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前田弘二インタビュー

自主制作で発表した数々の短編が国内映画祭で数々の受賞を重ね、ドイツの映画祭「Nippon Connection2009」で特集上映が組まれるなど、国内外で高い評価を受けている新鋭、前田弘二監督。日本の自主映画界では広く知られた存在の彼が、いよいよ劇場公開デビュー作を作り上げた。人間の“おかしみ”を前に押し出したユニークな映画を発表し続けてきた彼だが、劇場公開デビュー作は真っ向勝負といえるラブ・コメディ。現在の日本映画界はオフビートな笑いを主体にした作品はあれど、ストレートなラブ・コメディは不毛といっていいほど数少ない。そう考えると、彼の試みは孤高の戦いといえなくもない。“コメディ映画を作っていきたい”と宣言する33歳の新鋭にその思いを訊く。

取材・文/水上賢治

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オフビートな笑いよりもストレートな“ラブコメ”を

  『婚前特急』
『婚前特急』
(C)2011『婚前特急』フィルム・パートナーズ
――実は前田監督には勝手ながらすごく注目していて、これは僕の勝手な願いだったんですけど“この人は絶対にストレートなラブ・コメディが撮れるはず。いや撮ってほしい”と期待していたんです。というのも2年ほど前に、前田監督の自主制作作品をまとめたDVD(『古奈子は男選びが悪い〜前田弘二作品集1〜』『遊泳禁止区域〜前田弘二作品集2〜』)が2本リリースされましたけど、これを観たときにコメディ・センスの高さにものすごく驚いた。しかも、まだ続いていますけど、日本での現在のコメディはオフビートな笑いが中心というかほとんど。でも、前田監督はストレートな“喜劇”をどこかでやろうとしていると作品を見て感じたんです。その上、ひじょうに男女の価値観違いと摩擦を描くのがうまい。なので、勝手ながら前記のような期待をしたわけです。それでまず聞きたいのですが、ご自身的には喜劇に対して思い入れというか執着しているところはあるのでしょうか?

  前田弘二監督
前田:映画好きになったきっかけがジャッキー・チェンだったりするので、もともと“コメディ”が好きなところはあるんですけどね。ただ、独学で映画を作り始めて、いろいろと自主制作で発表してきたんですけど、はじめのころは“コメディを作りたい”とか明確な意思はありませんでした。だけど、作っているうちにいつもなぜか方向性がそっちの方に向いていく。だから、自分は“コメディを作りたいのかもしれない”と、いつからかなんとなく感じてはいました。で、明確に“ストレートなラブコメが作りたい”と思ったのは、DVDに収められてる作品『古奈子は男選びが悪い』を作り終えたときです。この作品を作り終えた後、なにか自分のそれまでやってきたことに飽きた。自分なりに毎回違った試みをしている意識はあったんですけど、どれもマイナーチェンジに過ぎないというか…。もっと自分の殻を突破するような作品を作りたいと思ったんです。それで考えたとき、それまで自分が作ってきた作品は、どちらかというと変化球というか。本筋があったとしたら、そこから次第に横道にそれ、どんどん逸脱していく、そんな作品ばかりだったので、まずストレートなものにしたいと思いました。奇をてらわずに、ちょっと弾けたキャラクターを中心に据えた往年のスクリューボール・コメディというか。ある意味、ラブ・コメディの王道の様式をとりながら、今の映画シーンにきちんとフィットする作品。それを目指して出来たのが今回の『婚前特急』です。

――主人公のチエは24歳のOL。人間的に包容力のあるバツイチ男に、経済力のある中年男、なにかとかわいい年下男に、ワイルドなバイク乗りの男、そしてなんの気兼ねもいらないさえない男という5人の男性と同時に付き合っている。このヒロイン像はかなり斬新で。今までこんなヒロインは日本映画にいなかったかもしれない。5人の女性と付き合う男みたいな映画はあったと思うのだけれど。で、このヒロインを考えるとかなりひんしゅくを買う可能性もあるわけで。正直なところ、ちょっとこの主人公を前面に出すことに躊躇はなかったですか?

前田:なかったですね。共感はさせたいですが、初め(設定)から共感できる人物を作ろうと思わなかったんですよ(笑)。

――近年の映画は“共感できるかどうか”がすごく重要視されて、それが感動ポイントだったりしますよね。その1点のみが映画のすばらしさのようになっている傾向があるけど、そこに対するアンチテーゼがもしかしてある?

前田:というよりも、共感はさせたいですが、共感させるために作られたような、いかにもな映画の登場人物にもともとあまり興味が持てない。それよりも今回のチエみたいに“何人の男と付き合おうと私の勝手でしょ!”と居直るぐらいのキャラクターの方が好きで。昔の映画だったら、マリリン・モンローのような存在です。わが道をいくというか。単純に映画でああいう威勢のいいヒロインを観るのが面白いし、楽しい。

――とにかくまずこのチエがほんとうに自由奔放というか突き抜けていて。でも、ここに同じぐらいの個性を持った5人の恋人のうちのひとり、ダメ男・田無が登場することで映画が俄然白熱してくる(笑)。

前田:チエの価値観を根底から崩せるのは、同じぐらい強烈なヤツじゃないとダメだなと思って。田無はチエの最大の敵にしたいと思ったんですよね。それぐらいのエネルギーがぶつかりあわないとコメディにならない。

――明らかにダメ男なのだけれど、本人がそう思っていないというか(笑)。むしろいけてると自信をみなぎらせている。こんな人物は映画で見たことないかもしれない(笑)。

前田:最近の映画もそうですけど、テレビドラマとかもダメ男はいっぱい登場していますよね。で、たぶん男側がすごく弱いケースが多い。恋愛劇だったら好きな女性がいるんだけど、言い出せないまま片思いで終わるみたいな。

――草食系男子とかがもてはやされる時代で。ダメな男はダメ男でしかなくて、強い女性ヒロインに魅入られる弱者として描かれるケースが確かに多い。

前田:そこに風穴をひとつ空けたい気持ちがあったんですよね。世間一般ではダメ男なのかもしれないけど、本人の気の持ちようではそうではないよというか。田無はふてぶてしくも、なんだかたくましくもあるように見せたかった。

――だから、ほんとうに田無は目から鱗で。この人物は斬新でした。それで5人の恋人を持つチエの恋愛の答えが描かれるわけだけど。たぶん僕を含め前田監督の作品を知っている人はある意味、予測できたと思います。ただ、大概の人は裏切られるかなぁと思うのだけれど。

前田:僕としては裏切りも予測もなくて、比較的最初の段階でタネ明かししているつもりなんですよ。でも、これまでの試写会の反応とかみても、けっこう“なんでこうなるの?”という意見が多くて、逆にびっくりしています。

――まあ、これ以上はタネ明かしになってしまうので、ここまでにしましょう。次にキャストについて聞きたいのですが、まずチエは吉高由里子さん。個人的な意見ですが、彼女は例えば『転々』とかでコメディアンヌとしての資質があることをすごく示していた気がします。それで今回見て、やはりすごい才能を持っていると思いました。

前田:このチエと言う人物が嫌われてしまっては映画の主人公ですから身も蓋もないですから。

――お客さんがドン引きしてしまっても困るし、必要以上に好意を抱かれても困るみたいな(笑)。

  『婚前特急』
『婚前特急』
(C)2011『婚前特急』フィルム・パートナーズ
前田:好きになってもらいたいです。ほんとうにギリギリのラインなんです。さらにそのギリギリのラインを“一生懸命演じました”というのが前に出すぎてもダメ。さらりとやってのける“軽快さ”がないとダメで。作った自分で言うのもへんなんですけど、難しいと思うんですよ。でも、吉高さんはそのラインを無理なく出せるというか。例えチエは人の心に土足でバンバン入っていくようなキャラですけど、吉高さんがやると嫌じゃなく思える。ひとつの良い意味での“軽さ”があって、反感を買わないものになる。ある意味、彼女は常識をひっくり返すパワーの持ち主で。実際、彼女が演じてくれたからチエが可愛く成り立ったと思います。

――何か事前に吉高さんにチエを演じる上で、“こうしてほしい”など話したことはあったりしたんですか?

前田:ただ、今回のチエはがっつり早口でまくし立てるシーンもあれば、生々しく激しく感情を吐露する場面もある。プラス、やることなすことうまくいかなくなって空回りしていく。ずっと怒りを心の中にいだきつつ、周囲からはそれが笑えてみえて、さらに本人は大真面目みたいにシリアスさも求められる。ハードル高いんですよ。ですから、ちょっと彼女の気持ちをソワソワかつ急き立てたいなと思って。わざと冷たく当たって、役と同様にイライラするよう仕向けたりしました。“なんで監督はほかのみなさんとは楽しそうに談笑しているのに、私に冷たいんだろうとずっと思っていました。何で私をキャスティングしたんだろう。私は絶対に嫌われているとずっと思っていました”とこの前、吉高さんが言っていて。大変辛い思いをさせてしまいました…。

――で問題の田無役ですけど、こちらはインディーズのインストゥルメンタルバンド「SAKEROCK」の浜野謙太さん。僕はまったく彼のことは知らなかったのですが、それにしてもすごい逸材を見つけてきましたね。

  前田弘二監督
前田:田無という人物を作ったのはよかったんですけど、役者さんで探そうとなったとき、まったく思いつかなくて。それこそ昔だったらフランキー堺さんとか、加東大介さんとかこういう役を無理なくやれる役者さんいっぱいいたと思うんですけど。ほんとうに思い浮かばなくてほとほと困ったんですよ。である瞬間、いまから5年ぐらい前ですかね。あるイベントでSAKEROCKのライブをたまたま観たんですけど、そのときハマケンさんがむちゃくちゃ動きまわっていて、それをふと思い出して。“あの人どうだろう?”と思ったんですね。そして調べたらプロフィールのところに、“ミュージシャン、役者”とあった。『ハチミツとクローバー』や『少年メリケンサック』にチョイ役で出ていて、これは可能性あるなぁと思って、プロデューサーを介して脚本を送って打診させていただきました。そうしたら来てくださって“この役はボクだとおもいました”とやる気マンマン。芝居見せていただいたら何の問題もなくてお願いすることにしました。あと、これは偶然なんですけど、ハマケンさんも吉高さんも身長が157cmで。二人の並ぶところが観たいなぁと思って、この二人のキャスティングが決まった段階でクランクインが待ち遠しくなりましたね。なにかとてつもない化学反応が起きるような気がして。

――実際に劇中では起きましたね。あと、ほかにも加瀬亮さん、榎木孝明さん、白川和子さんらそうそうたる役者さんが顔を揃えていて。これほどの名のある役者さんを束ねたのは初めてだったと思います。何か発見があったりはしましたか?

前田:自分の演出を変えたりということは一切なくて。これまで通りに取り組んだんですけど、発見はいろいろとありました。例えば、チエと田無が部屋で大喧嘩をして、勢いあまって壁を壊して突き抜けて隣の他人の住む部屋に転がり込むシーンがあります。ここで白川和子さん演じる住人の老女がなんともいえない形でふたりをたしなめるのですが、ここはボクが最初イメージしていた感じとはまったく違うものになりました。僕の最初、壁を当然壊されているわけですからちょっと怒って怖さを少し出した感じをイメージしていたんですね。でも、白川さんは二人にかける言葉にどっかテレがあるんじゃないかとか、ただこの場からは早く出て行ってもらいたい気持ちもあるとか、もっと人物を掘り起こし、情況を深く探り出してきて、僕の答えとまったく違う演技でありシーンを提示してきた。で、明らかに僕のイメージよりはるかに良かったんですね。こういう経験をするのは始めてでした。自分の未熟さに気づかされましたよね。白川さんはほんとうにすばらしくて、休憩の間もずっと脚本を呼んでいられて。ベテランの方でもワンシーンのために努力を惜しまないし、悩まれていた。とても勉強になりましたし、自分はまだまだだなと思いました。

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監督を志した明確な意識がほとんどない。
いつの間にか映画を作っていたんです(笑)


――ここからは少し過去のことを聞きたいと思います。まず、映画を作り始めたきっかけは?

前田:学校を卒業後、ふつうに社会に出て、美容師として三重の方で働いていたんですけど、辞めて。ほんとうになんとなくなんですけど上京したんですね。それで働き口を探したら、ちょうど新宿TSUTAYAでバイトの募集をしていた。で、働き始めたんですけど、5Fのフロアに、現在も活動弁士、映画監督として活躍中の山田広野さんがいて仲良くなって。あるとき、自主映画を撮るから“前田くん出てくれない?”と誘われたんです。で誘われるまま行ってみたら、撮影当日なのになにも決まっていない(笑)。“どんな話なんですか?”と広野さんに聞いたら“今考えてるから”って(笑)。さらに聞いたら、今日撮影して編集して夜に上映会で発表するとのこと。僕はもうさっぱり“意味わかんない”って感じですよ(笑)。その後、なんとか撮影が終わって。僕も作品を上映会で見せてもらったんですけど、みたらこれがびっくりするぐらい面白かったんですよ。このとき、“映画っていい加減だなぁ”“映画って簡単に作れちゃうんだ”と勘違いしちゃった(笑)。あとで、そんなことはないことに気づくんですけど。

――それで作品を作ってみようと?

  前田弘二監督
前田:いや、まだですね。だいたい監督っていろいろと仕切らなきゃいけなそうで大変そうなイメージがあったから、なんとなく自分の中で拒否してたんですよ。ただ、映画は作ってみたいと思って独学で映画を学び始めて、脚本を書くことなら自分もできるかなぁと思って、見よう見真似で始めた。そうこうしているうちに広野さんの映画に出ていた今回の『婚前特急』にも出演してもらってますけど、俳優の宇野(祥平)くんと知り合って。そしたら彼から“脚本を書いているなら一緒に映画作ろうよ”といわれ。そしたらいつの間にか映画を作っていた(笑)。だから本人としては監督を志した明確な意識がほとんどないんですよ。

――流れに身を任せていたらいつの間にか…みたいな(笑)

前田:ええ。映画は子供のころから好きでしたけど、監督主義というわけではなかったですし。ほんとうに広野さんみたら“オレも作れちゃう”と思っちゃうんですよね。この出会いがなかったらほんとうに今映画を作っていたかどうかわからない。ただ、1本作ってみたら、やっぱり欲が出るんですね。“ここはこうしたい”とか“こういうカットを撮れないか”とか。とにかく映画を一旦は完成させるんですけど、その都度、納得できないことが出てくる。それで続けていたら、現在に至っちゃった感じです。

――でも、監督第1作目の『ハナムグリ』からして自主としてはハードルが高いことをやっていて。女性の役者さんには裸になっているし、SM関係など内容もかなりきわどい(笑)。その後の前田監督の自主制作作品も、女性の裸、性行為が必ずある(笑)。それを単純な官能シーンや性描写にはしていないのだけれど。でも、自主映画ではまず避けるというか、今の一般映画でもなるべく遠ざける題材と描写が常に存在している。もちろんそれを可能にするには環境が大切で。それを実現できるスタッフ、そしてなにより女優さんたちの存在があったはず。常連の俳優さんがいることからそういう環境があったことが想像はできるのだけれど。

前田:特に裸や性に固執しているわけではないんですよ。途中からは、まあ背徳映画祭からのオファーとか、裸over8の依頼とか続いて、結果的にそうなってしまったんです(笑)。ただ、自主映画でやる中で何かしらのインパクトがほしいと思って、やったところはありますね。自主映画は何かないと、映画祭に出品してもやはり見向きされませんから。あと、やはりこういう作品を作れたのは、ご指摘のとおり、役者さんの存在が大きかった。ほとんどが役者つながりで出会ったみなさんです。みんなある意味、僕の作品を信じていつもついてきてくれた。ずっと役者さんたちに助けられていましたね。

――男女間を描くなら、裸はやっぱり必要ですよね?

前田:結局、僕は男女間のかけひきや矛盾を各作品でずっとやってきているんですね。そこで裸なり性的なものがまったくないのはやはりおかしい。だから必然的にそういうところをきっちりやっているだけなんです。それに答えてくれる役者さんも幸運なことにいた。

――今後なのですが、コメディ路線でいきたいですか?

前田:そうですね。

――でも、今の日本映画界はほんとうにストレートな喜劇をやる映画監督がほとんどいない。オフビート系はいるのだけれど。その中で勝負するのは困難なのでは?

前田:そうなんですよね。僕も“じゃあ、ラブコメ作るぞ!”となっていろいろと考えたんですけど、ほんとうに今の日本ってラブコメやっている人いないんですよ。変な話、映画監督で“ラブコメやりたい”なんていう発言している人を聞いたことがない(笑)。

――作りづらい状況があるんだと思います。周りから認められないというか。昔も今も変わらないのかもしれないけど、笑いはどこか軽視される風潮がある。映画界においては世界各国の国際映画祭を見てもわかるように、コメディ映画は特に評価されづらい。どうしてもアート志向の高い作品の方がより認められやすくて、そういう作り手の方が評価をされる。一方で、よく映像作家に話をきくと、人を泣かせるより笑わせるほうが難しいといわれていて。“コメディはほんとうに難しい”という役者も多いし、喜劇ほど作るのが難しいともいわれている。でも、コメディ映画はなぜか軽視されてしまう(笑)。

前田:どうしてですかね(笑)。ただ、今のお話から言うと、“コメディを作るのは難しい”とよく言われていて、そこで“コメディやってやろう”と踏み出したところはありますね。難しいと言われれば言われるほど、やりがいがあるというか。“どうせやるなら他の人とは違うことをやりたい”というちょっと天邪鬼の性分があるので。あと、映画監督としての評価はどうでもいいと思っているんですよ。どっかで認められたいというのがあまりない。映画監督というとなんかすごい人というイメージありますけど。僕はどっかで指を差されて“バカな映画作っているなぁ”ぐらいの存在でいい(笑)。評価でいったら、100点か0点でいい。80点ぐらいを狙ってなんて思いながら映画を作りたくない。

――あと、今の映画はリアリズムが必要以上に要求されてしまうのもコメディが作りづらい情況を作っているのかもしれない。コメディ映画は日常ではありえないような奇想天外なことが起こるところが面白いわけで。でも、これだけ映像もドラマもリアリズムが全盛の映画シーンだと、コメディの荒唐無稽さが入り込む余地がない。

  『婚前特急』
『婚前特急』
(C)2011『婚前特急』フィルム・パートナーズ
前田:そこが難しいところで。ただ、僕もこれまでの作品はどこかリアリズムにより過ぎていたところがあって。もっとフィクションだからできることがある。映画なんだからもっとステキな嘘をどんどんついていいんじゃないかと思って。そう思って、フィクション度をあげることを今回の『婚前特急』では目指しました。最終的には登場人物の感情だけはあくまで丁寧にきっちりと描けば突拍子のないシーンも成り立つと思いました。例えばさっき話に出た、壁をこわして隣の家に二人が転がり込むなんてありえないわけです。でも、それまでの二人のたどる過程さえきっちり描いていれば問題ないというか。こういったフィクションであり、ありえない作り話があることで、よりリアリズムというか現実感の方も引き立つというかもっと飛び出してより現実と感じられると思うんですね。フィクションとリアリズムで相乗効果が生まれるというか。それがコメディ映画だからこそできることかもしれない。今回の『婚前特急』ではフィクションとリアリズムといい付き合いをしたいと思った。でも、これがすべての答えというわけではなくて。僕も今の時代に合ったコメディ映画をはっきり言うとまだまだ摸索中です。ただ、ひとついえることは僕はああいったケンカをした二人が壁を壊して隣家に転がり込むみたいな、ああいうシーンが好き(笑)。ただ単純にこういうシーンを“映画で見たい”と思う。

――映画だからこそできるシーンですよね。間違いなく映画的というか。

前田:だから、その自分の嗜好だけは大切にしようと思っていて。自分が純粋に見てみたいと思ったら、そこには素直に耳を傾けようと思っています。

――それでは今後もコメディ映画を作っていきたいと

前田:そうですね。今回、自分なりにラブコメを作りましたけど、もっといろいろと突き詰めたい。昔だったら底辺で生きる人を主人公にして、既得権力にひと泡吹かせるみたいなものが喜劇の上等手段だったりするんですけど、現在の暗い世相だと、苦境にいる人を主人公にすると笑えなくなっちゃうところがあって。根本的に何かを作り変えないと今の喜劇は作れないのかなとも最近思ったりするんですよね。まあ、自分なりに考えに考えて今後も頑張っていこうと思います。


 
  Profile: 前田弘ニ(まえだ・こうじ)

1978年、鹿児島県出身。
独学で自主映画を制作し、2006年、『古奈子は男選びが悪い』が第10回水戸短編映像祭でグランプリを受賞。翌07年には、『女』『鵜野』『古奈子は男選びが悪い』『誰とでも寝る女』『ラーメン』の5作品を一挙上映する特集<女・前田弘ニ監督特集>がテアトル新宿で行われ、レイトショーながら1000人を超える動員を記録する。その他、08年には73分の中編作品『くりいむレモン 旅のおわり』を発表。劇場公開デビュー作となる最新作『婚前特急』(ビターズ・エンド=ショウゲート配給)は、4月1日(金)よりテアトル新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷他にて全国ロードショー。

『婚前特急』公式サイト
http://konzentokkyu.com/

©2011『婚前特急』フィルム・パートナーズ
   

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