HogaHolic × JAPANESE EYES









東京国際映画祭だからこそ果たさなければならない役割とは?

――まず最初に、東京国際映画祭(以下TIFF)は常に、「特色があるのか?」という点が取りざたされてきた気がします。ただ、この映画祭の“個性”というのは難しいもので…。その点で、矢田部さんが考えてきたことはあるのでしょうか?

矢田部 おっしゃる通りで、映画祭の特色を出すというのは難しい問題です。実は出すことって結構、簡単なんですよ。例えば、インディペンデントに絞るとか、若手作家の祭典にするとか、特化したことを前面に出すとわかりやすい。ただ、TIFFはそれだけではいけない映画祭。だから今は個性うんぬんというよりも、東京でありアジアである地域性を大事に生かしつつ、いかにお客さんが楽しめるものにできるのかに考えをめぐらせています。

――ただ、これは個人的な意見なのですが、ここ数年で非常にいい方向の変化が出てきたと思うんです。特に僕が思うのは、プログラミング・ディレクターの矢田部さんが前に出てきたこと。作品を選んだ人が、直接観客に責任を持って届けるという姿勢が見られて、これはすごく重要な気がします。

矢田部 ありがとうございます。根が出たがりなもので(笑)。でも、そういっていただけるのは素直にうれしいです。僕も選んだ人間がお客さんに届けるというのが一番いいと思うんですね。ですから、ティーチ・インの司会も選考スタッフがやるべきで、僕もコンペティションに関しては自分で司会進行をやっています。それが、ある意味、その作品の責任を自分がとるということでもありますし。逆にそれぐらいの自分が覚悟をできる作品を選びたいし、それを紹介していきたいという想いもあります。

――その映画祭の真摯な姿勢が生んだと思うのですが、ここのところTIFFの上映をきっかけに劇場公開される作品が増えていて。昨年の「東京 サクラ グランプリ」を受賞したブルガリア映画『ソフィアの夜明け』(映画祭出品題は『イースタン・プレイ』)も劇場公開が決まりました。たぶん、TIFFで上映されなかったら、ブルガリア映画なんてまず普通は見る機会がありませんから、こういう形にはならなかったでしょうね。

 
『エッセンシャル・キリング』(イエジー・スコリモフスキ監督)

矢田部 この流れもすごくうれしいことで。すごく勇気づけられています。『ソフィアの夜明け』の劇場公開もそうですけど、昨年の「WORLD CINEMA」部門で上映した『シルビアのいる街で』が今年8月に公開されてスマッシュ・ヒットしたんです。実はこの作品、あまりに自分の趣味に走っている気がして、上映するか否か散々悩んだんですよ。ですから、それがこんな形で受け入れられたのは驚きで。同時にこういう映画を待っている人もいるという自信になりました。それから、2008年のコンペティションで上映された『アンナと過ごした4日間』がTIFFをきっかけに劇場公開となり、これもヒットして。翌年、イエジー・スコリモフスキ監督が審査員として戻ってくださり、今年は新作(WORLD CINEMA部門の『エッセンシャル・キリング』)をTIFFに届けてくれました。こういうつながりはほんとうに大切にしていきたい。そして、こういう機会がどんどん増えるよう頑張っていきたいですね。

――その中で、映画祭の役割はどう考えられていますか?

矢田部 今の話につながるんですけど、劇場公開されていない価値のある作品をひとつでも多く紹介する。そして、多様な作品を上映することで、映画のさまざまな面白さを伝える。それが、最終的には映画を愛する人の裾野を広げていく。これが映画祭の最大の使命だと思います。

――では、日本映画・ある視点の話に入る前に、今年のコンペティションについてお聞きします。何か傾向はありますでしょうか?

矢田部 毎年、心がけているのはバラエティに富んだ作品が並ぶこと。期待の若手の作品、ワールドプレミアといった具合に、欲張っています(笑)。今年の傾向として挙げるとするとひとつ。『コントロール』のサム・ライリーが主演した『ブライトン・ロック』や、『17歳の肖像』のキャリー・マリガン主演の『わたしを離さないで』などのように、例年に比べると名のある俳優の主演作だったり規模の大きい作品が入る形になりました。ですので、あまりコンペティションにいつもは食指が動かない人にも興味をもっていただけるプログラムが組めたかなと思っているんですが。

――コンペティションに選ばれた2本の日本映画はいかがですか?

 
『海炭市叙景』(熊切和嘉監督)
©2010 佐藤泰志/『海炭市叙景』製作委員会

矢田部 熊切和嘉監督の『海炭市叙景』と新藤兼人監督の『一枚のハガキ』ですね。実を言うと、熊切監督は好きな監督でずっと期待していたんです。それが今回の作品は、えらそうで申し訳ないんですけど、ついに熊切監督が若手から大人の風格ある監督になった印象で。拝見した瞬間、これはコンペティションでぜひ、と思いました。あと、新藤監督については“98歳の新藤監督”だから選んだわけではないです。ここは皆さんに勘違いしてほしくないんですけど、作品そのものが素晴らしかった。ですからコンペティションに参加していただきました。



日本の若手監督と東京国際映画祭の関係性

――では日本映画・ある視点についてお願いします。昨年からカラーがガラリと変わりましたね。

矢田部 この部門は設立当初から、「特別招待作品の日本映画と明確な区分を出すべき」という思いが我々の中にもあって、ずっとベストの形を模索していたんですね。それで去年、思い切って、優れた日本のインディペンデント映画をクローズアップする形をとってみました。内心はどう受け止められるのか冷や冷やしていたんですけど、蓋を開けてみたら、うれしいことにこれが予想を超える反響をいただきまして(笑)。今年もそのスタンスを維持することにしました。

――どういった形で選出は決まったのでしょう?

矢田部 私を含む5人のメンバーで作品に目を通して決めました。リストに上がったのは200作品ぐらいあったと思います。ものすごく選考は時間がかかりました。その選考で嬉しかったのは、今までTIFFへの出品を視野に入れていなかった若いクリエイターからの応募がもたくさんあったこと。我々としては作り手の裾野が広がっていることが実感できたし、なおかつそういう若い才能がTIFFを意識してくれるのは非常に光栄なことなので、素直にうれしかったですね。ただ、審査はあくまでシビアに、コンペやほかの部門と同じく国際映画祭で上映するに値する作品として判断していきました。

――あくまで審査のハードルは高いということですね。では、その審査で最も重要視したことはなんでしょうか?

矢田部 僕が最もポイントに置くのは、その作品を本当に海外の人に観てもらいたいかどうかです。言い換えると、内輪で終わっていない。どんな小さなお話でもいいけど、それが世界としっかりつながっているかどうかです。

――あるシンポジウムで諏訪敦彦監督が、「どんなちっぽけな話でもそれをつきつめてつきつめて描いていくと、それは世界とつながっていく」とおっしゃっていましたが、そういうことでしょうか?

矢田部 そうですね。扱う題材は小さくてもいいんです。ただ、視野が狭くなってはいけない。視野が広がっていく映画を作ってほしいですね。

――今後、TIFFを目指す若手も出てくると思います。その人たちに何かひと言お願いします。

矢田部 インディペンデント映画には使い古された言葉かもしれないけど、やはり映画の既成概念を壊してほしい。既存の作品を凌駕してしまうようなパワーがある作品が出てくることを期待しています。ものすごい個性を発揮した作品をお待ちしています。

――最後に「日本映画・ある視点」部門をどういう場にしていきたいと思っているのでしょうか? インディペンデント映画にとってはまたとない発表の機会になると思うのですが。

矢田部 作り手のみなさんにそう思っていただいて、この場を最大限に利用していただけたらうれしいですね。英語字幕もつきますから、それで海外のバイヤーや関係者の目にとまる可能性もある。日本の新たな才能が海外へ羽ばたいていく、きっかけの場になってくれたら最高ですね。

(取材・文=水上賢治)

 

  矢田部吉彦
(東京国際映画祭プログラミング・ディレクター)
 

  幼少期をヨーロッパ、中学から大学時代を日本で過ごす。大学卒業後、大手銀行に就職。在職中に留学と駐在でフランス・イギリスに渡り、その間年間300本以上の映画を鑑賞し続け、帰国後、海外から日本に映画を紹介する仕事への転職に踏み切る。以後、映画の配給と宣伝を手がける一方で、故・佐藤真監督のドキュメンタリー映画のプロデュースを手がける。映画祭業務は、フランス映画祭への関わりから始まり、2002年から東京国際映画祭へスタッフ入りし、2004年から現在まで上映作品の選定を行う作品部の統括を担当。2007年よりコンペティションのプログラミング・ディレクターに就任。  






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