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My Generation

ドキュメンタリー監督・松江哲明、1977年生まれ。カメラを通じて、目の前の現実と向き合ってきた松江哲明監督が、「同世代」の才能について大いに語る! 彼にとって、同じ時代の匂いを感じるクリエイターとは、その才能とは、いったい何を指すのだろうか?
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#10 マキタスポーツ
DVD『上京物語』
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オフィス北野所属のピン芸人・マキタスポーツ(1970年生まれ)のDVD『上京物語』(アミューズソフトエンタテインメント/¥2940)

マキタスポーツ 公式サイト
http://info.m-sports.tv/
「故郷を捨てて家を飛び出したのは19。でも東京に着いたのは28のとき」。
男は自らをそう紹介し、観客の失笑を受けながらもギター片手に「セイー!」と叫ぶ。マキタスポーツの『上京物語』は花の都、大東京を目指しながらも「法事」「名古屋のイサオおじさん」「美味しんぼ全巻」「王将のバイト」といった直面する困難に阻まれ、なかなか上京しないという一曲。本作はそれをモチーフに「誰のモノマネもしねぇ。誰のモノマネもせず一番高いテッペンのぼってやる」と宣言しながらも、鹿児島出身の某有名ミュージシャンまんまの風貌とコメントで「うさんくささ」を全開させるミュージシャン、マキタスポーツによるフェイクドキュメンタリー。
だが、『上京物語』は、そこらの青春ソングを吹っ飛ばす「ほんとうのこと」が歌われた名曲だ。「待ってろよ、トウキョウ」と威勢の良さを見せつつ も、向かうのは餃子のオウショウという切なさ。目標を持ちながらも目の前のあれこれに逃避してしまう若者を皮肉りつつも、どこか痛みを感じてしまうのは、きっと誰もがこんな経験をしたことがあるからだと思う。僕らが『上京物語』を笑うのは、「あはは」と声を出さなければ歌詞を認めてしまうことになるから。それは「いるいる、こんな奴」と距離を取ることで、まだ何をしていない自分を肯定しているにすぎない。
マキタスポーツはいっぱい笑わせて痛い所を突く、恐ろしい芸人だと思う。そしてそんな批評性を持った彼はめちゃくちゃカッコいい。
僕はこのDVD 『上京物語』を近所のブックオフで購入したのが(マキタさん、ごめんなさい)、きっと前の持ち主は曲の真意に気づかされ、いたたまれない気持ちになって手放してしまったに違いない。「持っていたくない」と思わせるほどの強度が一枚のディスクに詰まっているのだ。ドキュメンタリーという手法と、ナガブチという設定、皮肉たっぷりの歌詞とモノマネという凶器が。
北野武監督の『キッズリターン』では「俺たちもう終わっちゃったのかな」という問いに「バカ野郎、まだ始まっちゃいねぇよ」と強がることで「生き続ける」決意を描いていた。しかし『上京物語』はまだそんなことさえも認められない男たちを「そんなとこで笑ってんじゃねぇよ」と突き詰める。そして、東京生まれ、東京育ちの僕でさえ、全上京者、打ちのめされろ、と強気なことも言いたくなる。
なぜなら「始まっちゃいねぇよ」の続きをマキタスポーツ率いるマキタ学級が教えてくれたから。ぜひライブで『芸人は人間じゃない』『I am POP STAR』『オレの歌』といった歌の数々を浴びて欲しい。ネタを排したガチな歌たちが「あはは」と笑っていた僕らを泣かせてくれる。先日、僕はライブを体験し、33になってマキタスポーツと出会えて、よかったと思った。きっと10代では歌の真意に気づけなかったはずだから。
28にならないとたどり着けない場所もあるんだなぁ、と。


Profile: 松江哲明(まつえ・てつあき)

1977年東京都出身。
99年、日本映画学校の卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞、NETPAC特別賞、平成 12年度文化庁優秀映画賞などを受賞。以降、OV『ほんとにあった! 呪いのビデオ』シリーズ、『カレーライスの女たち』『セキ★ララ』『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など刺激的な作品を次々と発表。東京国際映画祭2009にて「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞した『ライブテープ』が、ドイツ、NY、トロント、パリなどの海外や国内の映画祭を巡回中(11月23日〜英・ロンドンの映画祭「Zipangu Fest」では松江監督作品の特集を開催)、11月1日(月)〜6日(土)に下高井戸シネマにてレイトショー上映。自身の10年間のドキュメンタリーについてまとめた著作「セルフ・ドキュメンタリー」(河出書房新社)が発売中。11月5日(金)には「ブレインズ叢書4『質疑応答のプロになる! 映画に参加するために』刊行記念上映会」を実施。その他のイベントや詳細は下記ブログを参照。

公式Blog
http://d.hatena.ne.jp/matsue/
 

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