ”とは!?


劇場公開の頃から気になっていたんですが、ラストシーンの中で車椅子に乗っている人が何人か映っていますよね?

  『おそいひと』
『おそいひと』
© 2010 Shima Films All Rights Reserved.
柴:実は、本当に撮りたかったエンディングがあったんですよ。どういうエンディングになる予定だったか説明すると、まず他の障害者が、住田の起こした事件のニュースを見て、彼に影響を受けはじめるんです。その中の一人が、全国に点在する同じように影響を受けた障害者に向けて、一斉にメールで『集え!』と集合をかけて、そこで障害者ファイトクラブが結成されるんですよ。みんなで筋トレに励むんだけど、そのうち筋トレに限界を感じて、車イスを改造しようということになって、各々が自分の車イスに好きな武器を付け始める…。そこからエンディングへ繋がるんですけど、最後に住田が警察に逮捕されようとする映像がありますよね、それから映像は、住田の家とそこを包囲している警察の様子に変わる。そしてさらに切り替わって、現場の状況を中継するヘリからの映像になるんですけど、住田を包囲する警察と、さらにそれを包囲している大勢の障害者ファイトクラブがいるんですよ。その中の若いメンバーが「ボウガン打ってみたい」ってボウガンを撃ったら、それが警官の尻にあたって、そこから警察と障害者ファイトクラブの戦闘が始まるというエンディングです。ただ、ヘリを借りる制作費もなかったので、今のエンディングになっています。ラストシーンに映っている車イスの人たちは、障害者ファイトクラブのメンバーです(笑)。手前の方にも、改造車イスのロボットハンドを「ガシャーンガシャーン」と動かしているのがうっすらと見えます(笑)。ラストシーンの撮影の段階では、なんとか本当のエンディングを撮ろうと粘っていたんですけど、お金がないからヘリが借りられなくって…。それでも「映るんじゃないか?」と思って、改造車イスを6機配置しました。撮影に来てくれた障害者の人とヘルパーさんにも、衣装の作業服を着せて出演してもらいました。って気づいていない人がほとんどだと思うんですけど(笑)。

『おそいひと』の続編は撮りたいですか?

柴:いや、『おそいひと』は、今のエンディングで完結しているので、続編を撮りたいとは思わないですね。でも『おそいひと』で描いた“孤独なアンチヒーローが何かをしでかす”というモチーフは、また撮りたいですよ、白黒で。

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劇場公開から2年、ついにDVD化へ…

全国での公開を経て、ついにDVDが発売されました。

柴:購入してくれたお客さんの反応が気になりますよね。DVDになるっていうことは、作品がずっとそこに存在するわけじゃないですか? お茶の間に、『おそいひと』がいるっていう状況はどんな感じなんですかね? お茶の間に住田さんの顔があったり、DVDラックから住田さんの顔が覗いてたり(笑)。

本編に併せて特典映像も収録されていますね?

柴:『おそいひと』の撮影が始まる前に、住田さんを紹介してもらって、初めて対面した時の映像が入っています。2000年の5月か6月だったから、僕が25歳の時ですね。その年齢にして初めて向き合った障害者の社会であり、住田さんともその時点から、一緒に映画を作っていくということで、最初はどう接すればいいのかわからなかったですね。改めて映像を見ると、住田さんはその頃から、僕やスタッフをうまく促してくれているような感じはします。それと、住田さんやスタッフと一緒にロケハンをしたときの映像も入っていますよ。

特典映像には、柴田監督の短編も収録されています。

  柴田 剛

柴:『夢の巷』という短編映画なんですけど、『おそいひと』が完成した後、2006年に制作した作品です。僕の長編3作目の『青空ポンチ』(2008)のプロデューサーが、当時企画した映画祭に、「作品を出さない?」と誘ってくれて。その当時、遊びにいった先で、パンクバンドのライブを記録したり、日常の風景を日記みたいにビデオで記録していたんですよ。それで溜まったDVテープが膨大にあったから、それを時系列で編集して。僕が2004年に行ったRAWLIFEっていうパーティでの<バッドヘッドサングラス>や<ストラグル・フォー・プライド>のライブとかも、最前列でカメラをまわしていて、今となっては貴重な映像になっています。その時期はちょうど『おそいひと』が海外の映画祭で上映されたときだったので、ロッテルダム国際映画祭へ住田さんと一緒に行った時の映像も入っています。

そのほかにも『おそいひと』公開時にいろんな場所で行われた、イベントやパーティの模様も収録されていますね。

柴:東京は公開の1週間前に、代々木公園でゲリラパーティをしたんですけど、その時の模様も一部、特典に入っていますね。そこに出演してくれたメンバーは、僕の友達だったり、その友達から紹介してもらったバンドだったり。あと学生時代、一緒にバンドをやっていた<あらかじめ決められた恋人たちへ>とかも出てくれています。代々木公園でのパーティをサポートしてくれたのが、<アブラハム・クロス>のソウジロウ君でしたね。<アブラハム・クロス>は新作の『堀川中立売』のエンディング曲を提供してくれています。振り返ってみれば、このパーティで生まれた繋がりが、『堀川中立売』に活かされていることに改めて気づきますね。大阪での公開のときは、1週間に1回、ライブイベントをやるっていう企画を考えて。公開期間が4週間だから合計4回、ライブイベントをやったんですけど、さすがにヘトヘトになりましたね。「俺はイベンターじゃない!」と思って(笑)。4週間で合計24バンドに出演してもらいました。


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『おそいひと』から最新作『堀川中立売』へ…

さきほどの音楽の話にも共通しますが、『おそいひと』で生まれた人間関係が、最新作『堀川中立売』に活かされているところはありますか?

柴:『堀川中立売』には、住田さんと『おそいひと』で住田さんのヘルパーを演じてくれた堀田直蔵が出演してくれています。スタッフでは、『おそいひと』で撮影と、制作や演出的なことも含めて最後までつき合ってくれた高倉雅昭が、今回は編集で加わっています。

長編デビュー作『NN-891102』から最新作『堀川中立売』まで、本当にバラエティに富んだ作品を手がけていますね。それでいて柴田剛カラーがあるという。当然といえば当然ですが。

  「堀川中立売」
『堀川中立売』
© 2010 Shima Films All Rights Reserved.

柴:そうですね、ただそれぞれの作品が似ている部分もあって、まず『NN-891102』と『堀川中立売』は作り方が似てると思います。世界観の拡げ方が似ているというか、映画として成立するということの前に、何か違うものを立ち上がらせたいなと考えていました。『青空ポンチ』の場合も、似てるかなぁ…撮影前にしっかりとした脚本がありましたね。だからその中で、いかに見せていくかということを撮影の近藤龍人と一緒に考えました。
一方で、内容的にも、作り方も『NN-891102』の逆だったのが、『おそいひと』だったんですよ。『おそいひと』は敢えてしっかりとした脚本に頼らず、現場には【プロット】だけがあるみたいな状態にして。即興的な演出は『おそいひと』まであんまりやっていなかったので、その点でも挑戦でしたね。

改めて『おそいひと』を振り返ってみていかがですか?

柴:『おそいひと』はとにかく【映画として成立しているのか、していないのか?】というところを心配せずに作っていました。【映画として間違いか間違いじゃないか?】ということで考えると、間違えている(笑)。でも『おそいひと』では、「いかに【間違えて】映画でしか見られないことをやろうか」と考えていたから。そういう意味では、『おそいひと』をやってよかったなと思いますね。例えば、友達同士で好きな映画の話をしていると、ちょっとズレがあるでしょ? それはみんなにそれぞれの見方があるから仕方がないんですけど、自分でも好きな映画を集めてみて、タイトルを羅列してみるんだけど、なんだかストンと腑に落ちるものがなかったんですよ。でも『おそいひと』というのは、自分が見てきた、好きな映画の感覚が、そのままストレートに表現できたなぁと思っています。今にして思えば、自分は間違えていなかったなぁと。でも、日本全国で公開して、そしてDVDにもなったので、『おそいひと』はもう、自分の手を離れて、お客さんの手に渡っているという気持ちです。映画ってそういうものじゃないかなって思いますね。

 
スペーサー   Profile: 柴田剛(しばた・ごう)
スペーサー
1975年、神奈川県生まれ。99年、大阪芸大卒業制作作品として、処女長編『NN-891102』を監督。2000年、ロッテルダム映画祭(オランダ)、Sonar2000(スペイン)他各国の映画祭やフェスティバルに出品後、国内でも劇場公開を果たす。2002年、パンクライブドキュメント『ALL CRUSTIES SPENDING LOUD NIGHT NOISE 2002』を制作。2004年、長編第2作となる『おそいひと』を完成。第5回東京フィルメックスを皮切りに、各国映画祭に出品。2008年、長編第3作『青空ポンチ』を監督。ライブ&PV集「バミューダ★バガボンドDVD」を制作。自作の上映活動や様々な企画、イベントへの参加を経て、『おそいひと』に続きシマフィルムの企画・製作で、京都にて長編第4作『堀川中立売』を完成させ第10回東京フィルメックスのコンペティション部門に正式出品。現在、国内外に向けて公開を準備中。
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DVD『おそいひと』 スペーサー
DVD『おそいひと』
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収録時間:83分(セル版のみ約40分の特典映像を収録)
価格:3,800円(税抜)
株式会社トランスフォーマーより発売中
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『おそいひと』公式サイト
http://osoihito.jp/

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株式会社トランスフォーマー ホームページ
http://www.transformer.co.jp/
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『堀川中立売』ワールドプレミア最速レポート
http://www.holic-mag.com/hogablog.php?blogid=11&itemid=1786
   

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