HogaHolic LOGO
topNEWSREVIEWVOICETHEATERFEATURE
filmfestival
TOP > セカイノ映画祭カラコンニチワ
セカイノ映画祭カラコンニチワ
毎日、世界のどこかで行われている映画祭。日本で広く報道されるのはカンヌ、ベルリン、ヴェネチアの世界三大映画祭ぐらいだが、邦画は昨今のジャパニーズ・ポップカルチャー・ブームの影響もあり、世界の意外な場所で熱狂的な歓迎をもって受け入れられているのだ。そんな現地の様子を、参加者自らレポートしてもらおう。
spacer
取材・文/中山治美
spacer

 http://www.piff.org/intro/default.asp
spacer
 1996年に創設された、韓国初の国際映画祭。第1回大会は31カ国から集められた169作品の上映でスタート。それが『シュリ』(’99)の大ヒットに始まった韓国映画界の快進撃と国策として映画産業に力を入れ始めた国のバックアップも相まって、第15回大会の今年は67カ国からの306本を上映し約18万人の観客を動員。名実共にアジア最大の映画祭へと成長した。アジア映画を世界に紹介するショーケースとしての役割のほか、Pusan Promotion PlanとAsian Cinema Fundの2つの企画開発と支援、Asian Film Academyと題した人材育成にも力を入れている。ただし今年、映画祭の顔だったキム・ドンホ執行委員長が退任。大きな転機を迎えた同映画祭に、世界中から関心が寄せられている。


〈小谷忠典監督が語る釜山国際映画祭〉
「“新作の釜山国際映画祭上映”のお墨付きを頂き、
 撮影交渉がスムーズになりました」

 
「AND(アジアン・ネットワーク・オブ・ドキュメンタリー)ファンド」でPUFSファンドを受賞した小谷忠典監督
 自身初のドキュメンタリー映画『LINE』が好評だった小谷忠典監督。同作品の劇場公開はまだ続いているが、小谷監督はすでに次回作の製作に動き始めている。それは、’10年11月5日に乳ガンで死去した絵本作家・佐野洋子さんの生涯を追うドキュメンタリー『100万回生きたねこ』だ。佐野さんの絵本で育った小谷監督は、メディアであまり多くを語らない佐野さんの、生身の姿を捕らえるべく09年夏からカメラを回していたという。

「新潮社を通して企画書と『LINE』のDVDを送ったところ、原作を映画化するのは抵抗あるがドキュメンタリーならいいんじゃないか?と。周囲のススメもあって快諾頂きました。ただし『私の顔を撮らなければOK』と(苦笑)。インタビューを撮り始めてから『これは困ったな』と思いましたね」


絵本「100万回生きたねこ」を片手にプレゼンテーション
 
 佐野さんをカメラに収めると同時に、プロデューサーの大澤一生は製作費の調達に動いた。目を付けたのが、釜山国際映画祭会期中に行われるドキュメンタリー映画の企画支援プロジェクト「Asian Network of Documentary(AND)Fund」だ。劇場公開が難しいことから出資者集めが困難なドキュメンタリーの企画を、釜山国際映画祭や釜山銀行、釜山外国語大学、東西大学などが賞金を出して支援し、映画が完成した際には同映画祭でのプレミア上映を保証してくれる。ここから過去、李纓監督『YASUKUNI 靖国』(07)や想田和弘監督『精神』(08)が世に出た。大澤Pと小谷監督は、英語で書いた企画書と共に『LINE』のDVD、すでに撮影していた『100万回生きたねこ』の映像を20分にまとめたものを2010年5月に提出。山形国際ドキュメンタリー映画祭ディレクターの藤岡朝子、台北映画祭ディレクターのジェーン・ユウら4人の選考委員による結果、小谷はAND賞の中の、釜山外国語大学がスポンサーのPUFSファンドを受賞。賞金5万韓国ウォン(約35万円)と、ANDでのプレゼンテーション及びミーティングの権利を得て、10月に釜山国際映画祭へと飛んだ。


 
 メンバーは大澤Pと通訳、評論家・荻野亮。ANDからの招待は監督一人分の渡航費&宿泊費4日分だったため、その恩恵は『LINE』でお世話になった荻野に譲り、小谷監督らは自腹での参加だ。4日間のスケジュールはなかなかハード。AND賞に選ばれたアジアの8作品の監督たちと互いの企画をプレゼンテーションして意見交換し合う「session」や、ドキュメンタリーの専門家との個人面談が用意されていた。

「監督同士のディスカッションは刺激になりました。『その音楽はダサイと思う』とか、かなり厳しい意見をぶつけ合うんです。そもそも韓国を含めアジアの他の国々では、ドキュメンタリーを劇場公開することは難しく、ほとんどがテレビ局向けだとか。だから3つも4つも政府の助成金を申請し、こうした映画祭の企画マーケットに出品しては製作費を捻出しているそうです。いかに自分が恵まれた環境にいるかを思い知りました。って、今の自分が置かれて状況で恵まれているっていうのもどうかと思いますが」

 
MTG中(写真手前が監督&プロデューサー、左端が通訳の藤岡朝子氏)
 個人面談はさらに厳しい現実を知らしめられたという。相手は英国BBCワールドニュースの委託部長や、インドや英国のドキュメンタリー映画祭コーディネーターなど。小谷監督は彼らから「アートの香りのする作品はいりません」、「あなたは国内でこの作品を売ろうとしているのか?それとも海外か?どっち?」、「完成作品がイメージ出来ない」など厳しい意見を投げかけられた。頭でイメージしていることを、言語に変換して他人に伝えることの難しさを痛感させられたという。

「その意見の多くが『佐野さんは日本では有名な絵本作家だが、海外ではどのように作品を売っていくのか?』と。それに対して『戦後の混乱期を生きた一人の女性の生き様として、海外でも共感を持って見てくれるはず』と答えましたが。自分は監督だけど、ビジネスの視点も持った方がいいのかな?と考えましたね」


映画祭バッグ
 
 こうした会話やプレゼンテーションは、すべて英会話が必須となる。小谷監督は英語は不得意。参加監督で唯一、通訳を連れての参加だったという。しかし、そこで怯まないところが、小谷監督の強味かもしれない。

「現地では(山形国際ドキュメンタリー映画祭の)藤岡さんにも通訳を手伝って頂きました。英語での参加ということで申請を躊躇する人もいると思います。でも僕は映画『LINE』を5カ国で上映した時も、字幕作業から全部人頼みですから(笑)」

 “ご褒美”もあった。授賞式パーティーで憧れのツァイ・ミンリャン監督や仏女優ジュリエット・ビノシュらに遭遇した。


パーティーで踊るジュリエット・ビノシュ
 
「普段、映画監督をやっていて良いことが少ないから、会えただけでも十分です。それから本場・韓国の焼肉を食べました。評論家の荻野氏にとっては6年ぶりの焼肉だったとか(笑)。僕も普段は、うどん、そば、ラーメンばっかりですもん」

 もっとも今後は、佐野さんの遺言とも言える貴重なインタビューの数々を作品として仕上げる重大な任務を果たさねばならない。プレッシャーがないと言えば、嘘になる。

「それでも、完成した作品は釜山国際映画祭でのプレミアが決まったので、撮影などの交渉がしやすくなりました。賞金よりも、こっちの方が価値は大きい」

 小谷監督は今後、佐野さんの足跡を尋ねて山梨、静岡、北京、ベルリンなどで撮影を行う予定だという。


『LINE』(監督・撮影・編集:小谷忠典)

 
大阪・大正区で酒に溺れた父と暮らす小谷忠典は、恋人の子どもと接する中で自身の父性について考えるようになる。カメラ片手に向かった先は、沖縄・コザ地区。心身共に様々な傷を持つ娼婦たちをレンズ越しに見つめるうちに、小谷は父親の傷にも向かい合う決意をする――。

1月20日(木)19時30分 東京・渋谷アップリンクファクトリー
1月25日〜31日、札幌・名画座「蠍座」にて公開。
http://line.2u2n.jp/


〈第15回釜山国際映画祭〉
spacer
 2010年10月7日〜15日

【ニュー・カレンツ部門(コンペティション)】
審査委員長:ワダエミ

【A Window on Asian Cinema部門】
『アブラクサスの祭』加藤直輝監督
『冷たい熱帯魚』園子温監督
『ダンシング・チャップリン』周防正行
『春との旅』 小林政広監督
『オカンの嫁入り』 呉美帆監督
『Magic and Loss』(日本・マレーシア・韓国・香港・仏合作)リム・カーワイ監督
『アウトレイジ』北野武監督
『Pinoy Sunday』(台湾・フィリピン・日本・仏合作)ウィ・ディン・ホー監督
『行きずりの街』 阪本順治監督
『The Tiger Factory』(マレーシア・日本合作)ウー・ミンジン監督
『十三人の刺客』 三池崇史監督
『トイレット』 荻上直子監督
『悪人』 李相日監督
『ワラライフ!!』 木村祐一監督

【Wide Angle部門(短篇・アニメ)】
〈アジアン短篇コンペティション〉
●ソンジェ・アワード(優秀アジア短篇映画賞受賞)
『Inhalation』(マレーシア・日本合作) エドモンド楊

〈短篇ショーケース〉
『The Boy and the Whore 少年と娼婦』 松井雅也監督

〈ドキュメンタリー・ショーケース〉
『わが愛しの歌舞伎座』 十河壮吉監督

〈アニメーション・ショーケース〉
『チェブラーシカ』 中村誠監督
『イヴの時間 劇場版』 吉浦康裕監督

【Open Cinema 部門】
『雷桜』 廣木隆一監督 ※ワールド・プレミア上映
『ゼブラーマン −ゼブラシティの逆襲−』三池崇史監督

【クロージング作品】
『カメリア』(タイ・日本・韓国) ウィシット・サーサナティアン監督、行定勲監督、チャン・ジュヌァン監督

【アジアン・フィルム・マーケット】
●PPP(Pusan Promotion Plan)賞 賞金:2万USドル
『mushroom Watermelon』 荻上直子監督

【AND(アジアン・ネットワーク・オブ・ドキュメンタリー)ファンド】
●PUFSファンド 賞金:500万韓国ウォン
『100万回生きたねこ』 小谷忠典監督

●Pusan Bankファンド 賞金:500万韓国ウォン
『Playing with Nan』(ネパール・日本) ディペシュ・カーレル監督&Asami Saito監督


《次回予告》
Case.12
トロント国際映画祭(カナダ)
 


ページトップへarrow    


©2008 HogaHolic TRYWORKS LOGO