HogaHolic LOGO
topNEWSREVIEWVOICETHEATERFEATURE
filmfestival
TOP > INTERVIEW:内藤瑛亮インタビュー
内藤瑛亮インタビュー

中学生が妊娠中の担任教諭の給食に異物を混入するという、2009年に愛知県で実際にあった事件を元に映画化したこの作品。カナザワ映画祭2011でプレミア上映され、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭のコンペティション部門に登場した。内藤瑛亮監督は映画美学校フィクションコース第11期生で現在29歳。『先生を流産させる会』は、大人になることを否定する子供たちの姿を客観的に捉えることで、観客に問題を提示する作品になっている。『牛乳王子』『先生を流産させる会』『廃棄少女』『お兄ちゃんに近づくな、ブスども!』と刺激的な作品をコンスタントに制作している内藤監督。インタビューで見えてきたのは、狭い世界に留まることなく、常にバランスを取りながらレベルアップを図ろうと努力する姿だった。

取材・文/デューイ松田

line
『牛乳王子』は挫折。コアな趣味層にしか
届かないなら意味がないと思ったんです


――映画美学校に入ったきっかけを教えてください。

 

『先生を流産させる会』
(C)2011 内藤組
内藤:大学生の頃は、元々漫画を描いたり演劇をやったりしていたんですが特に結果も出なくて。映像も遊びでPVや映画を撮ったりしていたんですけど、1人でやるのは内容的にも物理的にも限界がありました。愛知から東京に出てきて何のネットワークもなかったので、本格的に映画を撮るなら学校に入って仲間を作るしかないと。映画美学校は平日の昼間に働いて夜学校にいけるということと、学費が安かったので選びました。あと、清水崇さんの『呪怨』が好きだったので、清水さんが美学校の課題から順調に『呪怨』を撮れたと聞いて、そうなりたいと思ったんです。

――元々ホラー映画がお好きだったんですか?

内藤:全部母親の影響なんですけど、子供の頃から手塚治虫、永井豪、山岸涼子といった漫画を読むようになって、その後ホラーも観るようになったんですね。『チャイルド・プレイ』や『エルム街の悪夢』が入り口。アートっぽい映画は全く観なくて、ハリウッドの超大作やホラー寄りの作品を観て育ちました。“映画は娯楽でしょ!”って感じですね。

――『牛乳王子』は美学校の課題ですか?

 
内藤:初等科の修了制作で、企画を選ばれた人のみが撮れるので狙っていました。結果的に撮ることができたんですけど、僕の中では挫折でしたね。映画祭にも通らず、上映されても反応が良くなくて。トラッシュ・カルチャー誌「TRASH-UP!!」はいい評価をくれましたけど。多くの場で評価されるのは、青春、恋愛、10代のモラトリアムを描いたものなんです。でもそういうのは描きたくなかった。とはいえ、このまま『牛乳王子』の路線でホラーを撮っていても、コアな趣味層にしか届かないなら意味がないと思ったんです。商業でホラーを撮るなら観客に届けるルートがあるから成立するけど、自主ではルートがありませんから。それで次の長編を高等科で撮るために、実際にあった事件をモチーフにしようと考えたんです。俺も興味を持てるし、一般の人も人間ドラマとして入ってくれるだろう、と。

――ではそろそろ『先生を流産させる会』の話に。2009年に起きた事件自体について、一般には不愉快や怖いと感じたり、子供だから強制的にしつけるべきとか様々な反応がありますが、内藤監督はどう感じましたか。

 

『先生を流産させる会』
(C)2011 内藤組
内藤:教育委員会が“稚拙ないたずら”というコメントを出して、ネットには様々な意見が出ました。実名をさらせばいいとか、刑務所に行けばいいとか、さらし首にしろ的な意見が多かったように思います。その気持ちはもちろん分かりますが、欠けている視点があると思ったんです。自分も加害者/被害者になる可能性があるという視点で、そこに違和感がありました。自分の十代の頃を考えても結構ひどいことをしたり、命の大切さを理解しきれてなかったんですね。だとしたら自分にも有り得たかもしれない。あるいは、ちゃんと育てているつもりでも、自分の子どもがそうなっていたかもしれない。親や先生の立場でその責任をどうせ負っていくのか。映画を作ることで傍観者を当事者の視点にすることができます。「あなたはどうする?」という問いかけができると思ってこの映画を作りました。

――元の事件は男子生徒が起こしたものでしたが、女子生徒にしたのは何故ですか。

 

『先生を流産させる会』
(C)2011 内藤組
内藤:この事件に対して多くの人が激しい拒絶反応を示した最大の理由は「先生を流産させる会」という言葉だと思います。僕も、否定されたくないものを否定されたような感覚を覚えました。劇中でも触れていますが、「流産させる」という行為は殺人罪にはならないんですね。でも人殺し以上におぞましい行為のように感じる。事件の詳細をノンフィクションとして描くっていうより、なぜこうもこの言葉に対して僕たちは拒絶感を覚えるのか、という点を描きたかったんです。事件を起こした男子生徒は「嫌いな女性教師が妊娠していた」という発想だったんだと思います。でも自分が描きたいテーマに迫るためには、女性教師が妊娠したことに嫌悪感を覚えるキャラクターでなければいけません。中学生のとき、同級生の女の子二人が「セックスで自分らができたなんて気持ち悪い」みたいな話をしてて、それが脳裏にべったりと貼りついてて。思春期の女の子が性的なものを憎む感覚があるのだろうなって思ったんです。ムンクの『思春期』に描かれている女の子だとか、幾つかの少女犯罪をイメージしつつ、キャラクターをつくりました。また女子生徒と女性教師が、加害者と被害者という関係だけではなく、お互いの過去と未来とも重ね合わせられるな、と。ドラマとして強度を高められるじゃないかなって。あと、最初に新聞記事を見たときにオープニングの田園の奥に高速があって、手前を女の子が歩いている、あの絵が浮かんだんです。感覚的に思い浮かんだイメージは大切にしたほうがいいだろうな、と。


line
俺、女の子が怖いっていう
根本的な感情があるんです


――女の子の話にするために脚本で3人の協力が必要だったんですね。渡辺あいさん、松久育紀さん、佐野真規さん。

 

『先生を流産させる会』
(C)2011 内藤組
内藤:みんな美学校の同期です。『牛乳王子』は僕の趣味が前面に出ているもので、今回は外部の視点でブラッシュアップして前回届かなかった層に届けたいと思ったんです。メインで係ったのが渡辺さんと松久さん。根本的な映画に対する考え方はある程度共有できてるんですが、趣味は合う訳ではなくて、二人ともホラー好きではない。だからこそ僕の意見を客観的に見てくれるし、女性としてこの場面はどう思うか、学生時代にどんなエピソードがあったかといったことを聞かせてもらいました。

――3人が入ったことで一番影響のあった部分はどこですか。

内藤:ラストの選択ですね。僕があるラストを書いたらみんなが怒って「それじゃぁ『牛乳王子』と同じ。あの時届かなかった人には届きませんよ!」ってぴしゃっとはねられました(笑)。「内藤さんはそれでいいんですか」って。僕の性格も把握した上で過去と現在・未来を考えて意見してくれて。一緒にやって来た仲間ならではですね。

――ゆうばり国際ファンタスティック映画祭では『先生を流産させる会』の舞台挨拶と上映がありましたが、反応はいかがでしたか。

内藤:終わった後に話しかけてくだったのが学校の先生で。「僕はラストの選択を支持します」って握手してくださったのが嬉しかったです!

――『牛乳王子』と『先生を流産させる会』では“気持ち悪い”という言葉がキーポイントになっていましたが、どう捉えておられますか。

 
内藤:俺、女の子が怖いって根本的な感情があるんです。10代の頃からもてるタイプではなかったし、興味はあるけど話せない。怖いって感覚になっていって。大人になった今も、仕事で女性と接していて、人の怒り方とか、怖いなって感じるときはありますね。

――“気持ち悪い”って言葉は感覚でしかなく、感覚で判断していますよね。

内藤:女の人って生き物としてそういう判断があるのかな。いいか悪いかではなく、気持ちがいいか悪いか。特に意識した訳ではないですが、気が付いたら使ってましたね。

――ロケーションで印象的なのが廃墟のラブホテルです。田んぼの中にああいう建物があるのも面白いし、流産させる会のアジトとしてラブホテルを使うという感覚も面白いです。

内藤:性を憎んでいる子たちが、性を楽しむ場が崩壊した場所にいる。元々廃墟が好きなのもあって、その辺は感覚でしたね。

――主演でミズキ役の小林香織さんが、階段のシーンで先生を見降ろした顔が素晴らしかったです。女優さんではないんですね。どうやってキャスティングしたんでしょうか。

 

『先生を流産させる会』
(C)2011 内藤組
内藤:最初中学生キャストがなかなか集まらなかったんです。事務所に打診してもこんなタイトルの映画には出せないとか。ただ、事件の生々しさを出すには素人がいいだろうと思っていました。ミズキ役の小林香織ちゃんは制作部の友達の子供です。印象的な子がいるって写真を見せてもらったら「絶対この子だ!」となったんですが、お父さんに反対されまして。ネットで『牛乳王子』の予告編を観たらしくて(笑)。最初は香織ちゃん自身も出ないって言ってたんですけど、制作部が何度か交渉しているうちに段々やる気になってくれました。お父さんにはメールや手紙でこういう意図で真面目に作っているんですって脚本も送って、二人をワークショップに招待したりして段々と理解していただきました。香織ちゃん自身も映画の撮影というよりここに来れば友達と遊べて楽しい、といった感覚で参加してくれたようですね。
試写の後にお父さんが「出してよかったです」ってメールをくださったので、俺もよかったなーって(笑)

――苦労の甲斐がありましたね。演技の経験がない方に向けての演出はどうされましたか。

内藤:香織ちゃんは、「あの人気持ち悪いと思って見てて」くらいの情報でさっとやってもらったときの方がいい表情をするんです。大人は何回かやる方がブラッシュアップされるけど子供は集中力がなくなりますから、深く考えずに演じた一回目がいいんです。あるいは逆に、興味を失いすぎてぼーっとしているときがいい表情だったり。階段のカットは多分そういう時で、何も考えないで覗いているから空洞っぽい怖さが出てましたね。

――先生役の宮田亜紀さんは、常に臨戦態勢な感じが面白かったです。目力があって単なる被害者ではなく、女同士闘おうとする意志の強さに溢れていました。

 

『先生を流産させる会』
(C)2011 内藤組
内籐:強さのある女性がいいなと思っていて、先生役も中々決まらなかったんですが、たまたま美学校に別の作品のアフレコで来られた宮田さんを見て「あの人だ!」って(笑)。その場でナンパみたいにお願いして、改めてオーディションに来て頂きました。今回は先生・親・子供それぞれの立場で闘う話にしたかったので、先生が完全な被害者になると、「子供が悪い」「怖い」だけになってしまう。先生の立場でどうすればいいのか問いかけをしたかったんです。

――劇中で出てきましたが、公立校の先生向けに親から訴えられたときの裁判費用を賄う訴訟費用保険があるんですね。

内藤:教育委員会や学校が組織として守ってくれるならいいんですけど、守ってくれないらしいんです。あなた個人の問題って。アメリカじゃないですけど、個人保険に入っておかないと言いがかり同然のひどい訴えられ方をされることもあるようですね。


line
今回届かなかった層へどう届けるか
――それは常に自分を客観視するということ


――お仕事の側ら映画を撮るモチベーションはどう維持していますか。

 

『先生を流産させる会』
(C)2011 内藤組
内藤:現実的に映画だけでは食えないし、プロの人でも生活は厳しいようですから、仕事するのは仕方ないと思います。バイトしても結局拘束時間ができるので、それならきちんと就職をする方が自主制作に使えるお金も貯めやすいですし。あと、働いて自分の至らないところを自覚できればそれが作品に反映されます。大学の頃作ったものは全然評価されなかったんですが、仕事を始めてようやくいいものが撮れるようになってきました。人としてやっとまともになってきたかな、と(笑)。

――常にご自分を客観視しようとされていますね。

内藤:自主映画の文化圏があって、その狭い中でちょっと名前を知ってもらって、作家気分を味わえても、自主映画を観ない人にまで中々届かないんです。これは表現者として停滞だと思うんですね。常に客観的になって今回届かなかった層へどうやったら届くのかを考えたいです。それは迎合するって意味じゃなくて、自分をレベルアップすることでクリアできると思っています。

 
――その辺は根本にある“エンターテインメントな映画が好き”ということから来るバランス感覚にあるんですね。

内藤:『チャイルドプレイ』をいいなと思うのは、監督と役者の名前は有名ではないけど、人形が襲ってくる映画として認知されていることです。それこそ映画が好きでない人にも。それが映画として一番美しくて、健康的だと思うんです。だから目指すところは『チャイルドプレイ』みたいにやることですね!(笑)



 
  Profile: 内藤瑛亮(ないとう・えいすけ)

1982年生まれ、愛知県出身。映画美学校フィクションコース11期生。
同校・初等科修了制作作品として手がけた短篇『牛乳王子』がスラムダンス映画祭2010はじめ国内外の映画祭に招待される。長編デビュー作『先生を流産させる会』は、【期待の日本新人監督】枠として紹介されたカナザワ映画祭が大きな反響を呼び、その他にもニッポンコネクション(ドイツ)や、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭のコンペティション部門に出品。そのほかの監督作品に、BS~TBS『怪談新耳袋 百物語』の一篇『寺に預けられた理由』や、「ショートピース!仙台短篇映画祭」の3.11映画制作プロジェクトで制作した『廃棄少女』、映画×音楽の祭典「MOOSIC LAB2012」で上映された『お兄ちゃんに近づくな、ブスども!』がある。

映画『先生を流産させる会』(配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS)
5月26日(土)よりユーロスペースにてロードショー
公式サイト: http://sensei-rsk.com/

(C)2011 内藤組
   

ページトップへarrow    



©2008 HogaHolic TRYWORKS LOGO