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井口昇インタビュー

“理屈なしに文句なしに楽しめる映画”。現在の日本映画界で最もそう思える作品を作り続けている監督は彼かもしれない。井口昇――『ロボゲイシャ』『片腕マシンガール』など、もはや“井口ワールド”ともいえる突飛な物語、神業といいたくなる独特のテンポで活写されるアクションと残酷描写でカルト的な人気を誇る井口監督は、国内はもとより海外にも熱狂的なファンを持つまでに至っている。とにかく楽しませることを最優先しているように思えてならない井口作品は、決して観客の期待を裏切らない。そんな井口監督が新たに挑んだのは、これまで7度も映画化されている伊藤潤二の傑作ホラー・コミック『富江』。果たして、井口監督はどんな『富江』ワールドを築き上げたのか? 話を訊いた。

取材・文/水上賢治

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大林宣彦監督 の『HOUSE ハウス』の影響!?
「僕の映画的バックグランドも出た作品になりました」


――これまでに『富江』は7度も映画化されています。まずなにより、伊藤潤二さんのこの原作コミックはご存知だったのでしょうか?

  『富江 アンリミテッド』
『富江 アンリミテッド』
井口:僕、実は伊藤潤二さんの漫画が大好き。「富江」ももちろん大好きで、映画化される前にすでに読んでいました。「なめくじ少女」や「うずまき」、「首吊り気球」などなど、伊藤さんの作品はとにかく愛読していて。だから“伊藤作品を自分の手で映像化したい”という気持ちをずっと抱いていたんですよ。で、実は3〜4年前に「富江」を“やりませんか”とオファーをいただいていたんです。でも、このときはスケジュールなどもろもろ調整がつかなくなってしまって…。結局、残念ながら流れてしまった。だから、今回は念願叶った感じです。

――「富江」は大好きな原作だったということですが、これまで7度も映画化されています。ある意味、フォーマットがすでに出来上がっているといっていいかもしれない。その中で映画化する際、井口監督はどんなビジョンを思い描いて臨んだのでしょうか?

井口:まず、“富江”という存在を原作通りのものに作りこまないと意味がないと思いました。

――これまでの映画版では、富江はどこか人間的な扱いが多い。そうではなく、得体の知れない生命体のようなということですか?

井口:そう、僕は、富江は完全なモンスターだと思うんですよ。例えば今回描きましたけど、顔が巨大化するとか、体が触手になるとか。あえて映像化しづらい、こういった伊藤さんの画を、そのまま実写の映像に置き換えたいと思いました。相当ハードルが高いんですけど、自分がやるからにはチャレンジしたい。なにより自分に伊藤さんの画のビジュアルが、実写になったとき、どういう風に見えるのか興味があった。で、同時に僕は近作で特殊造形の西村喜廣さんとか、VFX スーパーバイザーの鹿角剛司(かずの・つよし)さんと出会い、お仕事をご一緒していて、このメンバーで組めれば“あっ、これは実現可能だな”と思って。そういうこともあって、このチームでどんな新たな「富江」の映画ができるのか、僕自身すごく興味がありましたね。

――コレは僕の主観なんですけど、ホラー映画っぽくないと思いました。

井口:え〜〜! むちゃくちゃホラー映画を意識して作ったんですけど!

――ちょっと言い方を間違えました(笑)。和製ホラー色がないというか。いわゆるジャパニーズ・ホラーの多くは、四谷怪談しかりでおどろおどろしい方向に進んでいって、どこかドラマ性に力点を置いていく気がするんです。でも、今回の『富江アンリミテッド』は、アメリカの正当派ホラーというか。近年でいえば、サム・ライミの『スペル』のような恐怖と笑い、それと社会に対する風刺が同居している上、映像的に見せ場満載の構成になっている。惨殺シーンや恐怖シーンなどはホラー映画の見せ場だと思うんですけど、最近のホラーとか見ていると物語の展開とかに力注いで、恐怖シーンの演出がさっぱりというケースが多い。でも、今回 の井口監督の『富江』は、もう完全に見世物に徹底してそこに力を注いでいる。

  『富江 アンリミテッド』
『富江 アンリミテッド』
井口:それはあるかもしれませんね。意外と僕は発想が日本人的ではないというか(笑)。正当派のホラーを目指したことは確かですね。おどろおどろしい方向にいってないことに関してですけど、僕は伊藤さんの描く作品の世界って、ブラック・ユーモアと捉えているんですよ。シリアスとギャグのスレスレの線をいっているような気がするんです。でも、これまでの『富江』って、大真面目に捉えている場合が多かったと思う。そうなると、富江のバックグラウンドとかその憎しみがどこに起因するものなのかとか描かざるえなくなる。でも、僕の場合は、富江はモンスターでしかなくて、邪気の塊でいいんじゃないかと。だから特に何のために人を陥れるのかとか、なぜ増殖するのかとかいちいち理由づけしなくていいと思って。それより富江の存在自体を見せていく方が重要と思ったんです。それが結果的に伊藤さんの作品世界の魅力にも近づく気がした。例えば富江がクビだけでゴミ箱から出てくるとか。これって怖くもとれるけど、ギャグにもとれますよね。これこそ伊藤ワールドを象徴している気がして。同時にそういう描写を見せ場として成立させられるのがホラー映画なんですよね。劇中に首を亡くした 胴体だけが全速力で走って転ぶシーンとかありますけど、これこそホラー映画でないとなかなか成立しない(笑)。もう、大きな見せ場で作り手の腕の見せ所ですよ。なので、こういう場面は徹底的にやり倒しました(笑)。

――だから暗く、じめじめしたところがないんですよね。

井口:情念や怨念が飛び交う話の恐ろしさより、目にとびこんでくるものに“ワー、キャー”しちゃうような遊園地のお化け屋敷というか、そんなアトラクション感覚の映画にしたかったんですね。ただ、筋書きをないがしろにしているわけではなくて。裏テーマとしては、富江の妹である月子の思春期の物語であり、少女 の存在不安の話にしたかった。それはなぜかというと恐怖話というよりダーク・ファンタジーに仕立てたいと思ったから。今回、いろいろな人に“大林宣彦監督 の『HOUSE ハウス』の影響をすごく感じますね”とけっこう言われるんですけど、実はその通りで。僕自身、この作品を編集しているとき、『HOUSE ハウス』の音楽を仮でかぶせていたりしたんですね。そんな僕の映画的バックグランドも出た作品になりました。


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どうしたら観客に納得してもらえる
最高のサービスに結びつけられるのか?


――で、やはり井口監督のもやは十八番ともいえる残酷描写については聞かないわけにいかないのですが(笑)。

  井口昇
井口:これよく勘違いされているんですけど、好き勝手やっているわけではないんですよ(笑)。人によっては“井口昇作品=血しぶきでまくり”と思われているんですけど(笑)、まったくの誤解で。そんなに毎回、血も出てない。毎回、作品によってレイティングやターゲットも違って、それを踏まえた上で描写を考えていくわけです。でも、今回の場合、ホラー映画ですから、残酷描写も大きなサービスポイント(笑)。先ほども話しましたけど、見せ場ですから徹底的にやれました。重きを置いたのは富江がどう変形して、化けていくか。そこで意外性というかいい意味で観客のみなさんを裏切って驚かせたかったところがあります。 あと、AKB48の多田愛佳さんがせっかく出演してくれたので、普段、彼女がステージやテレビでは決してしないことをさせたいとは思いました。これは僕の中のお茶目な本能的欲求として(笑)。

――これは僕が個人的に井口監督の作品に感じてることなんですけど、ワンシーン、ワンカットが常に躍動している印象があって。どこを切り取ってもアクション映画のような躍動感が映像にある気がするんです。なにか、このあたりで考えていることはあるのでしょうか。

井口:僕はもともとごくごく普通の映画ファン。で結局、単純に自分をとことん楽しませてくる映画が好きなんですね。なので、単純にお客さんを飽きさせないことをわりと考えています。それは同時に自分をどう飽きさせないかでもある。ですから、まず自分が映画館に行って何が観たくて、どういうものにワクワクするかというところが僕の映画作りの出発点となるところはありますね。だから、先ほどご指摘されたとおり、映画が躍動しているというのは自分の作品を作る上での大事な要素です。自分の作品のキャッチフレーズとしては“かゆいところに手が届く映画”(笑)。『富江』だったらホラー、『ロボゲイシャ』だったらクリチャー、『片腕マシンガール』だったらアクション、難病映画だったら感動といった具合に、お客さんがその作品へ最も望む期待値がそれぞれある。その期待値にきちんと答えて、気持ちよくなってもらえているのか。そこけっこう考えて描写や演出も作りこんでいきます。スタッフ会議のときも、しょっちゅうみんなに聞くんですよ“これかゆいところに手が届いているかな?”って(笑)。

――なんだかサービス業の店員さんみたいですね。

井口:サービス大切ですよ。とにかくお客さんに楽しんでもらえなくちゃダメ。僕は“ポップコーンほうばりながらジュース飲んで”ってな具合に映画を観るのが好きなタイプなんです。だから、そういうのが似合う映画を作りたい。

――そこを目指す映画の作り手ってそんなにいないと思いますよ。

  『富江 アンリミテッド』
『富江 アンリミテッド』
井口:僕は格好つけるのがほんとうに嫌いで。だから映画監督というとなんだかすごい“アーティスト”というイメージありますけど、そういった具合にアーティストぶることができない。そう斜に構えたほうが、威厳が出たりするのかもしれないけど(笑)。僕は、ちょっと冷めたところがあって、映画は“ついで”という意識があるんです。例えば丸一日つぶして今回の『富江 アンリミテッド』を観にいこうという人はおそらくいないはず。そう思って来てくださるお客さんがいらっしゃったらごめんなさい(笑)。でも、大抵はちょっと時間や懐事情に余裕があったりして、何かの“ついで”に足を運んでくださると思うんですね。メインではないサブの存在とでもいいましょうか。優先順位をつけるとしたら映画は1番ではなく、2番手、3番手の存在だと思うんです。だからこそ、来てくれたお客さんには損をさせたくない。お得な気分になって劇場を後にしてもらいたい。こういったことを常に考えてますね。今回、『富江アンリミテッド』は新宿バルト9で公開されますけど、そうなると例えば『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』とかと並んだりするわけです。そのとき、かけてる予算も時間も太刀打ちできない中、どうベストを尽くせば、見劣りしない観客のみなさんに納得してもらえる最高のサービスに結びつけられるのか考えたりしますね。

――だから井口監督の作品はいつもサービス精神旺盛なんですね。話は少し変わるのですが、演技経験の浅い若手女優さんと組まれるケースが多いと思うのですが、これはなにか理由があるのですか?

井口:新人の女優さんて、いうなれば色が染まっていない状態。逆を言えば色をどうにでも染められるんですね。だから、演出ですごく魅力的になることもあれば その逆になるケースもある。演出家の力量がすごく試されるんですよ。それが僕はすごく面白い。若い女の子ってその瞬間瞬間ですごく変わっていくんですよね。こっちが予想もしない変化があったりして、そこがすごくおもしろい。もちろんベテランの役者さんと組んで芝居をとことん作っていく楽しさもあるんですけど。

――その中でこの女優さんでいこうというキャスティングの決め手はありますか?

井口:芝居がうまいかどうかはあんまり関係ないですね。その人の出している空気感やたたずまいが、その役にフィットしているかどうか。富江役の仲村みうさんはあのたたずまいがまさに富江だったのでお願いすることにしました。

――そうして選ばれた若手女優さんですが、毎回ほぼひどい死に方とかして破壊されてしまう(笑)。でも井口監督、そう破壊しながらも、いつも彼女たちの魅力を引きだしてかわいくとってますよね。これって意外とやれそうでできないと僕は思っているんですよ。

井口:そう言ってもらえるとうれしい! 実は、そこ僕すごく愛情をもってやってます(笑)。ひどい死に方をするけど、そこでどれだけ彼女たちをチャーミングに撮れるかかなり考え尽くしています。手前味噌ですけど、荒井萌さん、仲村みうさん、多田愛佳さんそれぞれから、崩れながらもチャーミングなショットが撮れたと思っています。

――ちょっと話は変わるのですが、映画監督を目指したきっかけは?

  井口昇
井口:監督志望ではあったんですけど、それはあくまで夢でしかなくて。プロになろうとかもあまり思っていなかったんです。ただ、映画は作りたいと思っていて 自主映画を作っていてPFFに応募したりしていた。それを繰り返していたら、たまたま知り合った先輩からアダルトビデオの手伝いを頼まれて。気づくとAV の編集とか監督の仕事が入ってきて、そこで入ったお金でまた自主映画を作る。その自主映画がきっかけで仕事がくるようになって、今に至る感じなんですよね。だから、“絶対監督になってやる”みたいな野望なんてぜんぜんなくて。なんとなく趣味で映画作れればいいな程度で考えていたんですよ。実際、人を束ねて引っ張っていくタイプでもないから、監督にほんとうは向いてないと今も時々思ったりします。

――今後もいままでの路線を突っ走っていく感じですか?

井口:とりあえず今はゾンビ映画を進行中です。でも、チャンスがあればファンタ系以外の作品もトライしたいと思ってますよ。シリアスなドラマとか、重厚な人間ドラマとか、アート系映画とか。でもオファーないだろうなぁ(笑)。



 
  Profile: 井口 昇(いぐち・のぼる)

1969年、東京都出身。
イメージフォーラム映像研究所を経て、学生時代の8mm作品『わびしゃび』が90年イメージフォーラムフェスティバル審査員賞を受賞。自主制作の『クルシメさん』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門で奨励賞を受賞し、以降『恋する幼虫』(03)『猫目小僧』(05)などを監督。09年にはTVドラマ「古代少女ドグちゃん」(MBS)も手がけ、翌年には劇場映画化されるほど話題を呼んだ。また米国資本で製作された『片腕マシンガール』(07)が海外で大ブレイクし、以降も『ロボゲイシャ』(09)や最新監督作となる『電人ザボーガー』 (今秋公開予定)が海外から高い注目を集めている。

映画『富江 アンリミテッド』
(配給:ティ・ジョイ、CJ Entertainment JAPAN/5月14日より新宿バルト9ほか全国ロードショー)
公式サイト: http://www.tomie-unlimited.com

(C)Junji Ito (C)2011東映ビデオ



5月14日、新宿バルト9にて行われた初日舞台挨拶には、井口昇監督、主演の荒井萌、富江役の仲村みう、AKB48/渡り廊下走り隊の多田愛佳が出席。12日に日付が変わった瞬間から チケットが発売され、早朝にはチケット完売という盛況ぶり。舞台挨拶後は、井口監督を乗せた(富江ラッピングの)ロールスロイスからUST中継が行われた。
   

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