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松江哲明「俺たちの世代」



2月29日。雪の中、『フラッシュバックメモリーズ』の3Dチェックに向かう。昨年1月に企画を相談され、震災後の3月末に3Dでの制作を決め、10月に撮影をし、年始に放送版の編集作業を終え、そして現在は劇場版に向けての作業中。まだまだ終わりそうにない。5.1ch、アニメーションの修正、3Dの調整は確実に春までかかりそうだから。

この作品はディジュリドゥ奏者であるGOMAさんが、バンドThe Jungle Rhythm Sectionと共に演奏するライブ映像(現在)とGOMAさんが撮影した100時間を超える映像(過去)が同時に映し出し、展開される。以前から3Dは「飛び出し」「奥行き」という言葉を使ってその世界観が表現されて来たが、僕は「複数のレイヤーを同時に見せるもの」と思っていた。一つの画面の中にいくつもの層があり、その段階をどう表現するかによって見る人に「何か」が伝えられる。そんな3Dの使い方もあるのではないか。GOMAさんと出会い、一緒にドキュメンタリーを作る、と考えた時に、まず頭に浮かんだのはその「演出」だった。

GOMAさんは2009年11月26日首都高で追突事故に遭い、脳損傷と診断された。記憶の一部をなくし、新しいことを憶えづらくなってしまったGOMAさんだが、壮絶なリハビリを経て、観客の前で演奏をするまでに回復した。僕が出会ったのは2011年3月に行われた復帰ライブを見た後で、僕はそこで「GOMAさんを病気の人としてではなく、音楽の人として撮りたい」と思った。それを表現するには3Dが最適だ、と決めた。GOMAさんは突然記憶がなくなってしまったり、今していることを忘れてしまったり、また過去の記憶が飛び込んで来たりすることがあると言う。僕はそんな病気の症状をキャメラの前で「説明」するのではなく、観客に「体感」させられないか、と思った。事故の直後は臨死体験のような、不思議な体験をGOMAさんはしている。その状況をインタビューではなく、アニメーションで制作し、映像として見せる。体感を重視する3Dだからこそ、通常の2D映像より「見る」ことに説得力が生まれるはずだ。そんな構成を考える内に、これまで自分が制作してきたどのドキュメンタリーとも似ていない、「はじめて」ばかりであることに気付く。3Dという技術が演出を教えてくれた、そんな気さえする。そしてGOMAさんと出会えたことで、僕は「自分が伝えたいこと」よりも「GOMAさんが伝えたいこと」を最優先で構成を考えた。GOMAさんは僕よりも「今を生きる」ことについて必死で考え、震災後の日本に「未来を信じること」を伝えたいと思っている。最初に会った時からその印象はずっと変わらない。なんて強い人なんだろう、と思った。

編集スラジオにはスタッフ、そしてGOMAさんが集まり、それぞれが3Dメガネを付けて画面を見る。本編は70分を超える長さになるが、全てをレンダリングするには数日かかる為、今日はレイヤーが多い箇所、アニメーション、作品のクライマックスを3分にまとめたものをチェックする。それぞれが「おぉ」「うわぁ」といった擬音で3Dの感想を漏らす。僕も「すげぇ」といった程度の単語しか出せない。だが、あっという間の3分が過ぎ、灯りを付けると皆がニコニコと笑っている。で、僕は「もう一度見ましょう」とリクエスト。だってこれまで編集していたのは立体感のない2Dの映像で、それは何度も見ているが、3Dになったものは全く新しい「映像」へと変わっていたから。手応えは十分。しかし、完成まではまだまだ遠い。今までのドキュメンタリー制作ならば9割完成と言える段階だが、今回はまだ40%程度。

別れの時、GOMAさんは握手を求める。初めて会った時からいつもそう。僕はそれが嬉しい。2012年は昨年よりも握手が多い年になりそうだ。そんな気がする。





Profile: 松江哲明(まつえ・てつあき)

1977年東京都出身。
99年、日本映画学校の卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞、NETPAC特別 賞、平成 12年度文化庁優秀映画賞などを受賞。以降、OV『ほんとにあった! 呪いのビデオ』シリーズ『セキ★ララ』『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など刺激的な作品を次々と発表し、『ライブテープ』は東京国際映画祭2009「日本映画・ある視点部門」作品賞、Nippon Connection2010「ニッポン・デジタル・アワード」受賞。 批評や執筆活動も展開しており、近著に、前野健太のライブドキュメンタリーDVD『DV』の制作過程から流通までを綴った「映像作家サバイバル入門」(フィルムアート社刊)がある。
東京国際映画祭2011「日本映画・ある視点部門」に出品された最新作『トーキョードリフター』が全国順次公開中。3Dに挑む新作ドキュメンタリー『フラッシュバックメモリーズ』が2012年秋公開予定。

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