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My Generation

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連載「俺たちの世代/MY GENERATION」の年末スペシャル版。松江哲明監督が、『ライブテープ』を経て、導き出した「映画」のあるべき形とその決断――それは2010年、12月9日のことだった。
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12月9日、金曜日。一昨日イギリスから戻ったばかりで時差ボケ。昨夜は朝7時まで眠れなかった。イギリスで買ったBD『リーサルウェポン』を見直していた。ノンリニア以前の編集リズムが最近はいいな、と思う。音に合わせるのではなく、画でリズムを決めているから。

二誌から以来されている今年のベストテンが決められない。書かなきゃ、と思うのだがぽーっとしてしまう。それはきっと今、僕が映画に対して気持ちがあやふやだからだ。09年は『ライブテープ』を作って映画に生きる、と決意した。それは変わらない。でも映画の状況に対して違和感がある。このまま作り、公開することがベストなのか、と。贅沢な悩み、とも思う。もしくは「作ることだけ考えてればいいじゃない」。何度もそう思った。でも僕は『あんにょんキムチ』から『ライブテープ』まで劇場で上映した作品は全て宣伝に関わってきた。今更「では宣伝だけをお願いします」とはなれない。子供のような作品がどう成長するのかが気になってしまう。でもそれじゃいけないのかも、と今は疑ってしまっている。今はとにかく情報が早い。秒単位で飛び交い、消費されてしまう。ここに映画は追いつけない。ならば消化出来ない、もやもやや違和感が残るような事件性のあるものを作り、見せたい、そう考えていた。宣伝は事件が起こせれば勝手に展開されるのではないか。
だからこそ今、向き合っている2つの作品は映画ではない。でも僕が今、考える「映画」に最も近いものではある。その為に僕は『DV』を劇場公開はしない、と決めた。『極私的神聖かまってちゃん』はスペースシャワーTVで流れるテレビ番組だ。でもスタッフと話す時は映画を引き合いに出してしまう。やっぱり僕にとって一番カッコいいモノは「映画」らしい。

古澤健さんと12月20日に早稲田大学でトークをすることになった。その打ち合わせを早稲田の喫茶店で行った。帰国後、初のカレーが美味しい。でもカツカレーの場合はルーをちょっとでも足して欲しい、そんなことを思いながら古澤さんの話を聞く。彼は今、僕が最も安心して映画を語り合える仲間だ。映画の見方に置いて信頼している、という意味で。打ち合わせ後、古澤さんは「僕は佐藤真さんと松江君が作品を批判し合い、作品で返答するのがいい関係だと思った」と言ってくれた。僕もそう思っている。佐藤さんは僕が作るセルフドキュメンタリーに対して否定的だった。だからこそ僕は次の作品を見て欲しいと思った。作り続けなきゃ、と思った。佐藤さんが亡くなってから僕の作品を「ドキュメンタリーとして」語ってくれる人はもういない。それが凄く寂しい。今、佐藤さんがどう見てくれるのかが知りたい。

『極私的神聖かまってちゃん』の編集打ち合わせに向かう。11月19日でのwwwのライブ撮影後、すぐに日本を出なければいけなかったのでライブシーンの編集を見るのは初めて。そういえば編集を完全に任せるのは『ほんとにあった!呪いのビデオ』以来、8年振り。「ドキュメンタリーは編集が勝負」と『ライブテープ』を撮るまでは思っていたが、漠然と神聖かまってちゃんは「自分で繋いではいけない」と思った。また撮影も「僕より年下の人にお願いしたい」と直感した。だから『イエローキッド』の監督、真利子哲也君に連絡をし、「撮影の青木君を紹介して」とお願いをした。被写体との無茶な距離感がいいな、と思ったから。
『極私的神聖かまってちゃん』はwwwのこけら落としライブを記録している。ネットをググれば当日の壮絶な様子は分かるはず。それを僕らは7台のキャメラで撮った。青木君と僕以外はプロではない。でも彼らでなければいけなかった。そういう必然があるドラマをライブの一週間前から動き、記録していたから。日本各地のファンと当日のライブ前のゲストとして参加していた臼田あさ美さん、梅佳代さん、浜田ブリトニーさんも協力してくれた。そこに映っていた映像は編集スタッフによって繋がれ、僕はイギリスで見た。雪が振り、古城に積もっている。「臼田さんだったらきっと素敵なコメントと写メでアップするんだろうな」と思える景色の中、僕は丸一日かかってダウンロードした素材を見る。小田急線で往復する毎日を繰り返しつつ、それでも東京で生きる男の風景が飛び込んで来た。カップ麺を食べつつ神聖かまってちゃんを聞き続ける彼の日常に吐きそうになった。でも目が離せない。セルフでしか撮れない映像だった。だけどすぐに東京に帰りたい、とは思わなかった。より異国を満喫しようと決めた。でも東京に戻ったら必死でやる、とも。
で、東京。繋がれたライブ映像に圧倒された。自分では絶対に繋げない画だった。出国前の打ち合わせで話した、僕が「ライブ映像に対する違和感」として挙げた「神さまっぽい視点」は一切がなかった。ちゃんとしすぎてないのがよかった。あの夜の呼吸、テンションが映っていた。リズムを止められないキャメラの映像を見ながら僕は『ロックンロールは鳴り止まないっ』を口ずさむのをやめられなかった。なぜか『プライベート・ライアン』を劇場で見た時に思わず避けてしまったことを思い出した。僕はこの番組を「テレビの前で一緒に熱唱しながら見てもらえるようにしなきゃ」と思った。

前野健太さんと前野さんのライブを一年以上撮り続け、100本を超えるテープが残った。僕はそれを夏からまとめている。尺は190分になった。2層にすればDVDを一枚に出来るけど最初から「二枚組にする」と決めていた。そういう制約がなければ、今までの作り方を変えられないと思ったから。僕は自作は90 分以内、と決めている。『あんにょん由美香』だけは出来なかったが、作品完成前に作らなければならなかったチラシには119分と入れてもらった。二時間を超えるのだけはダメだ、己に課した。
前野さんのライブをまとめるのならこれまでの「90分」のリズムではやりたくなかった。DVDという「商品」だからこそ無茶がしたかった。40曲という収録数だが、例えば『天気予報』『鴨川』は3パターン記録されている。それは前野さんの曲は一人とバンドとでは全く違う曲になる、ということと前後の構成、あと長澤つぐみさんが突然引退してしまったことが理由だ(『鴨川』のPVは作り直した)。『DV』は『ライブテープ』という映画を上映する過程で制作されたが、それは劇場で人に見せる、ということを意識させられる日々でもあった。その結果が「映画館では上映をしない」だった。三時間という尺を一気に見ないで欲しい。飽きて欲しい。疲れて欲しい。でもその間は前野さんの歌のことを思い出して、また続きで再会して欲しい。一週間くらいかけて見終えるのもいいと思う。で、好きな曲だけは何度も繰り返したり…。DVDは映画より生活に密着したメディアだと思う。そういう見方を心がけて作った。また映像を意図的に見にくくした。VHSにコピーをしてノイズを作り、時にはテープをぐしゃって折って傷つけた。インタビュー映像はよく撮れていたけど、画面を消した。山本タカアキさんが作ってくれた音を聞いて、「画、いらね」と思った。きっと『DV』を買った人は、モニターの暗闇に反射する自分と向き合うことに なる。スクリーンは闇を吸収してしまうからそんなことは不可能だ。真っ暗な中でギターを抱える前野さんと見ている自分が重なる、という映像体験をして欲しい。僕は布団に包まってレンタルしたVHSを観ていたあの頃、モニターに反射する自分を「アホだなぁ。でも好きなんだもんなぁ」と思ったことがある。
初めて自分でお金を出し、値段を決め、デザインを依頼し、見積もりを出してもらった。僕が知るミュージシャンのほとんどはそうやって自分の作品を売り、育てていた。でも映画でやっている人はいなかった。僕は呑気だな、と思った。映画人はもっと、届けるということを意識しなきゃいけない、と思った。音楽の人たちはそのことに対し、とても意識的だ。僕だって一時は映画を形としての商品にしないことを決めていたし、それは今でも変わらない。でも『DV』は最初からDVDというメディアを考えていた。だから「売る」ということをいっぱい考えさせられた。

今、自主映画の劇場公開はそれほど難しくはない。回収は別の話だが、5年程前に比べれば遥かに少ないリスクで掛けられる。ネットの効果も大きい。だから劇場公開を考える人と会うとほとんどが、「ブログ、Twitterで展開します」と言う。先行イベントは阿佐ヶ谷か新宿ロフト。その動きはよく分かる。それが今の主流なんだろう。流れがある、ということはいいことなんだろう。でも、だからこそ「どうなんだろう」とも思う。僕は流れに乗りたくない。流れを作るのは面白そうだけど、そんなのは数人の天才か商才しか出来なさそうだ。今の都内の映画館には同じ観客がぐるぐるしてる感じがする。地方のシネコンに行くと単館には絶対来なさそうな老夫婦やカップルやグループがいる。そんな人たちのリアクションや空き具合がいいので、僕はメジャー作品を見る時は遠出をする。話を戻すが、ぐるぐるは狭いコミュニティになる。必然だ。数年前までの日本映画はそんな状況だった。つまり一般客からはそっぽを向かれていた。「日本映画はダサイ」と言われていた時代。先日テレビで織田裕二は「あの頃、日本映画なんか見たくなかった」って言っていた。だからこそ「『踊る大捜査線』はそういう映画にしたくなかった」とも。僕も当時を覚えているから、その意見はよく分かる。でも劇場にお客がいなくても凄い映画がいっぱいあった。90年代は「日本映画が世界一面白い」と信じていた。世界の映画が見れる東京で毎日のように映画を観ていたからこそ確信出来た。凄く面白いけど、何か間違っている、とも思いつつ。そしてそんな場で僕も映画を作りたい、と憧れていた。
以前、とある劇場の人から「かつてはこの監督作品なら一週で1000人は入った。でも最近、そうはいかない。理由はファンが東京を出て行ったしまったから」。僕はTwitterはぐるぐるを強化させてしまうものだと思う。そうでない使い方もあるのかもしれないが、周囲を見る限りそうとしか思えない。でもネットとはそもそもそういうモノなんだと思う。なぜなら知らない単語を検索することは出来ないのだから。
でも知ってる単語ならより深く追求出来る。また会いたい人にすぐコンタクトが取れる。僕は『DV』をある人に見て欲しい、と思った。メッセージを送ってみようと決めた時には12月10日になっていた。

dv   『DV』

2月上旬発売/187分/DVD2枚組/TIPD-0001〜2
出演:前野健太
撮影、構成:松江哲明
整音:山本タカアキ
タイトルアニメーション:岩井澤健治
デザイン:長尾謙一郎+可児優+坂下志帆(連雀デザイン室)


Profile: 松江哲明(まつえ・てつあき)

1977年東京都出身。
99年、日本映画学校の卒業制作として監督した『あんにょんキムチ』が、山形国際ドキュメンタリー映画祭アジア千波万波特別賞、NETPAC特別賞、平成 12年度文化庁優秀映画賞などを受賞。以降、OV『ほんとにあった! 呪いのビデオ』シリーズ、『カレーライスの女たち』『セキ★ララ』『童貞。をプロデュース』『あんにょん由美香』など刺激的な作品を次々と発表。東京国際映画祭2009にて「日本映画・ある視点部門」作品賞を受賞した『ライブテープ』が、ドイツ、NY、トロント、パリなどの海外や国内の映画祭を巡回中。自身の10年間のドキュメンタリーについてまとめた著作「セルフ・ドキュメンタリー」(河出書房新社)、講座に参加した4人のゲストとの対談集「ブレインズ叢書4 質疑応答のプロになる! 映画に参加するために」(メディア総合研究所)が発売中。最新監督作はスペースシャワーTVで放送される『極私的神聖かまってちゃん』

公式Blog
http://d.hatena.ne.jp/matsue/
 

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