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松江哲明「俺たちの世代」



昼前に、家を出て原付で早稲田に向かう。今日は『フラッシュバックメモリーズ』の整音作業。久々のスタジオ。初の5.1ch。山本タカアキさんとはこれで5本目の作品作りになるが、スタジオで完成させるのは初めてだ。その前に高田馬場で昼飯を食べる。そういえばタカアキさんはつい先日まで仕事で韓国に行っていた。そのせいかだろうか、なんとなく純豆腐が食べたいな、と思った。明治通りと早稲田通りの交差点に新しく出来た店があった。早速ランチを注文。店の人に「学生ですか?」と聞かれるが、「違います」と返答。サービスのトッピングは付かない。スタジオに入り、整音チェック。3Dの映像はまだ出来ていないので、脳内で映像を補完しながら6本のスピーカーから発する音を聞く。放送版とは全く異なる音の演出に、大きな手応え。現場で鳴り響いたライブ音とも違う、映画ならではの広がりがあった。早く映画を完成させたい、と思った。予定よりも早く作業が終わったが、外は雨だった。

雨に濡れながら江古田に向かう。日大の近くにあるアルカディアというレンタルビデオがこの日で閉店だった。店内にあるVHSは100円、DVDは500円のセール。二週間程前から知っていたが、最終日にやっと来れた。実は早くに来るのは抵抗があった。「閉店セール」とはこの店に通った近所に住む人や会員さんのものだと思う。僕のようなVHSを保護するなんて言いながら、押し入れに入れてしまってロクに見ないようなマニアが張り切ってはいけないのだ。僕は地方や知らない街に行くとレンタルビデオ店を覗くが、そこには店長の趣味や会員たちが愛する映画が詰まっている。土地柄を知るにはレンタル屋と古本屋、と思うのだが、TSUTAYAやBOOK OFFの占拠されてしまうとそんな「発見」もなかなか難しい。いい作品はほとんど残っていないだろうな、と思っていたが、そんなことはなかった。宝がたくさんあった。それがなんだかさびしかった。厳選してVHS13本、DVD23本、BD5本を購入したが、合計が17000円ちょっとだった。僕には安過ぎる金額だが、そうは思わない人の方が多いだろう。本当はもう10本は買いたかったが、原付で運ぶにはこれが限界だった。日大や江古田に来た時にちょっとした寄ったことがないのに、こんなに買い占めてごめんなさいと心の中で謝り、移動する。そのすぐ近くにはGEOがあった。

新宿三越アルコットもこの日で閉店だった。僕にとってアルコットと言えばジュンク堂だ。映画のハシゴ鑑賞の合間に7階で映画本を読むのが好きだった。ジュンク堂の特徴でもある、あの椅子に座って読むことはなかったけど、品揃えが素晴らしいのでいつまでも立って読める。最近の映画本は値段が高いから5000円までと決めていても、数冊選ぶだけですぐに一万円に達してしまう。その中から「どれをすぐに読みたいか」悩み、選び、レジまで向かうのも楽しい時間だった。「ついで」で買う楽しみをちゃんと味わわせてくれる本屋だった。僕が書いた『セルフドキュメンタリー』『映像作家サバイバル入門』の際もフェアをしてくれ、僕が刺激を受けた本をリストに上げると可能な限り取り寄せてくれた。その多くが絶版だったが、棚いっぱいに選んだ本が並ぶのは嬉しかった。お客さんから「リストが欲しい」という要望も多かったらしく、プリントアウトをし、配ってくれたらしい。その棚が今では「本音を言えばこの本を売りたかった」本が並び、書店員の熱心なポップが飾られている。そこに僕の本も並んである。自分の本があると、申し訳ない気持ちになってしまのはなぜだろうか。映画ならば観客が見る場に立ち会うことも可能だが、本が並んであるだけではまだ「届いていない」からかもしれない。またどれだけの売り上げかは僕が一番知っている。だからありがたい、と同時に恐縮する気持ちを隠せない。しかし『映像作家サバイバル入門』のポップには「映画制作コーナーでも7年間のうちNo.1の売上冊数を記録」と書いてあった。確かに新宿店ではこの本を盛り上げてくれたが、そこまで届いていたとは思いもしなかった。だが、それは書店員の力に他ならない。最近、自分でDVDを作り、販売しているからこそ個々のお店の力がいかに大きいかを知っている。どれだけ立地が良くて有名なお店であってもただ棚に並べるだけの所では、一枚を売ることさえ難しい。だが、地方の小さなお店でも「ここが薦めるものなら」と興味を持ち、買ってくれるお客さんがいる。そして売ってくれる店員がいる。ジュンク堂は大きいけれど、ちゃんと丁寧に本を育ててくれるお店だった。閉店日ということでお客さんはいっぱいだったが、いつも通っていた僕には見慣れた光景だ。ここはいつも人が集まっている。だからまた、新宿で。

昨年5月中旬にアルコット三越新宿がなくなると知って、5月27日に撮影した『トーキョードリフター』で急遽、新宿でのシーンを増やした。カレー屋ガンジーから見えるジュンク堂の光景を残しておきたかったからだ。映画を作り終え、公開を展開し、そしてこの建物が営業をする最後の日に立ち会って、「映画に残せて本当によかった」と思った。そして僕はまたその場所に立ち、iPhoneで写真を残す。カレーの臭いとジュンク堂の緑の看板が見えるこの路地が、好きだった。




Profile: 松江哲明(まつえ・てつあき)

1977年東京都出身。
99年、日本映画学校の卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞、NETPAC特別賞、平成12年度文化庁優秀映画賞などを受賞。以降、OV『ほんとにあった! 呪いのビデオ』シリーズ『セキ★ララ』『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など刺激的な作品を次々と発表し、『ライブテープ』は東京国際映画祭2009「日本映画・ある視点部門」作品賞、Nippon Connection2010「ニッポン・デジタル・アワード」受賞。批評や執筆活動も展開しており、近著に、前野健太のライブドキュメンタリーDVD『DV』の制作過程から流通までを綴った「映像作家サバイバル入門」(フィルムアート社刊)がある。
東京国際映画祭2011「日本映画・ある視点部門」に出品された最新作『トーキョードリフター』が全国順次公開中。3Dに挑む新作ドキュメンタリー『フラッシュバックメモリーズ』が2012年秋公開予定。

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http://d.hatena.ne.jp/matsue/
 

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