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松永大司 and ピュ〜ぴるインタビュー

独創的な毛糸編みのコスチューム、奇抜なペイントを施したセルフポートレイトを発表し、海外を中心に絶賛を浴びている現代美術アーティス ト、ピュ〜ぴる。性同一性障害を背負い、男性であることに違和感を感じ生きてきた彼が、彼女へメタモルフォーゼしていく8年間を追ったドキュメンタリーが映画『ピュ〜ぴる』だ。監督はピュ〜ぴるの親友である、俳優出身の気鋭・松永大司。東日本大震災が起き、映画界にも影響を与えているなかで公開を迎え、2人が考えたこととは? そして『ピュ〜ぴる』を通して、どんな思いを伝えていきたいのだろうか?

取材・文/大場徹

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ポジティブなスタンスへ変わっていくパワーを捉えている
『ピュ〜ぴる』は、“サバイブする映画”なんです。
(松永)

――8年もの記録が凝縮された『ピュ〜ぴる』。ついに無事公開されましたね。

ピュ〜ぴる:本当に、よく劇場公開できたなぁと思います。初日の挨拶では、見知った顔もたくさん駆け付けているのが舞台から見えて、感無量…… でしたね。(公開が)なくなるのかもしれない可能性は考えましたけど、私は撮られていた側ですので、そこは心配していなかったのですけど、監督は、 いろいろ考えられていたのだと…。

  『ピュ〜ぴる』
松永:公開延期の心配はなかったんです。でも、生活に支障をきたす人もいるタイミングで「観に来てください」と言っていいのか?と悩みました。震災で、僕の住む地域でも停電と断水が起きて、そのときは映画より、水の確保の心配をしましたし。ですけど、ある雑誌の取材で、編集者さんが 「震災後はじめての取材なんですが、(この映画を)本当に観てよかった。これは大勢の方に観てもらいたい作品です」と話して下さって。すごく嬉しい言葉でしたよ。

――確かに『ピュ〜ぴる』には、観る人をグイっと魅了する力があります。特に、2001年ごろは、まだキュートな男の子という印象のピュ〜ぴるさんが、徐々に心と体を女性にすり合わせ、同時に恋に、創作に葛藤していく。そして、横浜トリエンナーレでのパフォーマンスで“メタモルフォーゼ”していくクライマックスには、息をのみました…。

松永:感想をうかがえるのは本当に嬉しいんです。ありがとうございます。まだピュ〜ぴるとは、初日を迎えての感想とか宣伝をふり返ってとか、そういう話もできてないし、観客からの反応も直接は聞けていないんですけど、初日のTwitterで、「地震の後、怖くて外出できなくなって、映画を観ようか迷ったのですが、思いきって観に行って本当によかった。勇気をもらえた」というTweetを頂いたんです。映画で勇気を与えることができたなんて、「やったじゃん」って本気で思いましたよ。

ピュ〜ぴる:長く撮り続けて、完成後も配給探しや映画祭への対応と、監督は本当に苦労の連続で、いまも一緒に宣伝をとにかくこなすという、私自身、なにか“旅の途中”みたいな感じ。映画への客観的な感想や反応は、まだよくわからないし、監督ともまだ語り合うまでに到っていないのかな…って。でも、『ピュ〜ぴる』は本当に奇跡的なタイミングで撮られて、公開された映画だと思います。アーティストとしての活動や、私のジェンダーの問題を捉えてくれた意味でもそうですし。

松永:ピュ〜ぴる本人が(男性から女性へ)劇的に変わっていく瞬間なんて、二度と撮れませんからね。撮り続けて思ったのは、この映画は“サバイ ブする映画”だなってこと。例えばロケで「雨が降ってきましたけど、どうしますか?」なんて、トラブルにどう対処するか委ねられることがありますよね。そういうことが撮影から現在に到るまで延々と起こりましたから。それらを、どうポジティブに転換させるか?というパワーがすごく必要な作品でした。

――そういう苦境を乗り越えた映画としても、いま観てもらう価値がありますね。

松永:そう思います。Twitterでの感想もそうですけど、わずかでも観た人が前に進もうとするきっかけになれば、その価値は増すと思う し。「こんなときに?」と思うかもしれないけど、僕はこの映画を被災地の方々にも観てもらいたいと思っています。前へ進む原動力を伝えられると信じていますし。それが本質ですよね。

  『ピュ〜ぴる』
映画『ピュ〜ぴる』より
ピュ〜ぴる:私自身が、そういう力のきっかけになれるのなら嬉しいです。アーティストのピュ〜ぴるとしては、ユーロスペースでは「ポストカードを何枚でも持ち帰ってくださって構わないので、お気持ちを募金箱へ。義捐金に…」と。なにか手助けになればと、公開初日はまだそこまでしか動けてないんですね。「何かできないか」って考えながら、連日報道されているニュースやインターネットの映像を観て、震災と原発の問題の大きさはひしひしと感じ続けています。自分の問題、ジェンダーの問題はクリアしてきたけれども、映像で被災地の様子を観ると、やはりショック。辛いし、言葉を失います。世界中からも連日、心配のメールもたくさん届いていますし。作品展でお世話になったキュレーター、美術館の方、それにお友達…。映像やメールを見て、本当に世の中は、震災前と震災後で変わりはじめていると思います。

――そう伺うと、アーティスト・ピュ〜ぴるとしての創作、ポートレイトなどもなにか変わっていきそうな気がしますね。震災を受けてのビジュアルといいますか…。

ピュ〜ぴる:それはあります。実は、この取材の直前まで新しい作品を撮っていたのですが、もともとイメージしていたコンセプトに、震災の惨状を見ているうちに感じたことをプラスアルファとして、ビジュアルへ落とし込みました。このポートレイトは仕上がり次第、ユーロスペースで展示・販売させていただいて、全額を義捐金とさせていただきます。ポートレイトは、いま撮り続けている“GOD”のシリーズの新作ですね。
(4月9日よりユーロスペースにて展示中)


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海外の方は「イイ」と感じたら、誰よりも早く伝える。
日本は、そこがロジカルになってしまう。
(ピュ〜ぴる)

――ピュ〜ぴるさんのこれまでの日々と、そのなかから紡がれた創作の数々は、アート誌にせよ映画祭にしても、海外からの評価が先行しています。その辺りの反応というのは、海外と国内で、いったいどう違うのでしょう?

  『ピュ〜ぴる』
ピュ〜ぴる作成・着用のコスチューム
(C)Photo by Masayuki Yoshinaga
ピュ〜ぴる:作品を見て「すごい」とか「美しい」とか、最後にいただく言葉は一緒なんです。でも、そこへ到るスピードが違います。海外のほうが評価判断が早いんです。だから結果的に海外から評価されているというだけで。海外で現代美術に触れられている方は、より感覚的で、観た瞬間に何かを感じられたら、誰よりも早くフィーチャーすることに意義を持たれている。「二番煎じは嫌」という意識ですね。ですから私へのアポイントも自然と早いんですよね。

松永:その海外評価もあって、映画も国内で配給が決まるより海外での反応が早かったですし。日本は、やはりバックボーン、こういうジェンダーを扱ったテーマへの許容が、例えばロッテルダム映画祭で高い評価をいただいたオランダなどと較べても、ぜんぜん違う。そういう意味では、確かに時間がかかるのかもしれないですね。

ピュ〜ぴる:日本の方はロジカルというか…説明が必要なんです。もちろん現代美術でも説明は必要なんですけど、無駄に必要としているのではないかと思ったりもしています。「イイ」と言われても、その後、行動に移してくれないんですよね。いくら待てども何も連絡もない。ですから、発表の場も必然的にないという。

――ピュ〜ぴるさんのコスチュームやポートレイトについて、発表の場へのこだわりはあるんですか?

ピュ〜ぴる:会場としてここ、というこだわりはないんです。それは海外でも国内でも一緒。最初のころは映画でも語られているようにクラブでしたよね。そこから美術館やギャラリーへ。あとは横浜トリエンナーレのようなアートフェスティバルですね。ただ、できれば白バック、または黒バックで作品だけを集中して観てもらえるような空間へのこだわりはあるんです。それは先ほどの話でもありました直感、感覚的に…というところを研ぎすませられる場でという気持ちからですね。作品以外の何がしかの介入や相互作用を、私はあまり必要としていないタイプですので。

――ユーロスペースで作品を展示されていますけど、あそこは外観から壁面まで白基調の造りですから、そのこだわりに適った場所ですね。

  『ピュ〜ぴる』
ロッテルダム国際映画祭でのピュ〜ぴる
ぴゅ〜ぴる:そうですね。この映画と作品を観ていただける機会が増えたことで、 私へのオファーも含めて、なにかを感じとってもらえる速度が早くなってほしいと思いますよね。

松永:僕も映画やピュ〜ぴるについて、ダイレクトな感想を聞きたいし、そのためには、もっと映画を広めたい、観てもらえなきゃと、あらためて感じています。もちろん、Twitterなどでたくさんの感想を寄せて頂いてるのですが、それとは別に、監督としての僕や、ピュ〜ぴるの名前が、まだまだ知られていないという現実に、映画の宣伝を通じて直面しました。映画の感想はどう感じてもらってもいいんです。でも、一人でも多くの方に観てもらう、一人でも多くの方に何かを感じてもらうためには、やはり“知ってもらうこと”が大きな課題です。“どう観たか”よりも“観てもらえば何か感じてもらえる”はずで。これはロッテルダムやチョンジュ(韓国)といった海外の映画祭に赴いて実感したスタンスですが、日本でも、きっとそうだと思っています。

――監督と、ピュ〜ぴるさんをもっと知ってもらいたいのは前提として、監督はピュ〜ぴるさんのどういった部分を知ってもらいたいと考えているのですか?

松永:思うのは、より作品を通してピュ〜ぴるを知ってもらいたいけど、生きている人を撮っているわけですから、その人間としての内面、実情も知ってほしい、興味を持ってもらいたいと考えています。いま、オカマやゲイの方がお茶の間でも人気ですけど、視聴者はブラウン管に映る部分だけに興味を持っている。内面までに触れようとはしていないはずですから。そういう思いが伝わる記録を撮りたいですね…。『ピュ〜ぴる』は2本にするつもりで撮り続けていますから。それに、この先のことは、2人で思っていたりすることはあるので…。

――ちなみに、この先も海外の映画祭へ赴く予定はあるのですか?

松永:6月にイスラエルのテルアビブの映画祭へ出品するので、ピュ〜ぴるも一緒に行きます。それから7月にポーランドが決まっています。テルアビブは結構ドキドキしているんですよ…。中東エリアでは唯一、セクシャリティな映画を受け入れてくれる場なのですが、本当に、どんな反響を頂けるのか気になりますよね。

  『ピュ〜ぴる』
映画『ピュ〜ぴる』より
(C)Photo by Masayuki Yoshinaga
ピュ〜ぴる:イスラエルは、本当にテルアビブだけは別で、トランスセクシャルには案外フリーなんですよ。イスラエルでも、ガザ地区、アラブ人の暮らす地区は、やはり厳しいそうなんですけど。私の場合、海外旅行は、まず入国しても大丈夫なのか? 刺されないか?と注意するところから始まるので(笑)。旅行前には、性文化の背景から、政治体制、宗教等、その国をじっくり調べるんです。文化が違いますし、理解したいですからね。

松永:これはまた、あらためて報告したいと思っているので、よろしくお願いしますね。 



 
  Profile: 松永大司(まつなが・だいし)
1974年、東京都出身。
『ウォーター・ボーイズ』(01)、『ハッシュ!』(01)、『手錠』(02)に俳優として出演。その後、『ハッピーフライト』(08)、『蛇にピアス』(08)のメイキング監督、特撮ドラマ『レスキューファイアー』(09-10)の監督を務める。劇場公開作は『ピュ〜ぴる』がデビュー作となる。

Profile: ピュ〜ぴる
10代から洋裁を独学で学び、コスチューム制作を開始。97年ごろから自身でデザインしたキャラクターのコスチュームを布と毛糸で制作、自ら着用しパフォーマンスを行う。03年に初の個展を催し、その後、ニューヨークのカルチャー誌「ペーパーマガジン」やイタリア版「VOGUE」で作品が紹介され、注目を集め始める。10年10月〜11年1月、オランダ・ロッテルダムのボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館で作品が展示された。

映画『ピュ〜ぴる』公式サイト:http://www.p2001.com/
ピュ〜ぴる(本人)公式サイト:http://www.pyuupiru.com/
   

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