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スペーサーfilmfestival
TOP > セカイノ映画祭カラコンニチワ
タイトル
毎日、世界のどこかで行われている映画祭。日本で広く報道されるのはカンヌ、ベルリン、ヴェネチアの世界三大映画祭ぐらいだが、邦画は昨今のジャパニーズ・ポップカルチャー・ブームの影響もあり、世界の意外な場所で熱狂的な歓迎をもって受け入れられているのだ。そんな現地の様子を、参加者自らレポートしてもらおう。
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取材・文/中山治美
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 http://www.filmfestivalrotterdam.com/nl/
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 極寒期の開催で、ハリウッドスターが来るワケでもないのに、期待の若手映像作家を発掘しようと毎年35万人以上が参加するインディペンデント映画祭。先見の明には定評があり、09年の長編コンペティション部門グランプリ「タイガー・アワード」を受賞したヤン・イクチュン監督の韓国映画『息もできない』が、その後、世界の映画祭を総ナメにしたのも記憶に新しい。また企画マーケット「シネマート」は今年で27回の実績を誇り、ここで出資会社を集めた『レバノン』(イスラエル・フランス・ドイツ合作)が09年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を、同じく『ウィメン・ウィズアウト・メン』(ドイツ・オーストリア・フランス合作)が優秀監督賞を受賞するなどココから大きく実っている。他、プロデューサーのラボ(研究会)や評論家のトーレニングもあり、映像作家だけでなく今後の映画界を担う若手を幅広く育成して行こうという姿勢が見られる。09年からはwebサイトを活用し、一般人から出資者を募るプロジェクト「シネマ・リローデッド」を開始。テストケース的に始まったが、今後も継続されるのか? その成果が注目されている。 ph02


〈井上都紀監督が語るロッテルダム国際映画祭〉
「お客さんに観て頂いて、映画は完成するのだと初めて実感しました」

 短篇映画『大地を叩く女』(08)で08年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門で、グランプリを受賞した井上都紀監督。初の長編『不惑のアダージョ』は、そのグランプリの副賞である「次回制作支援金」200万円と、派遣社員の仕事で貯めた自己資金100万円の計300万円で製作した自主映画だ。撮影日数はわずか10日。インディペンデント映画の祭典であるロッテルダム国際映画祭コンペ部門の中でも恐らく、1、2位を争う低予算作品だった。

 井上監督は「ロッテルダムで上映されるなんてラッキーの一言に尽きます。さらに上映後、『良い映画を有り難う』と言って下さる方が多くて・・・。映画は、お客さんに観て頂いて完成するのだなと初めて実感しました」と顔をほころばす。

 『不惑のアダージョ』のワールドプレミア上映は、09年のゆうばり国際映画祭ファンタスティック映画祭だった。それからロッテルダム国際映画祭で上映されるまで、約1年かかった。それには理由がある。日本での劇場公開を目指したが、スター俳優不在&新人監督の作品にはハードルが高かった。ならばと、国際映画祭出品で箔を付けることを狙った。興味を示してくれたのは、あのカンヌ国際映画祭批評家週間部門。フランス映画批評家が設立し、監督作1〜2作目を対象とした新鋭発掘部門だ。だが出品には条件があった。仏語と英語字幕の入ったフィルムを2本制作し、現地のパブリシストを見つけること。カンヌ側に聞かれた。「その作業を映画祭開催までの1ヶ月の間で出来ますか?」と。細々と、自主映画を作っている井上監督には非情な通告だった。

 井上監督が説明する。「制作資金を貯めるのも大変だったのに、さらにフィルム2本焼くだけで約600万円はかかってしまう。カンヌはあくまでビジネスを目的とした場なのだと痛感しましたね。映画関係者にも相談し、『例えカンヌに出品出来たとしても、世界中の話題作が集まるあの場では『不惑のアダージョ』は埋もれてしまうのでは? また今は、カンヌ出品作と言えども日本での集客に繋がらない』とのアドバイスを受け、ならば、そこまでムリして出品しなくても・・・と思い、断念しました」。

 その決断が正しかったか否かは、分からない。しかしロッテルダム国際映画祭は09年に上映された『大地を叩く女』を評価しており、“インターナショナルプレミア”のステージを用意してくれた。また、コンペ参加監督に対して渡航費と滞在期間の宿泊費をすべて招待してくれるだけでなく、会場内で使用出来るドリンクチケット付きという心配りも。上映会場は、普段『アバター』のような大作を上映している最新鋭のシネコンだ。そして映画祭終了後の3月には、本年度のコンペティション部門出品作品がすべて上映される米国ツアーがあり、井上監督もロッテルダム側の負担でニューヨークへ飛ぶ機会にも恵まれた。その時間の中でおのずと海外の監督たちとの交流の輪が広がり、刺激にもなったようだ。

 
ロッテルダム映画祭のデイリー新聞「DAILY TIGER」にも『不惑のアダージョ』&井上都紀監督は大きく取り上げられた
 井上監督は「『不惑のアダージョ』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭の制作支援を受けていると知り、『どうやって支援金をもらうの?』と尋ねてくる人もいたんですけど、政府や企業の支援を受けて作っている人が多く、自分の立ち位置について考えさせられましたね。また他のコンペ作を観ると、世の中の流れに囚われず、自分が今観ている世界しか信じていないような作品が多くて面白かった。日本で映画を作っているとどうしても、(観客に)分かりやすく作ってしまうのだけど、もっと作家主体の映画を作ってもいいのかなと思いましたね」と振り返る。


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井上都紀監督と同じく長編コンペにノミネートされた『美代子阿佐ヶ谷気分』の坪田義史監督と


 
 その後も『不惑のアダージョ』は、ドイツ・ニッポンコネクション、米国・ワシントンDC映画祭、デンマーク・コペンハーゲン映画祭と出品が相次いでいる。バレエダンサーの夢をケガで諦め、04年に短篇『暁の花』で監督デビューしてから6年。ロッテルダム国際映画祭参加は、「映画制作を止めようと思うこともあった」と吐露する井上監督にとって、大きな転機となった事は間違いなさそうだ。


  『不惑のアダージョ』

公式サイト:
http://www.autumn-adagio.com/
井上都紀監督作
『不惑のアダージョ』


世俗から離れ、神職に身を捧げてきた修道女(柴草玲)が40歳を迎え、”性”と”生”を見つめる人間ドラマ。公で語られることがまだまだ憚れる、女性の更年期障害をテーマにした意欲作だ。修道女が生きている喜びを感じるきっかけとなる、バレエ教室のピアノ伴奏を手掛けるシーンで、バレエ界のプリンス西島千博が特別出演。バレエダンサーを夢見ていた井上監督らしい、バレエへの愛情が感じられる美しいシーンだ。日本公開未定。



〈第39回ロッテルダム国際映画祭出品作品〉
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【VPROタイガー・アワード・コンペティション部門】
『不惑のアダージョ』井上都紀監督
『美代子阿佐ヶ谷気分』坪田義史監督

【ブライト・フューチャー部門】
『イエローキッド』真利子哲也監督
『シンボル』松本人志監督
『ロストパラダイス・イン・トウキョウ』白石和彌監督
『ガマの油』役所広司監督
『夏の家族』岩名雅記監督

【スペクトラム部門】
『君と歩こう』石井裕也監督
『空気人形』是枝裕和監督
『ワカラナイ』小林政広監督

【スペクトラム・短篇部門】
『One Record on December』田巻真寛監督
『Still in Cosmos』、『The World』牧野貴監督
『Lumphini2552』西川智也監督
『Trees of Syntax, Leaves of Axis』斉藤大地監督
『WASH[ウォッシュ]』、『Family』山田園子監督
『兄、行則の日記より』佐藤文郎監督
『因数ライト』五島一浩監督
『OOIOO SOL』後藤章治監督
『Hand Soap』大山慶監督
『あんたの家』山川公平監督
『S-94』福居ショウジン監督
『Reflection』石田尚志監督
『TA-TA TOSY TIT』平岡佐知子監督、白玖欣宏監督
『カンニバル星人』David 亀Tsai監督

【シグナルズ・リローデッド:バック・トゥ・ザ・フューチャー?特集】
『ろくでなし』('60)吉田喜重監督

【シグナルズ:アフター・ビクトリー特集】
『日本鬼子 リーベンクイズ』(2001)松井稔監督『戦ふ兵隊』('39)亀井文夫監督

【シグナルズ:リゲインド 吉田喜重特集】
『秋津温泉』('62)、『嵐を呼ぶ十八人』('63)、『水で書かれた物語』('65)、『エロス+虐殺』('69)、『戒厳令』('73)、『鏡の女たち』(2002)

【シグナルズ:崔洋一特集】
『十階のモスキート』('83)、『性的犯罪』('83)、『友よ、静かに瞑れ』('85)、『Aサインデイズ』('89)、『月はどっちに出ている』('93)、『マークスの山』('95)、『御法度』('99、大島渚監督)、『豚の報い』('99)、『刑務所の中』(2002)、『クイール』(2004)、『血と骨』(2004)、『Soo』(2007)、『ダイコン〜ダイニングテーブルのコンテンポラリー』(2008)


〈第40回ロッテルダム国際映画祭開催予定〉
2011年1月26日〜2月6日
作品エントリー開始時期:2010年5月(予定)
詳細は下記サイトにて

http://www.filmfestivalrotterdam.com/professionals/film-entry/


《次回予告》
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ムンバイ映画祭(インド)
 

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