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川村元気インタビュー

2005年に弱冠26歳で企画・プロデュースした『電車男』が興行収入37億円の大ヒットを記録、社会現象にまで発展した。その後も『陰日向に咲く』『デトロイト・メタル・シティ』とヒットを連発。今年6月に公開された『告白』は、センセーショナルな宣伝と口コミで広がり、38億円のヒットとなった。続く『悪人』も、「モントリオール世界映画祭」にて、深津絵里が最優秀女優賞を受賞するなど、話題を独占した。わずか31歳、映画業界の常識を打ち破り続ける若きプロデューサーは、「オトナとコドモとの間にいる若者の心に、爪跡を残す映画を作っていきたい」という。東宝/川村元気プロデューサーに、HogaHolic が独占インタビューを行った。

取材・文/植山英美

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『告白』『悪人』にヒットの勝算はあったのか?

――以前「『告白』の評価が、ある世代を境に真ふたつに割れた」と話しておられましたが、海外での評価は、年齢や人種などでぶれる事がなく、大絶賛でした。

川村:確かに海外在住者や映画祭などでは、概ね好評な印象を受けます。若い人や、海外の評価は良く、反対に日本独特の、日本映画と外国映画を分けて批評するという文脈があって、そこでは受け入れづらい部分はあったのでしょう。『告白』は伝統をばさっと断ち切っているので。

――各映画祭でもソールドアウトの人気でしたし、ニューヨークタイムズなどの米国の著名新聞や雑誌でも高く評価されました。海外でずばぬけて評価が高いのは、どうしてなのでしょう。

  『告白』
『告白』
(C)2010「告白」製作委員会
川村:『告白』が、物議をかもしたのは間違いないと思います。今までは、韓国映画に刺激的な映画作りを先行されていましたので、そこが悔しいというモチベーションで、この映画を企画した部分がありました。『チェイサー』や『殺人の追憶』は、あそこまで人間の悪意や残虐性で勝負して、面白くて、韓国内でヒットもして、しかも海外でも評価された。そういう作品をやっていかないと、日本映画は面白くならないのではないかという思いで『告白』を企画したので、嬉しいです。

――海外では『悪人』の方が、評価が分かれたように思いました。

川村:そうかもしれません。『告白』が日本映画の文脈とは違う、プログレッシブな映画だとしたら、『悪人』は日本映画のクラシックな要素を色濃く持っている映画だと思います。ものすごくクラシックな『悪人』と、ものすごくプログレッシブな『告白』の極端な2本をやれたのはとてもいい経験になりました。「モントリオール世界映画祭」のようなクラシックな作品を好む映画祭で、『悪人』が評価されたのは、嬉しく思います。

――モントリオールでは、観客の年齢層が、高かったですね。

川村:『悪人』が目指した映画のモデルのひとつとして、クリント・イーストウッド監督の作品がありました。演出はオーソドックスで、骨太な人間ドラマがあってという、『ミスティック・リバー』のような映画を目指した部分があって。ですので、年齢の高い、映画好きのモントリオールの方々からは、よい評価をもらえたのかもしれません。日本でも年齢層の高い評論家には『悪人』の評価が高く、若い映画人は『告白』を支持してくれた印象があります。自分の映画のあり方として、今年は「悪意」がテーマだったのですが、どちらの作品が良いとか悪いとかではなく、観客にとって選択する幅があるというのが、一番大事なことだと思っていました。

――個人的な意見なのですが、『悪人』を観て大泣きしましたが、『告白』では泣かなかったです。

  『悪人』
『悪人』
(C)2010「悪人」製作委員会
川村:『告白』と『悪人』との大きな違いは、ラストですね。表現手法はそれぞれ違って、作家性によるところなのですが、どちらも人間の悪意ということを入り口にしています。ただ、ゴールが真逆ですよね。『告白』は世の中に溢れている【悪】に打ち勝つには、より深い【悪】を持つしかないと訴える。ただ、それでいいんだろうかという気持ちが突き刺さって残る。逆に『悪人』は、それでも人間は、最後にかすかな【善意】にすがって生きるしかないと訴える。スタートは同じなのに、ゴールは真逆なんです。どちらが正しいかということではなく、どちらのテーマに響くか、ということだと思います。それは、観客がジャッジするしかないんです。どちらも映画の中で結論を出していないので。「これでよかったんだろうか」と、ずっと考えてしまうとは思います。でも、それはすごく豊かな事だと思うんですよね。エンタテインメントの王道としてはきちんと映画の中でテーマが結論づけられているべきだとは思います。ただ、僕自身が影響受けた映画っていうのは、スタンリー・キューブリックだったり、アルフレッド・ヒッチコックだったり、結論不明がゆえに暫らく引きずる作品なんです。『セブン』のように、最後のシーンが忘れられない、どう消化したらいいかわからない、という映画の方が残っているんです。『告白』でも『悪人』でも、そこにこだわりました。映画の見方が一方方向にならない、みんなが同じ感情にならない。何でもそうですが、人から教えられたものを受け入れるより、自分で発見してつかんだものの方が、残るし、大きいじゃないですか。そういう映画になるといいなあ、と思っていました。

――『告白』『悪人』のヒットの勝算というのはあったのでしょうか。

川村:明確な勝算は、なかったかもしれないですね。企画した当時は「笑って、泣けて、ハッピーエンド」がいわゆるヒットの主流だったので。ただ、甘いものばっかり食べていたら、辛いものも食べたくなるのと同じように。エンタテインメントでも、そういう心理がいつか働くんじゃないかな、という予感のようなものはありました。

――それは2008年くらいの事でしょうか?

川村:その頃僕が企画した『デトロイト・メタル・シティ』と、中島哲也監督の『パコと魔法の絵本』がほぼ同時公開だったんですが、その時の興行収入がほぼ同じだったんです。どちらも「笑って、泣けて、ハッピーエンド」というのが売りで。そこで、ある種やりきったという思いがあって。その時に、「バッドエンド」というか、人間の残酷性というテーマでも、エンタテインメントを作れるんじゃないか、という気分はあったと思います。

――それは社会的にですか、映画的にですか?

川村:映画の場合、企画してから公開するまで1年とか2年かかりますので、映画プロデューサーは、想像力が必要だと思います。その時の世の中のムードにハマるものをいかに提案できるか、が大事で。完全に寄りそってもいけませんし、(観客に)自らチョイスした、と思っていただきたいですし。リーマンショック以降、世の中には暗いニュースばかりだったので、去年、一昨年まではコメディでいきたいというムードはあったはずでしたが、いつまでも笑っててもいいのか、このどうしようもない閉塞感や不安感にどう向きあっていけばいいのか、と疑問に思ってくるのが2010年だったんじゃないかな、と思うんです。来年以降は、また少し違うムードになってくるとは思いますが。

――そういうアイデアは、どう裏づけを取るんでしょうか。

川村:最近の海外での動向というのがありまして、僕の中では『殺人の追憶』という作品が最近観たアジア映画では一番すごいなと思ったんですけど、人間の不安感とか、悪意とかを見事に描いていて。でも渋い映画ですよね。それなのに韓国では大ヒットしているんですよ。『チェイサー』も当っているじゃないですか。それがすごいショックで。そういうものを欲する気持ちがあるんだなと。それは「韓国だから」というわけじゃないはず、と思っていたら、アメリカでも『ダークナイト』が大ヒットして。あれもUSAの病を凝縮したような話です。あれが当たるんなら、日本でもいけるはずだと。日本の作り手が上手く送り出せていなかっただけじゃないかと、仮説を立てたんです。

――結果大成功だったわけです。海外配給は何カ国くらい決まったのでしょうか?

川村:『告白』は、アジアでは台湾、韓国、香港、マカオ。イギリスやドイツも決まり、北米からもオファーがきています。『悪人』もアジアやヨーロッパからオファーがきています。北米はハードルが高い部分があって…。

――字幕が読めない、という問題があるんですね(笑)。

川村:吹き替えでもなんでも僕は観てもらえればいいんですけどね。

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鎖国主義的な文化”を肯定するという発想

――『電車男』も、米国でかなり知られた存在になっています。

 
川村:僕がプロデューサーとしてデビューした作品ですので嬉しいですね。企画した当時僕は25歳で、その頃は30代、40代のプロデューサーが圧倒的にすごくて、どんどんいい監督とかいい原作とか取られちゃうんですよ。漁師で言えば、すごくでかいエンジンを積んだボートで、どんどん先に行っちゃうようなもので、そこで力不足の僕は手漕ぎホートで行くもんですから、間に合わないんですよ(笑)。僕がそこで出来た事っていうのは、一人で誰も行っていない場所に行って、大きな魚を見つけること。当時はウェブの話を映画にするっていうアイデアはなかったので、ウェブに注目していたら『電車男』に出会えたんです。『電車男』は、海外からリメイクの話が30件近くも来ていまして、米国ではDVDにもなっていますし、著名な監督や俳優などからも直接手紙を頂いたりと、注目してもらっていると思います。

――どのあたりが、米国に受けたのでしょう。

川村:日本人じゃないと見つけられないと世界があるんじゃないでしょうか。その部分はチャーミングなんじゃないかと。それはやはり閉じている部分の文化で、「2ちゃんねる」なんかも鎖国的な発想だったので、そこに面白い物語が生まれたわけですし。『告白』でも、日本の中学校はすごく規制のある世界なので、中から腐ってきちゃった部分があって、そこが悪い意味でのチャーミングさになったんじゃないかと思います。キリスト教的な世界観では、ローティーンが神聖なもの、という意識があるようなので、『告白』でアメリカ人に言われたのが、「お前は中学生になにか恨みでもあるのか」って(笑)。「ここまで悪いもんじゃないだろう」と。アメリカでも「コロンバイン高校事件」なんかが起きているのに(笑)。

――そういったアイデアの源は?

川村:僕は年に1回バックパッカーとして一人旅をしているんですね。その時いつも感じるのは、日本のカルチャー感というのは、面白いなと。その魅力の秘密は閉じている事じゃないかと。鎖国主義的な文化を肯定した方が良いものがつくれるんじゃないかという発想に切り替わりました。世界に届ける時に言語の問題があるので、基本的に日本人は不利です。ただ日本人で、日本語の世界にしか見えないものってあるんじゃないかなと。アニメーションの『AKIRA』とか、『攻殻機動隊』なんかはそこが成功している部分で、実写ならば閉じているところから見えてくるテーマの発見が重要なんじゃないかと思ったんです。

――外から日本が見えてくる、という部分があるのかもしれませんね。

川村:日本のよさを確認するために、海外に行っているのかもしれません。外国の音楽とかにも興味がありましたので、ニューヨーク、ロンドン、キューバ、チベットなど、いろいろな場所に行きましたが、結局日本のよさを余計に感じることになりました。最近は海外のプロデューサーや監督に会う機会が多いのですが、彼らが「面白い」と思う事との差はほとんどないと思います。ただ、日本人の僕が持っている、閉じたカルチャー感に外国の方は興味を持っている印象があります。

――日本人と海外の人では、「興味を持つものが違う」という認識が昔からありますが、そうではないと思います。

川村:そうですね。「日本人製作者は海外に出て行かない」とか、「日本人は海外向けの映画を作らない」とか、すごくナンセンスな話だと思います。ハリウッドが見つけられないような世界をやるというのは、作り手のプライドであり、唯一の勝算なんじゃないでしょうか。だからスーパードメスティックであることを意識しています。それと同時に、ある種の普遍性も意識しています。『電車男』のときもロマンティック・コメディとしてあくまで王道に、ビリー・ワイルダーみたいな話にしたいと言い続けました。相談相手がデジタルの世界だったというだけで。

――『告白』もある種閉じた世界感ですね。

川村:先ほども言いましたがキリスト教世界では、ローティーンは神聖なものであるという幻想がまだ残っている気がします。一方日本では宗教的なしばりがない分ローティーンの悪意の顕在化というものを、自由に表現できたのかもしれません。ただ、ローティーンに対する潜在的な不安感というものはきっと世界中共通のもので、そこが響いたのではないかと思っています。

――『悪人』の閉塞感も、どんな都会ででもあるものですよね。

  『悪人』
『悪人』
(C)2010「悪人」製作委員会
川村:東京でもニューヨークでも、ロンドンでも同じような閉塞感はあるはず。そこは李相日監督のすばらしさで、都市圏に住んでいる人間が上から目線で「これはローカルで起きた悲劇だから」「九州は閉塞しているから起きた事件だよ」と描くべきではないと。「生きてるのか死んでるのかも、今までわからなかった」というセリフがあるんですけど、孤独で行き場のない気持って、ニューヨークに住んでいようが、東京に住んでいようが、世界中どこででもありえる。最近観て感動した映画『フローズン・リバー』でもすごく似たようなテーマを扱っているなと思いました。

――スーパードメスティックとドメスティックのさじ加減は、どの辺りにあるのでしょう。

川村:寄り添い方だと思います。ドメスティックに寄り添うという意味は、今の日本の観客がわかりやすく求めているものに応える事だと思うんです。ただ、僕は寄り添う一歩手前に行きたいんです。「今こういうのが受けています、だからこういう作品を作ります」という事じゃなくて、「今こういうものが受けているけど、この次はこういうムードのものが観たいんじゃないか」と提案したいという気持ちがあって。だから一歩先を提案するという意味で、スーパーをつける。ただ、そのさじ加減を失敗すると、誰にも受けない映画になってしまう。どこかで、【勘】で勝負している部分はあると思います。

――【勘】が鈍るという事は?

川村:あるでしょうね・・・。だから一人で旅行をしているのは、ゼロにリセットしたいからなんです。人間にとって一番怖いのは、成功体験だと思うんですね。一度成功すると、同じチームで、同じ事をやりたくなってしまう。先ほどの魚の例で言えば、一度大きな魚が釣れると、どうしてもそこに船を出したがるんですけど、そこには魚はもういないんです。感覚ってそういう事だと思うんですね。ただ人間はなかなか自己否定しにくい生き物なので、あえて僻地に行って、日本にいたら絶対体験しないような酷い目に遭ってリセットするんです(笑)。

――最近はどちらで酷い目に遭われました(笑)?

川村:中国の山奥の、発展の恩恵を何も受けていない、一番貧しい省に行きました、少数民族のエリアで。当然日本人なんていないし、英語も北京語も通じないんですよ。まったく言語が通じないような、どうしようもない状況に置かれた時に、それでも必死にコミュニケーションを取ろうとすると、自分の常識やルールが破壊されて、ゼロからそこの都市に馴染もうとするリセットされた自分を発見します。あと当初の目的として中国の地方都市は貧しいんだろう、中国の暗部を見よう、と意識していても、そんなステレオタイプを超越するものすごいリアリティを目の当たりにしたりするんです。メタモルフォーゼしてしまった街の高層ビルはがらんどうで、ストリートには酷い身なりの人がリヤカー引いて、サツマイモを売ったり、みかんを売ったりしているんですよ。ひずみが見える。そこでホテルに帰って、飲み物を買いに地下に行ってみたら、500人くらいの若者が、それぞれPCに向かってネットゲームをやっているんです。それは恐ろしい光景でした。上を見るとガラガラの高層ビルがあって、地上を見ると貧しい農家の少数民族が居て、地下を見ると電脳空間に逃げ込んでいる若者が居るみたいな、3重構造に街が成っていて、そういうものを見ると自分の価値観だとか、新聞やTVなどで見た話だとかが、壊れるんですね。で、ただそれが「中国だから起きている」とは思わない。それは世界中どこでも起きてる事じゃないか、と思って日本に帰って、それを映画に反映させるというか。そういった経験は、自分のテーマ作りに役立っています。

――中国の経済はどんどん発展し、無視できない存在になったわけですが、劇場数も将来日本の何十倍かになっていくと言われていますが、ビジネスとしてどうアプローチされますか?

  『告白』
『告白』
(C)2010「告白」製作委員会
川村:そうですね。その500人の人間が地下にいるっていうのは、規模的には日本の2ちゃんねるで起きている事が、一箇所で成立しているんですからね。「しゃべればいいじゃん、隣の人と(笑)」と思うんですけど。そこでまた大きな塊となって、ウェブどうしでつながっているんですよ。それが中国各地で起こっているという。そういう場所では『電車男』のような話はすごくわかりやすいんじゃないか、と思いますし、『告白』のような犯罪を起こしてしまうものは、すごくリアリティがあるのでは、と思います。ずーっと人を殺すゲームをしているんですよね、一晩中。何が起きても不思議はないと思いましたね。僕には『レッドクリフ』みたいな映画は作れないですけど(笑)、今の中国で起こっている事にきちんと向き合っていれば、中国の若者が受け入れてくれるものが作れるのではと思っています。

――やはり若者に向けて、でしょうか。

川村:僕がいつも考えている事なんですが、「20歳に向けて映画を作る」という。やっぱり思春期に観た映画っていうのは、その人の人生に大きな影響を与えますし、一生残りますよね。僕も10代のときに観た『時計じかけのオレンジ』とか『サイコ』は自分の中で大きく残っていますし。10代の時とか20代の時とか、オトナとコドモの間の時期に観たものが、1番影響を与えますよね。僕はそういう観客の心に残る映画を作っていきたいと思っています。ですので、中国の20歳の子たちに、何が刺さるんだろう、と考えるのも楽しいですね。

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「才能ある監督に対して響き合える能力を持っていて
その才能を倍化できるプロデューサーでありたい」


――次の企画として興味があるのは?

川村:アニメーションです。僕が生まれて初めて観た映画は『E.T.』で、自転車が飛ぶシーンで凄く感動して。この前にも観たんですけど、同じところで感動して。感動するところが、3歳、20歳、30歳と一緒なんですよね。そういう事に日本映画でチャレンジできるのは、アニメーションなのではと。ある種初めて20歳以外に向けて映画を作りたいと思ったんですね。3歳と30歳に同じ感動を与える映画。そういった強度のある映画に興味を持っています。あとはアニメだと吹き替えによって言語の壁を乗り越えられますので、自分の持っているアイデアを海外に試すチャンスも増えるのでは、と思っています。

 
『friends もののけ島のナキ』

最新プロデュース作の3DCG『friends もののけ島のナキ』がインタビュー後の12/7に発表。極めて日本的な童話を原作に、ミニチュアの実写映像の背景に、CGのキャラクターを乗せ、独自の映像世界を構築している。アメリカでは主流の“プレスコ”(音やセリフを先に収録する手法)を用いた実写的なキャラクター演出法を採用しているのも特徴

監督:山崎貴 八木竜一
原案:浜田広介「泣いた赤おに」
キャスト:香取慎吾 山寺宏一 阿部サダヲ

2011年12月 全国東宝系公開
 


(C)2011「friends」製作委員会
 


――そのテーマとは。

川村:ファミリーでしょうか。家族っていう事が次のテーマなのかな、と。「外国の事がよくわからない」という時代があって、「自分の国の事が良くわからない」という時代があって、「隣の家の事がよくわからない」になって、「学校で隣の席に座っている人、会社で隣の席に座っている人」になって、今は家族の事もわからなくなっているような気がしていて。自分の親とか、自分の子供とかが、何考えているかわからない。そこが崩れると本当に人間としての拠り所がなくなってしまう。そういう状況に対して映画としての提案をしたいな、と。不安の元凶だったりとか、希望だったりとか。観ている人はそういうテーマに対しては無意識で観て、観終わった後にそういう気持ちになれる作品を作りたいなと、思っています。

――刺激を受けている監督など、製作者がいましたら。

川村:僕はまだまだ映画には破壊する余地というのが残っていると思っていて。やっぱりS・キューブリックや、A・ヒッチコックなど、破壊してきた人たちに憧れています。ハリウッドでも、ポール・トーマス・アンダーソンや、クリストファー・ノーランの破壊っぷりを見ていて、刺激を受けますし。「映画らしさ」に対して、どれだけ挑戦的でいられるか、ということは大事だと思っています。

――『インセプション』は世界的に、よくあれだけヒットしましたよね。

川村:「話のつじつまが合わなくてはいけない」という、ハリウッドのストーリー主義的な所を破壊してくれましたよね。つじつま合わせに終始することで、失うものもいっぱいある。『ダークナイト』だってつじつま合ってないですが、忘れさせる物量がある(笑)。映画の面白さって、つじつまが合っているという事とか、映画の文法に沿っているかどうかなのか、という事ですよね。それに対しては挑戦的でありたいな、と思います。一方でクラシックな映画の良さというのもあると思うんですよ。フィルムであえて撮るとか。スローなリズムをキープするとか、そこから立ち上がってくるものもあると思うんです。非効率だったり、守備的な作りから見えてくるものもありますし。そこは自分の中で限定させずにやっていきたい。プロデューサーの仕事のいいところは、やりたいテーマに合わせて、自由に監督や俳優などと組んでいけること。それはとても面白いし、幸せな仕事だと思っています(笑)。

――【川村元気】がプロデュースする作品という事で、これから注目される事も多くなってくると思うんですが、プレッシャーなどは。

川村:感じないように努めています・・・。観客には、誰がプロデュースしているかなどは関係ないでしょうし。電車にわざわざ乗って、1800円払って映画を観てくれる観客こそがクリエイティビティを守ってくれていると思うんです。その観客には、監督やプロデューサーが誰かというよりも「映画が面白い」ということが何より重要なんだと思います。詰まるところ、やっぱり企画と物語なんでしょうね。

――では『悪人』と『告白』の成功はご自身では、

川村:もう忘れて次に行かないと・・・。

――それはご自身の性格なんですかね。

川村:そうですね。飽き性だっていうのは、ありますよね(笑)。次回作はまたぜんぜん違うテーマです。『告白』『悪人』のような映画を期待なさっている方はがっかりされるかもしれません。ただ、同時進行している企画がいつも複数あって、ストックしている脚本の振れ幅はものすごく大きいです。『告白』『悪人』のようなダークサイドシリーズの究極系の企画もあります。とはいえ、ここまで【悪】が続くと、今度は人間の【善】を取り込まないと、自分が心配です(笑)。

――東宝というメジャーの会社で、先鋭的な作品を生み出し続ける秘訣は?

川村:変わったことをやっている意識はありません。ただ観客に驚いて欲しい。新しい提案をしたい。それだけです。

――今回の2作品は特に、「あの東宝の」とか、「東宝だからこそ」と言われたと思うんですが、会社では浮いた存在なんですか?

川村:まあ、浮いた存在なんでしょうかね(笑)。そういう若輩に企画をやらせてくれた東宝という会社の懐の深さには感謝しています。東宝のプロデューサーは、20代・30代が中心で、世界的にみてもそんな会社は例がないと思います。ある種のチーム戦として製作費や配給の心配をしないで、クリエイティブに集中できるというのはありがたいと思っています。

――インディペンデントの作家をリサーチされていますか?

 
川村:常にしています。『SRサイタマノラッパー』とかああいうクリエイティブの初期衝動が一番面白いですよね。スティーブン・スピルバーグの『激突』の面白さですね。ハリウッドでもメキシコ人のアルフォンソ・キュアロンみたいな監督がいて、『天国の口、終りの楽園。』のような映画を撮っていた新人にいきなり『ハリー・ポッター』(※第3弾『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』)を撮らせたりするダイナミズムがあります。そういった懐の深さは持っていたいです。クリストファー・ノーランでもそうですが、『メメント』『インソムニア』の後にいきなり『バットマン』(※『バットマン ビギンズ』)を撮らせたりする冒険の仕方がすごい。僕だったらいやですもん。あんなシュールな映画を撮ってた監督に100億円以上の製作費の映画を撮らせるなんて(笑)、怖いですよ。

――『スパイダーマン』の次回作も、インディペンデント出身のマーク・ウェブですね。

川村:『(500)日のサマー』は素晴らしかった。そういうインディペンデントで出てきた面白い監督に、いきなり大きなバジェットのものを撮らせたりするのって日本でもあるべきだし、できたら面白いですよね。

――上手く軌道に乗せる力を、製作側が持っているんでしょうね。

川村:ピーター・ジャクソンとかもそうですよね。才能ある監督に対して響き合える能力を持っていて、その才能を倍化させることができるプロデューサーでありたいと思います。今後自分の作品でも若手監督の大抜擢もしていきたいですし、それが映画のダイナミズムにつながっていくのだと思っています。


 
  Profile: 川村元気(かわむら・げんき)

プロデューサー(東宝株式会社 映画企画部所属)
1979年生まれ。2001年東宝に入社後、大阪・難波南街の劇場でチケットのモギリをして過ごす。社内の企画募集に応募したことをきっかけにプロデューサー職に。2005年、26歳で映画『電車男』を企画・プロデュースし、以降も『スキージャンプ・ペア』など斬新な企画を連発。特にカルトマンガを原作にした『デトロイト・メタル・シティ』('08)を興収23億円の大ヒットに導いたことは、映画業界にある種の革新をもたらした。今年は、2010年の日本映画を代表する『告白』(中島哲也監督/興収38億円)と『悪人』(李相日監督/20億円)を企画し、海外の映画祭でも高い評価を得た。特に『告白』は、米アカデミー賞外国語映画賞の日本代表作品にも選出されている。また同年、米The Hollywood Reporter誌の「Next Generation Asia 2010」にプロデューサーとして選出された。

『告白』DVD&Blu-ray情報

DVD完全版(2枚組)/¥4,935(税込)
DVD特別価格版/¥2,940(税込) ※写真
ブルーレイ完全版(2枚組)/¥5,985(税込)
※いずれも発売・販売元:東宝 /2011年1月28日発売

『告白』公式サイト http://kokuhaku-shimasu.jp/

(C)2010「告白」製作委員会


『悪人』DVD&Blu-ray情報

スペシャル・エディション(2枚組) /¥5,985(税込)
スタンダード・エディション /¥3,990(税込) ※写真
Blu-ray(特典DVD付き2枚組) /¥6,930(税込) 
※いずれも発売元:アミューズソフト 販売元:東宝 /2011年3月18日発売

『悪人』公式サイト http://www.akunin.jp/

(C)2010「悪人」製作委員会

   

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