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松江哲明「俺たちの世代」



2011年5月27日、新作を撮影した。

僕は地震があった時、韓国にいた。映画祭に参加し、テレビとネットで日本の様子を知った。とてつもない出来事が起きている今、自分が日本にいないことが不思議だった。でも、そういうことなんだろう、とも思う。日本に戻ったら「いなかった」ということを自覚しなきゃ、と覚悟した。帰国時、きっと自宅はもの凄いことになってるんだな、と予想していたが、実際は立てかけていたポスターとメトロン星人のフィギュアが倒れていただけだった。大量のDVDと本は詰め込み過ぎて倒れる隙もなかったらしい。東京に戻ってまず驚いたのは「暗さ」だ。これまで街で目にしていた看板や電子時計、自販機、電光掲示板が消えている。33年間東京に生きていて、最も暗い街だった。でも、この暗さはいいな、と思った。僕は好きになれる。これからも付き合える。
4月10日、高円寺で行われたデモを路上からずっと眺めた。ヘッドフォンで前野さんの新譜「ファックミー」を聞きながら。僕が立っていた場所からは一万人を超える原発反対の声と、「反対するなら原発が出来た時に反対しろよ」なんて言うヤジが聞こえた。これからは強い言葉を町中で発するような状況になるのかな、と思いながら前野さんの歌も3月11日以降、歌の強度が変わってしまったな、と気付いた。歌が生まれた時はこんな状況を意識していなかったはずなのに。
「僕のこどものこどもの、そのこどものこどものこどものこどものこどものこどものこどものこどもは、あたらしい朝を見れるのかな(あたらしい朝)」。
今、僕にしっくり来るのはこの歌だ、と確認出来た。
家に戻ってテレビを付けると東京都知事が石原慎太郎氏に即、決まっていた。キャスターが「東京にも30年以内に大地震が70%の確率で来ます」と伝える。僕は恐怖心を煽られているような気持ちになった。強い東京を作るべき、らしい。何を言ってるんだろう、と思った。「強い」ということのもろさを、もう忘れようとしているんだろうか。

翌日、前野さん、撮影の近藤君、録音のタカアキさんに電話をした。「東京が明るくなる前にこの暗さを記録しておきたい」と。
それから僕らは今、東京で映画を作ることと、前野さんがそこで歌うことと、発表することの意味を話し合い、東京を歩き、撮影場所を決め、決意を固めた。撮影にあたって、例えば一眼レフを使ってフォトジェニックに東京を撮るようなことはしたくなかった。陰影も、奥行きもない、ぺらぺらの映像で十分だと思った。クオリティの基準なんて一日で一変してしまう世の中だ。ピンボケでもいい、それを肯定する力があれば。「この映画はオートフォーカスで記録しよう」。なんとなくそう思った。

僕は東京も被災地だと思っている。韓国に居たけれど、自分も当事者だと思っている。被災の大小はあるが、あの日から、東日本は確実に変わった。
カメラを持って福島を記録する知人、ドキュメンタリストは何人もいたが、僕には行けなかった。この東京も韓国から戻った僕にとっては十分不穏で、ピリピリしていたから。これまで東京に生きて、これからもきっと生きることになる街を、初めて向き合いたいと思った。僕には「ここ」を見つめることでしか「これから」に繋げられない。震災以降、いろんなものがむきだしになったし、これからもそうなると思う。こうやって文章書きながらも、真意が伝え切れていないもどかしさがある。言葉は怖い。ただ、明るさを戻そう、強い東京を作ろう、そんな風潮には抗いたい。3月10日以前には戻れるはずはないのだ。明るくなくても、強くなくても、僕らは今、生きていけているのだから。これからも、きっと出来るはずだ。僕は経験出来なかったが、あの東京を歩いた夜のことを忘れないで欲しいな、と思う。僕は帰国してからいろんな人にあの日のことを聞いた。
知らない人と一緒に帰った、道案内をするホームレスに感動した、いつもはガラガラのラーメン屋に行列が出来ていた…それぞれの視点からの話を聞きながら、あの夜には日本らしいデモが生まれていたのかな、と想像した。

撮影は5月27日の夕方、新宿に集まり、翌朝、遠くに東京が見える場所で撮影を終えた。この日は23時頃から雨が降り始め、朝日は昇らなかった。しかし、撮影を終えた時、僕はこの雨を、薄暗い雲を眺め、怯え、生きていくんだろうな、と思った。ここが僕らのあたらしい朝だ。
撮影後、僕らはファミレスでステーキと、かきあげうどんと、モーニングを食べ、腹いっぱいになって、別れた。

出演:前野健太、撮影:近藤龍人、録音:山本タカアキ、制作:岩淵弘樹、車両:大西裕、現場記録:九龍ジョー。
それぞれが微妙に違った想いを抱えつつ、この映画に参加したスタッフたち。僕が映画を好きな理由は「いろんな」が集まって一つのモノが作れること。そこからまた「いろんな」が生まれることも嬉しい。「ひとつ」とか「どっちか」とか「白か黒」は正しいかもしれないけど、つまらないし、退屈だ。
あの雲のように灰色でいいや、とやっと思えた。




Profile: 松江哲明(まつえ・てつあき)

1977年東京都出身。
99年、日本映画学校の卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞、NETPAC特別 賞、平成 12年度文化庁優秀映画賞などを受賞。以降、OV『ほんとにあった! 呪いのビデオ』シリーズ、『カレーライスの女たち』『セキ★ララ』『童貞。をプロ デュース』『あんにょん由美香』など刺激的な作品を次々と発表。東京国際映画祭2009にて「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞後、ドイツ、 NY、トロント、パリ、ロンドンなどの海外や国内の映画祭を巡回中。自身の10年間のドキュメンタリーについてまとめた著作「セルフ・ドキュメンタリー」(河出書房新社)、講座に参加した4人のゲストとの対談集「ブレインズ叢書4 質疑応答のプロになる!映画に参加するために」(メディア総合研究 所)が発売中。最新作となる前野健太のライブドキュメンタリーDVD『DV』が発売中で、その制作や販売の裏側を語り明かすトークイベント「DV明細」が 6月以降に待機中。

公式Blog
http://d.hatena.ne.jp/matsue/
 

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