HogaHolic LOGO
topNEWSREVIEWVOICETHEATERFEATURE
filmfestival
TOP > INTERVIEW:岩崎太整インタビュー
岩崎太整インタビュー

映画『モテキ』で第35回日本アカデミー賞 優秀音楽受賞。第64回、第65回毎日映画コンクール音楽賞に『SR サイタマノラッパー』、『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』で2年間連続ノミネートされるなど、今もっとも注目を浴びている映画音楽作曲家の岩崎太整氏。今春公開予定の『SR』シリーズ第3弾である、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』でも音楽を担当。インディペンデントである同作品では、自ら埼玉県のロケ会場に出向き、ステージ設置にも手を貸した。「もっと音楽は映像に対して密接であればいいなと常々思っている」と言う岩崎氏に、映画への想いを聞いた。

取材・文/植山英美

line
「この画に、この音楽を付けていくっていう
オーダーメイドなスタイルにしたい」


――第35回日本アカデミー賞 優秀音楽の受賞おめでとうございます。まず映画音楽を始めたきっかけをお聞かせいただけますか?

岩崎:特にこれと言ったきっかけは無いままここまで来たんですけど、実は音楽を始めたのはわりと遅くて、20歳くらいからだったんですよ。

――すごいですね。3歳くらいから英才教育を受けているかと思っていました(笑)

岩崎:音楽はやるもんだじゃなくて、聴くもんだって思っていました(笑)

――大学は入江悠監督らと同じ、日本大学芸術学部でしたね。

 
『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』
岩崎:はい。大学では脚本をやっていたんですね。でもあまり向いていない気がしていました(笑) 映画も脚本も好きでしたが、僕よりももっと好きな人が学内に沢山いたんです。で、全然ダメだと思って。「これ、俺じゃねえや」て(笑)だから、いっそ好きな音楽をやろうとジャズを始めて、ジャズギターをやったんですが、「プレイヤー」というもの自体にあまり向いていないように思えて。それでも割とちゃんとやりましたけど。とにかく挫折の連続だったんです。その間にぽろぽろと曲を作り始めたら、そっちの方が楽しかった。

――『モテキ』『SR』(『SRサイタマノラッパー』以下『SR』)シリーズなど、これぞ音楽映画、という作品にはかならず岩崎さんの名前を目にするようになりました。映画に密接に相対する独特なスタイルを持っているように思います。

岩崎:「もっと音楽は映像に対して密接であればいいなあ」と常々思っていて。昔の映画のように、この画に、この音楽を付けていくっていう、オーダーメイドなスタイルにしたいと思っているんです。今の日本の映画音楽の作り方っていうのは、映像が出来上がる前に、作曲家が曲を何曲か仕上げて渡して終わりという場合が多いみたいなんです。どういう場面で使うとか、どこからどう使うとか、そういう事はあまり無いようで。

――現在でのオーダーメイドなスタイルの映画音楽作家というと、久石譲さんや梅林茂さんしか思い浮かびません。

岩崎:どうしたって予算の問題や、時間の問題があったり。僕は以前、従来のやりかたで映画音楽を担当したんですが、音楽の使われどころがめちゃめちゃだったり、こっちの意図とは違ったりした事があって。音響監督という立場の方がいて、彼らは映像を主体にして音楽を切り貼りするので、曲の切りどころや入りどころに違和感があったんです。僕は「画が出来てから音を付けていく」という手法でやっているので、どうしても疑問が残りました。「もっとこの場面にビタリと合う音楽を作りたい」と。尺もテンポも含めて。そういう音楽の映画的効果や演出に関して割とスムーズに考えられるのは、やはり学生時代に脚本を学んだ経験が活きていると思います。どのような意図のシーンであるかが脚本段階である程度検討が付いて監督と話が出来る。それは作曲家としてアドンバンテージに成り得ると思っています。  

――作品のストーリーテリングに影響を与えうる映画音楽と、そうでない音楽があるように思います。  

岩崎:僕はBGMと劇伴(映画で流れる伴奏音楽)の違いはそこにあるな、と思うんです。劇伴っていうのは劇中の感情に作用するもので、BGMは単にバックグランド・ミュージックとしての役割のみというか。登場人物の映画の中の関係性とか、感情を、どちらかに押してあげたり引いてあげたり、突き放したりという効果がないと劇伴とはいえない。何らかの映画的演出がないと。

――突き放す効果・・・  

岩崎:例えば男と女がいて、最初にきれいな旋律が流れたら、ハッピーエンドが見えちゃう。「上手くいっちゃうよね、これは」とネタバレになっちゃう(笑)。勿論全てがそう、というわけではないでしょうけど。

――音楽に注意していればバレる(笑)

岩崎:いきなり物語が進んじゃうだろう事をバラしちゃう。そうはならないようにと『モテキ』の時はすごく意識したんです。監督の大根(仁)さんという方は、音楽にすごく造詣が深く、音楽をきちんと信頼している人なので。それでも随分直されました(笑)  。

――『モテキ』は、既存曲がふんだんに使われています。  

 
岩崎:曲は大根監督や原作者の久保ミツロウさんが選んでいて、僕はそれ以外の劇伴を作っています。劇伴の効果が印象的な箇所は、例えばperfumeの曲『Baby cruising Love』が流れるシーンで、その前のシーンから繋がる劇伴が僕の曲なのですが、実は両方の曲のキー(音楽の調性)が同じなんです。キーを合わせてあげると、曲が変わった時の感覚的な違和感がなくなる。かつ、テンポを少し遅く感じさせる事によって次に来る曲への長いイントロの様な作りになり、ぐんっと気分を高揚させて、そこで(曲が始まった瞬間)ドンとくるような作りになっているんです。そこは「既存曲があるからこそ」の面白みというか。あのシーンは物語が一度頂点に来るので、キラリとした感覚を演出したかった。  

――『モテキ』には、岩崎さんの劇伴もかなり挿入されているのですね。  

岩崎:そうですね。もちろん既存曲も一杯あるんですが、その間の曲は基本僕の曲です。緻密に作っていますから、逆にわかり辛いと思います(笑)。 かなりの数あるんですけどね。邪魔になっていないかと。

――ドラマ版での工夫で印象的なものは?

岩崎:ドラマも既存曲が多かったので、その間をどう埋めるか。なんだろうな、9話に”くるり”の「バラの花」(2001)という曲が登場するんですが、あの曲のイントロには印象的なピアノのリフが入っていて。実は前曲とのお尻をきっちりと繋げているんです。単純にクロスフェードしているように聞こえるんですが、BPM(音楽で演奏のテンポを示す単位)も揃えて、そのリフも音色も自分で作りこんで、観ている側にはシームレスに移り変わった様に聴こえる細工をしています。  

――DJみたい。  

岩崎:そうそう、DJ的作曲です。劇中に出てくる既存曲の間を繋げていく劇伴。キーをそろえたり、BPMをあわせたりして…  

――『SR』シリーズでは、岩崎さんのオリジナル曲が使われています。既存の曲を使った『モテキ』とずいぶん印象が違います。

岩崎:『SR』もオーダーメイドというのは同じですが、内容はまた少し違って。『SR』は音楽としてマジョリティに向けなければいけないと思っていました。 ラップって簡単には一緒に歌えないし、それゆえどうしても覚えてもらいづらい。小さい映画でしたし、だからこそ一般のものより更にマスに向けたというか、一回聞いただけで耳から離れないようなものにしなくちゃ、という想いがあったんです。ヒップホップに対する個人的な思い入れはかなりあるんですが、それを差し引いても、まず覚えてもらいたかった。  

――友人に『SR2』(『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』以下『SR2』) を見せたら、「シュッシュッシュッ」とずっと歌っているんですよ。  

 
岩崎:『SR2』の場合は「シュッシュッシュッ」というフレーズが頭から離れられなるくらいでないと、主題歌として成立しないだろうなと。商業映画ですらなかなか覚えてもらえないのが普通です。しかもオリジナルでね。商業映画ならタイアップで名前のある人に歌ってもらったりできるのですが、『SR』シリーズはインディペンデント映画で、且つラップがモチーフなのでメロディが無いわけですから。「それらを全部超えるような、力のある曲じゃないと主題歌として覚えてもらえない」と。もっといわゆる一般のヒット曲のような感じにも出来たんですけど、それをやっちゃうと『サイタマノラッパー』ではないかな、とも。「なんとか知ってもらいたい、残ってもらいたい」という思いがあって、キャッチーにつくってあるんです。曲のサビにわざと少しだけメロディを付けたんですが、すごく葛藤がありました。ラップから少しだけ遠のいてしまっている気もしたので。本当に悩みました。 ですが、今はやっぱりやって正解だったなと思っています。 

――あと、曲調が明るいですよね。  

岩崎:日本で生まれた日本語ラップの魅力を意識しました。“アメリカン・ヒップホップ”に真っ向から対峙するのではなく、日本独自のヒップホップ文化に根ざした音楽にしたいな、と。世界的にも珍しい女性5人組のクルーでしたし。作ってみた結果、僕にとってとても思い入れの深い作品になりました。『モテキ』と『SR』は映画音楽の役割といった点では真逆の手法かも知れませんね。

――『SR』の『1』と『2』で比べたら、曲自体で泣かされたのは、『1』なんですね。TKD 先輩が亡くなって、イックやトムがマイティ車の荷台に乗り込んで、出来たてのトラックを聴くところ。単純に曲の力だけで泣かされました。  

岩崎:そこは意識しました。あの曲のピアノのリフはちょっとウェットな感じで。『2』は女の子なので、ウェットにし過ぎちゃうとリアリティがあり過ぎて誤解を招きそうだから、ちょっと危険かなと思って(笑)。『2』の方がイメージが硬いんです。どちらかというとトラディショナルな音に近い。『1』はSHO-GUNGが作った設定で、サイタマ感を出したかったので、音がチャチいんです。わざとダウンコンバートして。

――トラックを作る時に、音数を少なくしたり、ですか?  

岩崎:いや、反対に音数を多くしたり、ごちゃごちゃさせちゃったり。いわゆるサイタマの人たちが思い入れだけで作って、入れすぎちゃって、もっさり感というか。  

――その辺りのさじ加減は、難しいように思います。『SR』のサントラは人気ですし、ファンは100回、200回聞き込んでいるじゃないですか。それに耐えるだけのクオリティを保ちつつ、チャチさも出すという。

岩崎:まあそうですね、でも実際、チャチいと思うことありますけどね(笑)。そんな簡単には(意図は)伝わらないです。それでも、もちろんわかってくれる人はいます。一番初めに気付いてくれたのは、RHYMESTERの宇多丸さんなんです。「これ、わざとチャチく作ってるでしょう」って、ずばっと。  

――さすが。

岩崎:本当に一番最初に言及してくださった方なんです。初めてお会いしたぐらいの時に。この人「すげー」て。『SR』が今ほど評価される前のことなんで、まだ僕らは有象無象だったにも関わらず丁寧に答えてくれて。良いといってくださる方もいましたけど、批判的な意見ももちろんあって、「伝わんなかったな」と思っていました。なので、とても嬉しかったです。未だに鮮明に覚えていますね。  

 
――『2』では?

岩崎:『2』は、そこまでチャチさは必要なかったんです。女の子って、そうじゃないと思ったんですね。もっとキラキラしているものが似合うと思ったんです。稚拙ではなく、クオリティは高いけれど、どこか力が抜けていて気持ちが良い。音楽もヒップホップに忠実で。様式美としてのサンプリングを意識しようと思っていたんで、演奏も捨てて。  

――演奏を捨てたフラストレーションを「The Cubes」で出しているんでしょうか。  

岩崎:いえいえ、「The Cubes」は全く違うやり方で、作曲家としての挑戦と言いますか。映画音楽やドラマ、CM等、個人で作っているのが多かったので、逆をやってみたかったんです。作曲家として、こういったものもできるという、トラックメーカーだけではない、という意思表示というかね。   



 
  Profile: 岩崎太整(いわさき・たいせい)

1979年北海道出身。日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ドラマ・CM等の様々な音楽を手掛ける作曲家。代表作に『SR サイタマノラッパー』(09)、『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』、ドラマ『モテキ』(10)、映画『モテキ』(11)がある。2009年、自己の音楽ユニット『The Cubes』を結成。第64回、第65回毎日映画コンクール音楽賞に『SR サイタマノラッパー』、『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』でノミネート。映画『モテキ』(11)で第35回日本アカデミー賞 優秀音楽賞受賞。

『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(4月公開予定)
公式サイト:http://sr-movie.com/
   

ページトップへarrow    



©2008 HogaHolic TRYWORKS LOGO