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石井朋彦インタビュー

石ノ森章太郎氏のマンガ『サイボーグ009』の舞台を現代に据えた新作長編アニメーション『009 RE:CYBORG(ゼロゼロナイン リ・サイボーグ)』の製作が発表された神山健治監督。その神山監督作品のプロデュースを手がけたのが、Production I.Gの石井朋彦氏だ。あのスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーに師事し独立した後、常に10年後、20年後のアニメーション業界へ向けた策を講じ続ける彼のプランとは一体いかなるものなのか? わずか9館での劇場公開ながら業界内外から注目を集めた『攻殻機動隊S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』(2011年3月26日公開/神山健治監督)の成功を例にしながら現状について尋ねてみた。

取材・文/大場徹、戸田美穂

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劇場というアナログな世界に
どうしたら足を運んでもらえるか


 

——『攻殻機動隊S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』が9館での公開ながら、初日2日目のスクリーンアベレージが260万円、5週連続ミニシアターランキング1位、興行収入2億円を突破という異例の大ヒット、とお聞きしました。

石井:最終的には全国で転々と、開けては閉じて……と公開したので45館くらいは上映しましたが、興行収入の8割はその9館ですね。封切館の新宿バルト9では異例のロングラン公開をして頂きました。

——アニメーション作品で、こうしてジワジワと全国的に広めていく興行形態は珍しいと思うのですが。

石井:もともとはOVAで世に出ている作品だったので、大規模な公開はせず、スクリーンアベレージを意識して、とにかく劇場を満席にしたいと思ったんです。拡大公開して興行収入が大きくても、劇場に行ってみるとスカスカというのは映画として残念だなと。最初は初日から40~50館なんて話も出ていたんですが、共同配給のティ・ジョイさんと相談の上、結局は10館(*仙台での公開は震災の影響で延期)ではじめようということになったんです。これは『東のエデン』の経験に寄るところが大きいです。『東のエデン』は7スクリーンの開始で、劇場版2作で20万人近くのお客さんが来場してくださった。小さな規模で始めて劇場が満員になっている記憶をお客さんやメディアに刻んだ上で広げていこうというのはもともと決めていました。

――なるほど。『攻殻機動隊S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』では自社で配給もされてますよね?

 
石井:ええ。事業拡大……と誤解されるんですが……(笑)。まず、小規模で公開していくと決めた時点で、直接劇場へのブッキングを自分たちでできるのでは? と考えました。あとはティ・ジョイの紀伊宗之さんとの出会いが大きかった。配給という業務は、出演者とのやり取りやブッキングなども含め、宣伝の中核も担っていますが、アニメーションは実写映画と違って出演者は監督とスタッフが作り上げたキャラクターですし、制作会社のプロデューサーがコントロールする事が、最もスピーディーで、意思決定が速いのです。例えば、通常、劇場でイベントをやろうとすると多額の費用が発生してしまいますが、関係者の皆様にご理解を頂き、劇場で販売する一部の限定商品のロイヤリティーを低く設定し、劇場が頑張って下されば利益も増えるし、僕らも結果、お客さんに喜んで頂けるというスパイラルを目指しました。

――確かに、バルト9は面白いことをやり続けますよね。

石井:紀伊さんに聞いてなるほどと思ったことが、劇場というシステムは、映画は生ものゆえ、観客が入っても入らなくても成り立たせなければならない仕組みになっているので、特徴的な作品を上映して、まさかの大ヒットを当てにいったほうがずっと面白いと仰ってました。

――そうしたバルト9の特徴やお金のかからない宣伝というところで、『攻殻機動隊』の完成披露上映会ではTシャツのプレゼント(Google提供)をしたり、来場者が神山さんや石井さんのトークの様子を撮影しソーシャルメディアにアップしたりと、楽しさを伝える戦略はすごいなと感じたのですが。

石井:そうですね。ソーシャルメディアの影響力はすごいですね。神山さんも積極的でtwitter効果は本当に大きい。ネットユーザーは神山作品好きが多いですからね。

――ニコニコ動画を使った配信やテアトル新宿でおこなった『東のエデン』のイベントも非常に面白いなと感じたんですが、このようなことはすぐ試してみるんですか?

石井:あまり専門的には学んでいないですが、必ず手を出します(笑)。全てのものがデジタル化されていく一方で、ライブの価値というものが非常に上がってくる。音楽業界ではすでにきていますが、ネットの影響で、映像だけで言えば劇場以外のものは限りなくタダになっていく世の中で、劇場というアナログな世界にどうしたら足を運んでもらえるかを考えるのが今後のカギです。今では各個人の趣味思考はバラバラですし、国民的大ヒットは生まれにくい。その中で作品自体の質も高め、付加価値をつけて提供することで細分化してしまったお客さんの層の中から、少しでも多くの方々に劇場に足を運んでもらえるようにすることが重要ですね。

――今のお話を聞いていると、映画に「生」で提供する付加価値をつけて興行をおこなっていくことは、数年前には考えなかった感覚ではないかと。

石井:そうかもしれません。なかなか難しいのですが、今は映画と配信を同時にやりたいと思っているんです。インターネットで全国どこからでも見られるように配信して、劇場で観る方は「“+α”で面白い体験ができますよ」という感じにしていきたいんです。

――同時配信ということになると劇場動員に響くのでは?という危惧の声も聞こえそうですが、今の時代そうではないですよね。

 

石井:それはあまり影響はないと思います。現在、まず劇場で興行をしてからブルーレイやDVDを出し、その後配信やオンデマンド、ケーブルテレビ、テレビ放映としていくのがスタンダードですよね。そうした利用価値は様々あっても、インターネットで配信されたとたん、それ以外の価値がなくなるとされているのが普通です。そこで配信を一番最初――劇場公開と同時――に行えば、最後にブルーレイやDVDを売り出すことで、オンデマンドやケーブルテレビでの放映にも付加価値が付きますし、本当に好きな方にブルーレイやDVDを買ってもらえると思います。さらにブルーレイやDVD発売までの期間に別のエンディングやサイドストーリーを考え、特典にすることも可能なんです。もっと言えば発売するソフトに関しては受注生産にすることも考えられると思います。そのような取り組みは今まで前例がないので、是非やってみたいですね。

――そうしたプランを今オープンにされてますが、情報を開示していくというのも戦略の一つなんでしょうか?

石井:これは戦略とかではなく、オープンにしたほうがチャンスがくる、と思っているからです。プランを積極的に口にすることで、「ウチがやりたい」といってきて下さる方を常日頃から求めてるんです。実際に打ち合わせする時も、そうした話をした後は、相手が動くかどうかだけを見ている。本当に進めたいと考える方は、翌日くらいには企画書を持ってきて下さるので、そうした場合はほとんど採用していきます。

――面白い企画を持っていけば一緒にやってくれる。そう思わせる石井さんもすごいですね。

石井:でもそれは紀伊さんもそうですし神山監督もそうです。神山監督なんてご飯食べていながらでも、常に何かを決めていきますし仕事に結び付けていきます。そんなスピード感覚を共有できるチームであるという事が、最大の誇りですね。


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「スタジオジブリの鈴木敏夫さんこそが、
僕の目指す唯一のプロデューサー像」


――今年4月に設立された新会社「STEVE N' STEVEN」について伺います。神山健治監督が自ら共同CEOに就任されて驚いたんですが、もう一人の共同CEOである古田彰一氏とはもともとどのような繋がりがあったのでしょうか?

石井:ウソみたいですが、実はtwitterなんです(笑)。古田さんは博報堂のクリエイティブディレクターで、神山さんの大ファンだったんです。Twitterを介して二人が知り合い、僕は神山さんに「面白い人がいるから」と紹介されたのがもともとのきっかけです。

――今後の作品は「STEVE N' STEVEN」から出していくということですか?

 
神山健治監督の新作長編アニメーション『009 RE:CYBORG(ゼロゼロナイン リ・サイボーグ)』

©Production I.G ©石森プロ
石井:いいえ、アニメーション制作はProduction I.Gです。「STEVE N' STEVEN」という会社は、簡単にいうと僕にとっては、作品のプロモーションの窓口に当たる存在です。他にも様々なプロジェクトが進行していますが。映画を作るときに必要なのはもちろん企画ですよね。次に必要なのが製作資金で、その次に必要なのがプロモーションの窓口なんですよ。国民的人気を誇るジブリ作品であればトップ企業がタイアップの手を挙げられますが、そうでない作品が企業に売り込む場合、時間をかけて、作品の翻訳者となってプロモーションしていく存在が必要になるんです。それが「STEVE N' STEVEN」の位置づけです。日本というのは企業社会で個人の投資家が少ない国です。だからこそ、“製作委員会”方式というリスクヘッジをするシステムがあるんですが、そういった企業に対して、映画を他の広告媒体より宣伝力のあるものにしていきたいと訴え実践していける存在になればと思っています。

――映画製作における宣伝営業のようなもの?

石井:僕は制作現場でも宣伝でも活動するので、一つ一つの企業と密に連絡を取り合い、関係を築いていくというのは難しい。この「STEVE N' STEVEN」という会社は博報堂と共同出資で設立した会社なので、常に企業の責任者と繋がっているというのは、宣伝上でのやり取りがスムーズにもなるんです。それに神山さんや古田さんのようなクリエイターが社会を切り取る視点というのは、企業の方からするとハッとするような考えだったりすることが多いんですよ。そうした、作り手側からの企業に対するアプローチも始めています。

――とはいえ、こうして色々お話を聞いていると石井さんご自身が引き出しを多く持っているし、各所でハブ的な部分をこなしているという印象が強いです。

石井:それはやはり(スタジオジブリの)鈴木敏夫プロデューサーの影響が大きいですね。鈴木さんには勝てないです。

――スタジオジブリにはいつまでいらっしゃったんですか?

石井:『ホーホケキョ となりの山田くん』(99/高畑勲監督)から『ゲド戦記』(06/宮崎吾朗監督)の製作終了までいました。その後、『イノセンス』(04/押井守監督)という作品でご縁があったので、その流れの中で『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(08/押井守監督)という作品からProduction I.Gに入ったんです。

――スタジオジブリ時代に学ばれたことでもっとも大きい点はなんでしょうか?

 

石井:ジブリの作品は一朝一夕のヒットではなく、『風の谷のナウシカ』(84/宮崎駿監督)から今までの歴史の積み重ねがあるから。僕らもそこを目指していて、単純に興行収入の積み重ねだけじゃなく、この監督、このチームだからワクワクするんだと、常日頃からファンの方に思っていただく事が、なにより大事だと思っています。

――ある種、一つのブランドとして?

石井:そうですね。アニメーションには3つのタイプがあって、1つは『ONE PIECE』や『ポケモン』に代表される原作ものやシリーズ大作。2つ目はいわゆる“萌えキャラ”ものです。コアターゲットに向けて商品化やイベントなど仕掛けていくマニア向けの作品。3つ目が「監督中心主義作品」です。宮崎駿監督、細田守監督、原恵一監督らの作品がそうですね。神山健治監督も次世代を担う監督として、神山健治だったら必ず観たいと思わせるプロジェクトを、常につくってゆかなければならない。そういう考えもあって、神山さんとは10年後はこうする、20年後はこうしよう……なんていう話をよくします。

――石井さんにとってプロデューサーの概念とはどういったものでしょうか?

石井:僕にとってプロデューサーは鈴木敏夫さんだけなんですよ。編集者時代から宮崎監督と寝食を共にして、原作を作り、現場を立ち上げ資金を調達し作品を作って、宣伝して、スタジオの運営までしている。鈴木敏夫さんこそが、僕の目指す唯一のプロデューサー像です。

――では石井さんも神山監督の全てをプロデュースしていく姿勢ということですか?

石井:そうですね。真似しています。

――鈴木さんのすごさって何なんでしょうか?

 
石井:世の中的には人を巻き込む才能、作家をコントロールし発展させていく才能、宣伝の神様……なんて言われていますね。全部正しいんですが、僕が近くで見ていて一番感じたのは誰よりも考えているということですね。一見、直感で動いているように見えるんですが、思考が早すぎてそう見えるだけなんです。そして更に宮崎駿監督は鈴木さんの上をいってしまうんですよ。この二人の脳みその回転率はすごいと思いましたね。でも、その感覚は神山監督と出会ったときもありました。あ、この人は宮崎さんと鈴木さんみたいだ、と。

――頭の回転ということがお話に出たのでお聞きしますが、石井さんが日頃そうした働きをシャープにしておく秘訣みたいなものはありますか?

石井:日曜日にNHKの『NHKスペシャル』を見ることと『クローズアップ現代』を見ること、あとは人と会って話すことですね。ドキュメンタリー番組を見るというのは「今」を知る上で重要だと思うからです。人と話す内容は、映画のことに限って言えば、映画を観終わったらあらすじを思い返して、この作品で監督が言いたかったことは何だったんだろうというのを考え、それをどう人に楽しく話すかを考えて話す。そうすると大概のことに応用がきくと思います。映画というのはいろんな想いや思考が詰まっているもの。以前、鈴木さんに作品中で主人公の次に登場回数が多いキャラに、監督の思いが反映されていることが多々あると聞いたことがあって、なるほどと思いました。映画を見て面白かった、つまらなかったではなく、それを検証し、人に話すということはあらゆる意味で“思考をまとめる力”になりますね。好きなことを喋る事で食べていけるなんて、幸せな仕事だと心から思います。

――「今」を知る上でと仰っていましたが、その「今」がクリエイティブという行程を通すと「過去」になってしまうことはあると思うのですが、それについてはどうお考えでしょうか?

 

石井:アニメーションでは往々にしてあることですね。完成するのは2年先ですから。まずは、監督と共に、ギリギリまで検証し時代に合っているだろう、と仮定します。さらに僕の仕事は宣伝の部分でそれを既成事実にしてしまうということです。例えば今回の『攻殻機動隊』の場合、既出の作品なわけですから、作品が持つ社会的先見性を前面に打ち出したところで響かないと思ったんです。むしろ「あ、ファンが好きで言ってるのね」と間口が狭まってしまう。そこでまずは3D化にあたって、サイボーグのインターフェイスが画面から飛び出すという効果は新しい体験だと思ったので、コピーライターでもある古田さんに「見る人を電脳化する3D」というコピーを作ってもらったんです。体験型3Dというのを前面に打ち出して、間口を広げようと考えました。次に、バルト9を中心したイベントでお客さんに楽しんで頂いている姿を、ソーシャルメディアで全国に広げる事に注力しました。「今この作品を観なければ!」という空気をいかに作り出す事が出来るかが、作品を通して時代と向きあう監督に対して、プロデューサーが果たすべき使命です。時代は読めないし外れることがあるからこそ、監督がギリギリまで粘って築いた時代性を宣伝で補完し、いかに「祭り」として盛り上げるかが宣伝部分でのプロデューサーの関わり方だと思います。

――その点を考えると、現代を未来として描いている神山監督はすごいですね。

石井:まず、昼食を食べながら話している話題がすごいですから! 神山監督とは興味の矛先が似ていたのは幸運だったと思っています。押井守監督の弟子とか、富野由悠季監督に憧れてアニメーション監督になったと神山さんはよく言っていますが、僕から見ると、先ほど言った脳みその回転率の凄さという意味においても、宮崎駿監督に非常に似ているものを感じます。



 
  Profile: 石井朋彦(いしい・ともひこ)

1977年生まれ。1999年スタジオジブリ入社。鈴木敏夫氏に師事し、『千と千尋の神隠し』、『猫の恩返し』、『ハウルの動く城』でプロデューサー補、『ゲド戦記』で制作を担当。2006年、Production I.Gへ移り、押井守監督『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0』、神山健治監督が原作・脚本・監督を務めた『東のエデン』をプロデュース。2011年春より公開された『攻殻機動隊S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』が、わずか9館の公開ながら興行収入2億円という異例の大ヒットを果たす。
現在、石ノ森章太郎氏のマンガ『サイボーグ009』原作の新作長編アニメーション『009 RE:CYBORG』が製作中のほか、その他長編企画も進行中。

神山健治監督公式サイト:http://www.ph9.jp/
Teitterアカウント:@icitomohiko

©2011 士郎正宗・Production I.G / 講談社・攻殻機動隊製作委員会
©東のエデン製作委員会
©Production I.G ©石森プロ
   

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