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松江哲明「俺たちの世代」



本来ならば5月に撮影した新作『トーキョードリフター』の編集をするはずだったこの日、僕は風邪で寝込んでいた。前日、バイクで走りながら「あ、喉やばそう」と感じ、荻窪の「十八番」で豚肉とニラとニンニクがたっぷりの特製ラーメンを食べ、葛根湯を飲み、十分栄養を取ったつもりだったが効果はなかったようだ。午後、近所の耳鼻科に行く。美人先生に「はい、あーん」と言われ、口を開け、「真っ赤よ、あなた」と診断された。帰り道、そばとカレー丼を食べ、腹を満腹にし、コンビニでポカリと水を買い込み、病院で出して貰った抗生物質を飲むと、身体がじんじんする。さっそく効いて来た証拠。僕はめったに風邪を引かないし、37度の微熱も多分、3年振り。平熱が低い訳ではないが、ちょっと高いだけで頭がぽーっとしてしまう。全身が筋肉痛のような鈍い痛みが続き、「もう今日は仕事やめ」と決める。週末は大阪と京都に行かなければいけないし、それまでになんとか治さなきゃ。

この風邪の原因はこの二日前に行われた『DV明細』だ。最初の告知から三ヶ月も遅らせて開催したこのイベントは、予定時間を大幅に超え、5時間半、喋り通した。こんなにも長くなったのは僕の中にそれだけ、たくさん伝えたいことがあったからだ。2月に発売した『DV』は僕が初めて自分で値段を決め、デザインを依頼し、流通を探し、イベントを行い、販売した自主制作DVDだ。その過程でたくさんの発見があった。大変だった。でもそれ以上に楽しかった。プレス会社、デザイナー、流通といった「はじめまして」の出会いがあったから。僕が自分でDVDを作ると決める前から「もうDVDは売れない」という声はあった。しかし、それは大きな流通を必要とする場合であって、個人で売り、回収するには十分可能性が残っていた。もし『DV』をメーカーに販売を依頼し、全ての権利を売っていたら僕の手元には利益はほとんど残らなかったはずだ。もし現状売れた枚数よりもプラス1000枚売れたとしても、一年半以上かけて撮影した労力に見合うことはなかったと思う。スタッフにギャラを支払って消えてしまう金額で、個人的には「商品になってよかった、よかった」という満足感でおしまいだ。確かに自分で商品を作るということはリスクがある。何枚売れるのかを熟考し、どれだけのお金をかけるのか、どこで売るのかまで決めなければいけない。生活にさえ直結する問題なので、正直怖い。しかし、ミュージシャンやCD会社の人、自費出版をしている漫画家、Tシャツを作ったこともあるイラストレーター、とにかく自分で商品を作る友人知人に話を聞いてみたら、僕の予想を遥かに下回るリスクだった。「え、そんな金額でDVDが作れちゃうの」とびっくりした。で、約半年かかって商品を作り、流通し、ほぼ予想通りの枚数が売れた。制作費は予定よりもかかったが、その部分をフォローする方法もすぐに見つかった。初めての経験はとても勉強になった。そして、僕はこの経緯を発表することでイベントが成立するのではないかと思った。僕のケースは成功でも失敗でもない。ある一例だ。それをオープンにすることで「誰か」が参考にしてくれたらいい。または「これはやっちゃいけないな」と思ってもいい。ただの参考でしかないのだから。

以前からインディペンデントは隠し過ぎているのではないか、と思っていた。具体的な例がないから漠然と人が集まり、去り、抽象的な根性論が残る。「自主映画だから凄い」みたいな。僕の所にも「何か手伝えることがあったら言って下さい」という若い子が来る。でもそんな子に僕は仕事を頼めない。「ノーギャラでいいです」はこちらが困る。僕はぼーんと大金を払うことは出来ないが、お金を貰うことで責任を負って欲しい。僕は簡単に「じゃあ手伝って」とは言えない。大きくないが金額を払う。集まって、さあこれから仕事という時に「バイト入っちゃったんで夕方に帰ります」では困るのだ。これまでそんな人を何人も見て来た。そりゃ時給換算したらバイト代より少ない金額だ。しかし僕はあなたの力をアテにしていたのだ。タダより怖いものはない、というのは仕事を依頼する側も言えるのだな、と実感した。しかしインディペンデントの現場ではそういった「お金よりも経験値だから」という考えで無償で作品に参加し、宣伝し、動いてくれる人によって成り立っている部分もある。僕もそういう人に助けられたこともある。でも最近はどうかな、と思う。だからといって「こうするべきだ」という答えがある訳ではないが、僕は現状をより良くする一つとして、お金と仕事の内容を「オープン」にすることが必要だと思う。なぜ居酒屋で打ち合わせをする必要があるのか、そのお金を均一に割られるのはなぜか。原稿料が発生しない冊子に値段が付けられているのはなぜか。締め切りを早められれば格安で入稿が出来るはずなのに、なぜ人はギリギリにならないと仕事が出来ないのか。こんなことも作る側にとっては、一つ一つ説明が出来る。そして「これ、必要ないじゃん」と決めたこともある。でもほとんどの人が聞かないし、聞いちゃいけないという雰囲気さえある。「少ない予算で頑張ってるんだからいいじゃん」だ。でも予算の大小の基準は一体誰かが決めたのか。実際に作業をしてみると「なるほどなぁ、そりゃこんだけかかるわ」と実感させられるのだが、大と小の具体的な数字を知ってるのと知らないのとでは全く違う。僕はそこにプライスレスの価値があると思う。もう「なんとなく」で作っている場合じゃないと思う。映画に限らず、漠然と言われたことだけをして生きていられる時代ではないことは、そろそろ皆、気付いているはずだ。

もはや金額の大小で映画の価値が決まる時代ではない。「制作費何十億円!」という宣伝に何度も僕らは騙されもしたし、ハンディカムで撮られた切実な想いに感動させられたりもした。シネコンのスクリーンで自主映画が上映される今、「低予算だけど頑張って作りました」は作品の評価にさえならない。そんな現実を踏まえ、森直人さん、山本政志監督、山本タカアキさん、岩井澤健治さんと集まった観客とで話した5時間超え。新しいことは体力を使うが、次に繋がることを信じたい。
全身をびりびりさせながら、汗をかきまくり、そう思い込む。




Profile: 松江哲明(まつえ・てつあき)

1977年東京都出身。
99年、日本映画学校の卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞、NETPAC特別 賞、平成 12年度文化庁優秀映画賞などを受賞。以降、OV『ほんとにあった! 呪いのビデオ』シリーズ、『カレーライスの女たち』『セキ★ララ』『童貞。をプロ デュース』『あんにょん由美香』など刺激的な作品を次々と発表。東京国際映画祭2009にて「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞後、ドイツ、 NY、トロント、パリ、ロンドンなどの海外や国内の映画祭を巡回中。自身の10年間のドキュメンタリーについてまとめた著作「セルフ・ドキュメンタリー」(河出書房新社)、講座に参加した4人のゲストとの対談集「ブレインズ叢書4 質疑応答のプロになる!映画に参加するために」(メディア総合研究 所)が発売中。最新作となる前野健太のライブドキュメンタリーDVD『DV』が発売中で、その制作や販売の裏側を語り明かすトークイベント「DV明細」が、6月19日、光塾 COMMON CONTACT 並木町(渋谷)にて行われた。7月下旬より毎月一度、新宿の某スペースにて古澤健監督と新作映画について語るイベントが開催決定。最新作『トーキョードリフター』は年内公開を目指して現在、制作中。

公式Blog
http://d.hatena.ne.jp/matsue/
 

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