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INTERVIEW

CM界のトップ・ディレクターとして確固たる地位を築いていた40代半ばで初の劇場映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』を発表。このデビュー作で瞬く間に映画ファンの間でも知られる存在となった吉田大八監督。続く堺雅人を主演に迎えた『クヒオ大佐』も高い評価を受け、日本映画界で彼の存在は確実に大きくなりつつある。そんな彼が今度は昨年から映画化の相次ぐ西原理恵子の人気漫画と向き合った。この3作目『パーマネント野ばら』で映画監督・吉田大八が目指したことは何だったのか? CMから映画へのシフトチェンジのきっかけとは? 遅まきながら映画界に独自のスタンスで切り込んできた彼に話を訊いた。

取材・文/水上賢治

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初の他人企画、でアグレッシブに臨む

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』が本谷有希子さんの戯曲がもとで、前作『クヒオ大佐』は実在人物でこれも原作本がもと。そして今回は西原理恵子さんの漫画の映画化となります。それぞれの原作の向き合い方で違いがあったと思うのですが?

吉田:まず、今回と前2作の決定的な違いがあって。前2作は自分で企画して、それをプロデューサーに持ち込むところから始まったんですが、今回はありがたいことに監督のオファーが来た。初の、他人企画です。

  『鉄男 THE BULLET MAN』
『パーマネント野ばら』
© 2010映画『パーマネント野ばら』製作委員会

それはやはりまったく向き合い方が違いましたか?

吉田:そうですね。少なくともお話をいただいた時点ではまだ責任がない。引き受けたらそう簡単にはいきませんけど、例えばその話を進めるうちにどうしても噛み合わなくなったら、そこで撤退することも原則的にはあり得る。でも、言い出したのが自分だと、なかなか自分から降りるわけにもいかない(笑)。だから、今回は最初から、いろんな意味で気楽だったんです。

前2作は自分が背負った比重が大きかった。

吉田:お金を出しているわけではないので、『背負う』っていうのは大げさですけど…まあ、発起人みたいなものです。前2作は、当たり前ですが、なんとか映画として成立させたい気持ちが強くて、守りの姿勢に入る。企画が潰れないように防御をきっちり固めていく。でも、今回は、失うものはないですから、比較的、攻撃的な気持ちで挑める。サッカーでいえば、後半から“点を取ってこい”と投入されたフォワードのような気分。役割がきっちりと限定されていますから、それだけに全力を注げばいい。映画へ取り組む気分としては、最初の段階だけですけど前2作とちょっと違う。ですから、今回は今までより多少アグレッシブな姿勢で作品に臨めたところがあったかもしれません。

では、改めてになりますが原作とどう向き合われたのでしょう?

吉田:まず、漫画ですから、画があらかじめあるということです。主人公のなおこも周りのキャラクターも、読んでしまった人にはすでに「おなじみの」顔が存在している。しかも、西原さんの画やキャラクターは漫画的なデフォルメも強烈じゃないですか。映画にするということは、これを一回捨てて、新たな顔を獲得しなくてはいけないということだと思うんですね。これはハードル高いですよ。最初はまったく計算が立たないというのが正直な気持ちでした。

画のあるものを映像に移し変える作業というのはやはり難しいですか。

吉田:難しいけど、そのぶんすごくやり甲斐はあります。そのまま実写に置き換えても、たぶん“漫画の方が良かった”で終わると思うんですよ。だから、漫画表現の1番優れたところには頼らないという覚悟をまず持つことにしました。漫画ではなく、映画の力でこの物語をつかみ直す、ということです。それだけの価値がある物語ですから。

具体的にはどういったことをしたのでしょう?

吉田:原作では、なおこのモノローグでエピソードを綴っていきます。それが、西原さんのあの字で書かれていて、しかも鳥肌が立つような見事なフレーズばかりです。じゃあ映画で一体どうするか、となるわけですけど、たとえばモノローグを菅野さんのナレーションに置き換えたとしても、結局そこにこだわっている限りはダメだろうと。やはり、俳優さんがある瞬間に見せる表情とか、力のある風景とかによって、同じレベルの高みを目指すしかないんです。映像の力を信じるというか。

監督自身は原作の魅力をどこに感じたのですか?

吉田:すごく心を動かされたんだけど、どこがツボでそういう気持ちになったのか、自分でもはじめはよくわからなかったんです。前2作は原作を読んですぐに、スタートからフィニッシュまで映画の全体像が一気に見えたところがあったんだけど、今回はそういうイメージがまったく頭に浮かばなかった。でも、わからないからこそやってみたい気持ちになったんですよ。それで、最終的にこの話を受けようと思ったのかもしれない。


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“女性が中心の物語”の苦労と、女優には容赦がない!?

資料の方で「女性が中心の物語だから、男性である自分が撮るに当たってどこを足場にして掘り下げていくべきか迷った」とおっしゃっていますけど、そのことを含めて、わからないところからはじまったところがありますか?

吉田:ええ。今回はなおこの内面が物語の鍵。語る上でどうしても、女性の感情に焦点を当てなくてはならない。もしかしたら僕が意識しすぎなのかもしれないですけど、男性として女性の気持ちを勝手にわかったふりをするほど痛いことは無いですし。それらしく振る舞っても、間違いなく見透かされると思って。本当にどうしようか困ったんです。

でも、『腑抜け…』はもとより『クヒオ大佐』も実は女性が主軸にあった気がするので、その監督の発言はちょっと意外なのですが?

吉田:前2作では、登場する女性を、真正面から女性としては捉えていないんですよ。例えば『腑抜け…』の澄伽のことを、僕は『田舎で鬱屈した若者』と考えて、自分が経験した感情を拠りどころに近づくことができた。『クヒオ大佐』では、まずクヒオという極端な存在を真ん中に置いてみて、それに対する女性たちのリアクションを通じて、自然とそこに気持ちが乗るように仕組んでいった。でも、今回は『女であること』自体が重要なのは明らかだったので、そこから逃げるわけにはいかないと思いました。

では、どこを足場に女心(笑)を掘り下げていったのでしょう?

  『鉄男 THE BULLET MAN』
『パーマネント野ばら』
© 2010映画『パーマネント野ばら』製作委員会

吉田:最終的には子供の視点しかなかった。なおこの娘である、ももの視点ですね。なおこは夫と別れて、地元に戻って過ごしているのだけれど、カシマという男に恋をしている。これを、ももはどう受け止めるのか? 自分にも子供時代があるわけですから、その点に関してだけは思いをめぐらすことができる。この視点に立てたことで、ようやくそれ以外の人間関係も、感情的につかめるような気がしてきました。まあ、一種の儀式ですよね。自分自身を納得させるための。

なるほど。そこにつながるのかもしれないのですが個人的に、ももの視点というのが実は重要と思いました。彼女の視点があることで、間口が広がったとでもいいましょうか。女性が主人公で恋愛が絡むと、男性はちょっと入っていけないケースが多々あるんですけど、この作品は女心の映画だけど、男も入っていけるというか、そういう広がりがあると思いました。少し話は変わるのですが、吉田監督がキャスティングに求めることはありますか?

吉田:ほとんどのお客さんは“菅野美穂が出ている映画”という知識を持って観に来るのでしょうけど、映画が始まってすぐ、“菅野美穂”を忘れて“なおこ”とともに映画の中の時間を生きられるかどうか。そのイメージを持てるかどうかに、キャスティングはかかっています。また、現場ではそこまで持っていくのが監督の役目だと思うんです。映画の登場人物というのは役の大小に関わらず、それぐらい魅力的でなくてはならないとも思う。逆を言えば役者さんにとって100%入り込める役、僕はそれを用意しなくてはならないということ。それぐらいの役でないと映画の中に存在する意味がない。で、なぜ、そこまでこだわるかというと、その役者さんのいい顔を見たいからなんですよね、結局は。その役者さんの魅力があふれる表情が欲しくて、それに見合う役を用意する。そして、その役者さんに100%、役に打ち込んでもらう。それが重要だと思っています。

だからですかね。吉田監督の演出は女優さんに容赦ない印象があるのですが?

吉田:そうですか?

例えば『腑抜け…』の永作博美さんの突き飛ばされた際の転がり方とか、今回だったら小池栄子さんの血のりの量とか、池脇千鶴さんのラーメンのかぶり方とか、“なにをそこまでしなくても”というぐらいですよ(笑)。

吉田:だって、誰でも、極端なものを見てみたいじゃないですか。例えばある女優さんの、おなじみの得意技を見たとしても、確認しました、はい終わり、っていう気がするんですよ。でも観る側もついそれを期待しがちだから、永作さんにしても、小池さんにしても、池脇さんにしても最初にああいった形でぶちかましておくと、“これはこれまでの○○さんじゃない”という覚悟と期待が観客のなかに育つ気がするんです。そこを意識しているところはありますね。だって、男優も女優も、そもそも自分以外の人間になりたいと思っていなければ、こういう仕事を選んでないですよね。だから、まだやったことないことにトライすることを歓迎する人たちだと思ってるんですよ。それを信じて疑いませんから(笑)、僕としては彼ら彼女らにいろいろ挑戦してもらうことに躊躇はありませんね。

では、そのキャストを含めたお話をききたいと思います。映画は前半、菅野さん演じる離婚して子供をつれて地元の港町に戻ったなおこを主軸にしながら、彼女の親友である男運のない幼なじみたちのエピソードが主に語られていく。そして、後半は一転して、なおこ自身の恋に隠された秘密が明かされる。ある意味、前半と後半でまったく違う表情をもった映画で。ずっと主軸であり続ける菅野さんは特に、前半と後半で質の違う演技が求められたと思います。

『パーマネント野ばら』吉田:確かにそうです。前半は周囲にいる強烈なキャラクターたちが話を引っぱるので、主人公のなおこはその横をなんとなく漂っているように見える。たぶん俳優の生理としては、前半のなおこもある程度一緒に弾けたかったかもしれない。でも、そこは菅野さんにグッとこらえてもらいました。それがなおこと恋人カシマとの関係に物語の比重が置かれたところから大きく変化する。その瞬間から、菅野さんの顔が豹変した。これは鳥肌ものでしたね。まさに恋する女性の顔となっていた。その顔だけで映画が成立するといってもいいくらい。あの一瞬の表情は今も目に焼きついています。

そのなおこが恋するカシマ役は江口洋介さん。何でも吉田監督が江口さんの出演を熱望したそうですが、この役も実はものすごい難しい。映画の結末につながることなので明かせませんけど、その結末を考えれば考えるほど、この役をどういう風に存在してもらうかは難しい。

吉田:そうなんです。でも、だからこそ、確かな存在感のある人に演じてほしかった。何があってもなおこの隣に居てくれて、支えになってくれるような人。なおこの心の底の深さが、より感じられるようになればという思いでした。


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サイクル、スピード感が合ったCM業界と、
だんだん思えてきた“映画もいいかも”の気持ち


ここからは少しこれまでのキャリアについて聞きたいと思うのですが、まずCM演出家としてキャリアをスタートさせますよね?

吉田:ええ。学生時代から自主映画を作っていて、映画業界のどこかにもぐりこめればと漠然と考えて、PFFにも応募したんですけど全然ダメで(笑)。CM業界に入った先輩に話を聞いているうちに、たまたま入ったのが今の会社で。そこの社長が映画を作っていたこともあって、実は自主映画を作っていた頃とあまりギャップを感じないまま、ずっとCMを作り続けていました。

では、映画監督に挫折してCMディレクターになった人がよくいいがちな“俺、本当は映画作りたいんだよなぁ”なんてこともなかった。

吉田:まったくなかったですね。むしろ、そのサイクルのスピードや制作スタイルが自分に向いていると思いました。CMのいいところは、パッと世に出て、パッと引き上げてしまうところ。人の肩を後ろから叩いて、ダッシュで逃げて、叩かれた人が振り向くともうそこには誰もいない。世の中に匿名でいたずらしているようなところが大好きで(笑)。まあ、最近はそれほど牧歌的な雰囲気でもなくなってきましたけど。とにかく、自分に合っている仕事だと思ってました。

では、なぜ映画に転じることになったのでしょう。これは失礼な発言になるのですが、デビュー作『腑抜け…』を発表したときは40代半ばを迎えていたわけで、デビューとしては早くない。また、CMディレクターとしてこれだけの実績をつまれていらっしゃるので、この業界で生き続ける道もあったと思います。

『パーマネント野ばら』吉田: CMの延長線上でショート・フィルムの依頼が続いた時期があって、だんだん“映画もいいかも”という気分になってきた。その頃、『腑抜け…』の原作に出会って、読んだ瞬間 “この物語が映画になる道が見えた!”と、啓示のようなものが降りて来たんです(笑)。普通は、こういう思いつきが実現することなんてめったにないだろうと思っていたら、なぜかこの話に次々と乗ってくれる人が出現して。あれよあれよという間に映画化が決まっていきました。だから、はっきりと映画監督に転じようと思ったタイミングがないんですよ。偶然と勢いが重なって、今に至っている感じです。CMもまだ続けてますし。

では、今、改めて向き合ってみて“映画”をどう感じていますか?

吉田:20年余り、CMで好きなことをしてきたつもりですけど、それでも抑えていた部分が無意識に溜まった結果、その高圧の勢いで2本目までは作ったような気がしています。で、ほぼ出し切った後の『パーマネント野ばら』に関しては、そこから一度自分がリセットできた感じで。改めてじっくりと映画と向き合って、格闘して作り上げていった感覚がある。映画自体も前2作とはちょっと色合いの違う作品になったと思う。ですから、この作品が皆さんにどう受け止められるのかが、すごく自分にとっては重要です。

吉田大八監督 Recommend

■好きな映画
『キング・オブ・コメディ』
『仁義なき戦い』
『タッカー』

■好きな監督
デヴィッド・クローネンバーグ
ミヒャエル・ハネケ
ポール・トーマス・アンダーソン

■好きな俳優
成田三樹夫
トム・クルーズ
ダニエル・デイ=ルイス

■好きな女優
ロミー・シュナイダー
グイ・ルンメイ
ニコール・キッドマン



 
スペーサー   Profile: 吉田大八(よしだ・だいはち)
スペーサー
1963年鹿児島県出身。早稲田大学卒業後、CMディレクターとしてキャリアを積む。現在までに数百本のテレビCMを演出し、数多くの広告賞を受賞。またPV、TVドラマの演出でも高い評価を得る。2007年に『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画デビューし、『腑抜け〜』はカンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待される。2009年の『クヒオ大佐』に続く、長編劇場作品3作目となる『パーマネント野ばら』は5月22日(土)、新宿ピカデリー、シネセゾン渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほかにて全国ロードショー。
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『パーマネント野ばら』公式サイト
http://www.nobara.jp

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(C)2010映画『パーマネント野ばら』製作委員会
   

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