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My Generation

ドキュメンタリー監督・松江哲明、1977年生まれ。カメラを通じて、目の前の現実と向き合ってきた松江哲明監督が、「同世代」の才能について大いに語る! 彼にとって、同じ時代の匂いを感じるクリエイターとは、その才能とは、いったい何を指すのだろうか?
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『東京都北区赤羽』
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清野とおる(1980年生まれ)のルポルタージュ漫画『東京都北区赤羽』
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『東京都北区赤羽』1〜4巻(Bbmfマガジン刊)/¥900(1、2巻は¥840)
※4巻は4/24(土)より発売
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ルポ漫画は楽しい。実在の人物が作者の視点を通してイラストとなり、台詞を喋ることでキャラクターとなるから。僕らは「ほんとにこんな人いるのかな」と僕らは妄想しつつ、さらに「んな訳ないでしょ」「ありえねー」を繰り返しながら描き手にノセられるのを心底楽しむ。そんな快感を十分味わせてくれる清野とおる氏の『東京都北区赤羽』は今、一番面白いルポ漫画だと思う。
赤羽に在住する奇人変人(もちろん作者も含まれる)を、愛嬌と愛情を持ってルポルタージュしている本著。最近知り合ったプロデューサーは「ここ最近、読んだ中で一番面白い。けど映像化不可能」と言っていた。つまり漫画でしか味わえない魅力がある、ということ。しかし登場人物たちが実在する以上、作者の視点とズレる場合がある。現実を素材とするドキュメンタリーやルポルタージュが注意しなければいけないのは、そのズレが生じた時なのだ。
「あんな風に描かれるなんて聞いてない」「ここはカットしてよ」「肖像権の侵害だ」
僕も何度か経験したことのある、こんな言葉。取材時には「いいよー」なんて言ってても、完成した作品を見た瞬間「なんか違う!」と言われてしまって、さて困った。そんな場合の解決マニュアルなんてあるはずもなく、場合によって誠意と責任を持って解決するしかないのだが、僕がここで言いたいのは、この手法は他者を巻き込む必要があるということ。実際、清野氏も赤羽ではテンパってしまうような状況になっているらしい。しかし、それはモノ作りに置いては名誉でもある。なぜなら被写体が気付かない一面を作者が掘り出した証拠でもあるから。だからこそ僕は清野氏の住む赤羽に向かって「身体を張ってこんなにも面白い漫画をありがとうございます」と頭を下げ、最新刊をペラペラとめくり、爆笑する。
作者が「どんだけ赤が好きなんだ」とツッコむ全身赤い服装のおじさんは、赤い自転車に乗り、猛スピードで赤信号までも渡ってしまう。ホームレスのペイティさんは独特な音楽と絵で清野氏を魅了。ウロウロ男としか表現の仕様がないおじさんは駅構内で立ちションをしながらウロウロ、性器を丸出しにしてウロウロ、連行された翌日も下半身を露にウロウロ…。そんな実際に見たらぎょっとさせられるようなキャラも「いいなぁ…」と思わせてくれるのは清野氏が確実に彼らにシンパシーを抱いているからだと思う。
例えば原稿の打ち合わせが上手くいかなかった帰り道、彼らと遭うことでホッとする清野氏がいる。正体不明のメニューと割れた看板が目印の居酒屋ちからに至っては、もはや集会所レベルになっている。どう見ても堅気とは思えず、何をしてるのか聞いても「色々…」としか答えてくれないジョージさんが、いつの間にか重要な相談相手にまでなっているのが、なんだかおかしい。清野氏は読者に魅力を伝える為に、あえて悪役となり、ちょいと客観的な視点で分かりやすく描いてくれる。僕はこのバランスに「やさしいなぁ」と思ってしまうのだ。なぜなら彼らと接した時と描く時とでは、距離感を変えなければならないからだ。僕もそんな経験があるのだが、そんな時は決まって胃がぎゅっとなって、「これでいいのかな」と常に自問自答することになる。
人と関わりたいという欲望は人を傷つけもするし、救いもする。だからこそ『東京都北区赤羽』で発見された人々と清野氏に素敵な物語がたくさん訪れるように、と本気で願う。
それだけの価値がある素敵な「おはなし」だから。

Profile: 松江哲明(まつえ・てつあき)

1977年東京都出身。
99年、日本映画学校の卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞、NETPAC特別賞、平成 12年度文化庁優秀映画賞などを受賞。以降、OV『ほんとにあった! 呪いのビデオ』シリーズ、『カレーライスの女たち』『セキ★ララ』『童貞。をプロデュース』など刺激的な作品を次々と発表。09年公開された『あんにょん由美香』が、第64回毎日映画コンクール(1月19日発表)にてドキュメンタリー映画賞、映画芸術ベスト4位に選出。東京国際映画祭2009にて「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞し全国順次公開中の最新作『ライブテープ』が、ドイツ・フランクフルトで4月14日〜18日開催の映画祭「Nippon Connection Filmfestival」にて海外初上映されるほか、5月1日(土)から吉祥寺バウスシアターでのリバイバル上映が決定。

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