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東京国際映画祭で感じ取った“リアル”な手応えとは?

――東京国際映画祭・ある視点部門の作品賞受賞おめでとうございます。まず、なにより先に今の心境は?

深田 ただただ、びっくりしています。才能と実力を兼ね備えた監督が揃う中で、「本当に僕が受賞していいのかなぁ」というのが偽らざる本音で。今は映画を作るために本当によく尽力してくれたスタッフ、そしてキャストに感謝の気持ちでいっぱい。また、こういう場を与えてくださったTIFFにも感謝したいです。それから、ロケでいろいろとお世話になった墨田区の皆さんにも、この場をおかりして感謝の意を伝えたい。ほんとうに支えてくれたみなさんにお礼を言いたいと思います。

――正直なところ、「もしかしたら受賞できるのでは?」といった期待はなかったですか?

 

深田 作品が8本なので12%はあるかと思ってました。上映の感触はよ かったので13%ぐらいは(笑)。ただ今回のTIFFの上映を通じて、自分が想定していた以上に観客のみなさんがこの作品『歓待』からいろいろと感じとってくれていることを確信できる場面が幾度もありました。あと、今回、笑いの要素を随所にちりばめたのですが、そこできちんと反応があって。そういう意味で、自分の作品への手ごたえとひとつの自信が生まれたことは確かですね。

――では、振り返っていただきたいのですが、TIFF開催前までどんな毎日を送られていましたか? 鼎談でお会いしたのが10月初頭で、映画祭までまだ少しだけ時間がありました。その取材時は、期待感と不安感の狭間にいるようなことをおっしゃっていましたが?

深田 鼎談後はひたすら上映素材の準備に追われていました(笑)。いろいろと作業が遅れていて、映像面や音声の直しをかなりやったうえ、さらに字幕を付ける作業に入った次第で。会話劇なので字幕を1300ぐらいつけなくてはいけなくて、ほんとうにひたすらフォトショップで映像に字幕をつけていました(笑)。もう次は「絶対無声映画にしてやる」と思ったぐらい字幕作業に追われっぱなし。それでようやく納品できたのが15日で、TIFFのスタッフの方にはほんとうにご迷惑おかけしました。

――それで無事納品されて、いよいよ上映となったわけですが、そこで先ほども少し話しに出ましたが、何か観客の反応で得たことはありましたか?

 

深田 今回、僕が作品でやろうとしたことは、ひとつのメッセージやテーマをストレートにぶつけるのではなく、それをある世界観の中に内包してみせること。わかりやすい事象やセリフで安易に説明するのではなく、日常のある状況や人物の何気ないコミュニケーションの中から、そういうメッセージを受け手のみなさんに感じとってもらう。そういう作品を目指しました。さらにもうひとつ。僕は常々、ひとつの色で染まるような作品にはしたくないと思っています。極端なことを言えば50人見たら、50人まったく違う見解を語るような映画。それぐらい、お客さんの頭の中で様々な思いが駆け巡るような映画を作りたいんです。

――懇切丁寧な説明だけで構成されて、ひとつの意見に集約されてしまう現在主流の映画とは真逆にあると言っていいでしょうね。

深田 そうだと思います。上映時、会場でこの作品のスタイルに対して戸惑われる方がいたのはなんとなく肌で感じました。でも、このリアクションも僕としてはうれしい。その一方で、10月24日の上映後ですけど、ひとりの女性にいきなり握手をされて「ありがとう」と言われたんです。びっくりしたんですけど、聞くと在日コリアン2世の方で。僕としては裏に隠しているつもりのメッセージがその女性には伝わっていたんですね。いずれにしても、良い反応も悪い反応も含めて生の声がダイレクトにきけたのは大きいです。今後の糧になりますから。



映画界の“プロパガンダ”的な風潮へのアンチテーゼ

――『歓待』は、下町の印刷工場を経営する夫婦のところに、ある日、ひとりの男という他者がいつの間にか入り込み、生活を混乱させていく物語。そこには今の日本社会に確実にある、いわゆる世間一般と呼ばれる枠組みの中から外れる他者に対しての排他的な思考や不安感が色濃く反映されています。これが映画の核だと思うのですが、監督自身はここに視点の重きを置いたのはなぜなのでしょう?

 

深田 映画の1番最初の出発点はマルクス兄弟の『オペラは踊る』(1935年)でした。単純に狭い場所に人がどんどん押し寄せてきて、混乱していくスラップスティックな映画が撮りたいと漠然と思っていたんですね。その中で、あれこれ考えていくうちに、自分が今感じているひとつの共同体への考えと結びついていった。日本に住む外国人やホームレスといった人たちに対する今の社会のある種の冷淡さに関して自分なりに考えることが常にあったので、そういう流れになっていったと思います。こういうひとつの共同体に対する映画は今すごく多い。ただ得てして、「やむにやまれず、こういう生活になってしまった」や「故郷にいる家族のために日本で働かなければならない」といったような展開や、排除される人たちの人間的魅力を描き、結末としては「こんなすばらしい、魅力的な彼らを排除してもいいのか?」というアプローチになりがちで。もちろんそういったものが必ずしも悪いわけではありませんが、僕としてはこういう形の映画には絶対にしたくなかった。なぜなら、彼らが魅力的な人格じゃなかったら排除してもいいのかと。僕は「そうじゃないだろう」と思う。そういう思いを頭に置きながら作ったのは確かです。

――ただ、『歓待』の場合、そのメッセージを声高に訴えないですよね。現在の映画は特にそうですけど、例えば“感動”がキーワードだったら、それを全面的に押し売りしてきて、無理やり同意させるぐらいに出してくる。そういう映画に対するアンチテーゼはある?

 

深田 ないと言ったら嘘になると思います。映画を作るとして、ある人物にこれでもかこれでもかとハードルを課して、それを劇中で克服させて、ハッピーエンドを迎えたりあるいは悲劇にして強烈なある感情の発露を披露するのがひとつの物語の類型で。そこでひとつのメッセージを訴えていく。でも、そういうのって「スクリーンのこちら側まで本当に届いているのかな?」と僕は思うんですね。確かにその瞬間に得るカタルシスはすごいでしょう。自分が浄化されるような気分を味わうかもしれない。でも、映画館を後にして、それが持続するかどうかは僕は疑問に思っています。100人がいて100人が同じように“気持ちいい”という感想を残す映画は、僕としてはすごく気持ち悪い。

――ひとつの形を変えたプロパガンダ映画といえるかもしれない。

深田 そうかもしれません。例え恋愛映画をつくるときでも、それが青春映画であっても、映画、映像といった表現に潜むプロパガンダ的な 力、政治性への警戒心は常に意識の内になくてはならないと思います。僕としてはあくまで、その見てくださった方が培ってきた人生や経験で印象が変化するだけの余白をもった作品を作っていきたい。また、一瞬のカタルシスではなく、その人のある記憶と響き合うような作品を作っていきたいと思っています。それは、共感とはまた違ったものかも知れません。

――先ほど、出てきた共同体というのは、現在の社会のあり方でもあると思うのですが、ラース・フォン・トリアー監督が執拗に描いていることと重なるように感じました。描こうとしている世界観はひじょうに近いと思います。でも、彼の場合、ある特殊な設定のもと、人間の中にある闇を徹底的に追求して容赦なくダークに描く形をとっていますが、深田監督の場合、それをノーマルな設定でダーク色のない形で描いている。描写において考えたことはありましたか?

 

深田 たぶんこの世界の闇を描くとき、バイオレンスや過激な演出も確かに必要で。そういう描写はひじょうに観客の目を引くし、またその事象を表すのにわかりやすい。ただ、僕はそれを安易に使うと世界や人間に存在している本当の闇をかえって見えなくしてしまうというか。世界に“グニャリ”とあるような複雑な闇がひとつの記号になってしまって。その複雑さが塗りつぶされてしまう気がするんですね。もちろんトリアー監督は暴力に焦点を当てながら、そのへん実に巧妙にやっていると思うんですけど。僕としては、そういうわかりやすいエキセントリックなアクションや設定をとらないで、こういう世界観を描きたいと思っています。

――今回、『歓待』でひとつの大きな結果を出したわけですが、今後の映画作りで考えていることはありますか?

 

深田 僕は劇団青年団の演出部に所属して映画を作っているのですが、今の演劇の最先端を観るとひじょうに進歩的なところがたくさんある。変な話ですが、演劇の最先端でもうすでに使い古されてダサイことが、映画だと平気でまだ残っていたりする。そういうのをみると、まだまだ映画にやれることがあると思うし、進歩できる可能性があると思う。そういうことを模索しながら映画を作っていきたいですね。

――では最後に、ちょっと下世話な話になりますが(笑)、今回の賞金はどうしますか?

深田 来春に劇場公開予定なので、その宣伝に有効利用したいと思います。劇場公開で、さらに多くの人に届けられたら、うれしいですね。

(取材・文=水上賢治)

 

  深田晃司  

  1980年生まれ。99年映画美学校入学。2004年までに長短編3本の自主製作を行う。06年映画『ざくろ屋敷』を発表。渋谷アップリンクXにて劇場公開、08年にパリKINOTAYO映画祭にて新人賞を受賞。09年長編映画『東京人間喜劇』を発表。同作はローマ国際映画祭、香港InDBear国際映画祭、パリシネマ国際映画祭に選出、大阪シネドライヴ2010大賞受賞。現在、劇団青年団演出部所属。 メッセージ→



監督/脚本/編集/プロデューサー:深田晃司
出演:山内健司 杉野希妃 古舘寛治
(C)歓待製作委員会
100分 日本語 カラー HDCAM | 2010年 日本 | 配給:[和エンタテインメント]

『歓待』 レビュー

 






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