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セカイノ映画祭カラコンニチワ
毎日、世界のどこかで行われている映画祭。日本で広く報道されるのはカンヌ、ベルリン、ヴェネチアの世界三大映画祭ぐらいだが、邦画は昨今のジャパニーズ・ポップカルチャー・ブームの影響もあり、世界の意外な場所で熱狂的な歓迎をもって受け入れられているのだ。そんな現地の様子を、参加者自らレポートしてもらおう。
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取材・文/中山治美
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 http://www.dmzdocs.com/

隣国との軍事境界線
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 韓国・京畿道と波州(パジュ)市、現地のフィルムコミッションが一体となって2009年にスタートした国際映画祭。映画祭の名前が示すとおり、軍事境界線を隔てて朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と接する街での開催とあって、映画祭のテーマとして「平和と共存」を掲げている。部門は、インターナショナル・コンペティション、コリアン・コンペティション、ワールド・スペクトラム、スペシャル・フォーカス、ドキュメンタリー・フォー・キッズなどがあり、2010年の第2回大会では世界30カ国から70本の作品が上映された。また今年の釜山国際映画祭と同時開催される企画マーケット「アジアン・シネマ・ファンド」と提携し、DMZファンドを設け、アジアのドキュメンタリー作家を企画からサポートしていく発表。今後、山形国際ドキュメンタリー映画祭の強力なライバルとなりそうだ。

出版社が多くブックシティとも呼ばれるパジェ市の街並み


〈想田和弘監督が語る非武装地帯国際ドキュメンタリー映画祭〉

 
想田監督の義父であり『Peace』出演の柏木寿夫氏(隣は想田監督の妻)
 想田和弘監督の新作『Peace』の製作発表は、2009年の第1回非武装地帯国際ドキュメンタリー映画祭で行われた。はじまりは、09年の夏だった。想田監督が『精神』で助成金を得た釜山国際映画祭ANDファンド(韓国)のディレクターであるホン・ヒョスクが、非武装地帯でプログラム・アドバイザーを務めることとなり、映画祭発のプロジェクトへの参加を持ちかけてきたのだ。3人の監督が、映画祭の掲げる「平和と共存」をテーマに各15〜20分程度の短編を製作するオムニバスで、予算は一人1000万ウォン(70万円)。お披露目の場は2010年の第2回大会と決まっていた。


(左から2番目が)映画祭映画祭ディレクターで俳優のチョ・ジェヒョン
 
 しかし想田監督は悩んだという。「テーマが大上段で正し過ぎる」。加えて、テーマを決めずに撮るのが、監督が実践する「観察映画」の制作スタイルだからだ。

 ところが、想田監督は思わぬところから短編映画の着想を得る。妻の実家の岡山で、義父・柏木寿夫が庭に集まる野良猫たちにエサをあげている風景を何気なく写していた時の事だ。平穏に暮らしていた猫たちだったが、外部からやってきたオスの「泥棒猫」が出現するようになり共同体が乱されようとしていた。それは人間社会の縮図にも見え、「平和と共存」の意味を考えさせる光景だった。

 
市内のシネコンにて
「猫の平和と共存についての短編映画になる、と思いました。しかし、撮っているうちに猫と義父だけでなく、高齢者や障害者への支援をする義母・柏木廣子の仕事に興味が広がり、91歳で自らの死を見つめながら生きている橋本至郎さんらにも出会い、いつの間にか75分の長編になってました。当初の映画祭の要望からは大幅に長くなってしまったので(笑)、プログラマーのカン・ソクピルに相談したら、『作家の意向を尊重する』との返事が届きまして。結局、75分の長編が、映画祭のオープニング作品として独立して上映されることになりました」


軍事境界線上にある板門店にて
 
 オープニングは2010年9月9日。場所は、北朝鮮につながる「自由の橋」のたもとに設けられた野外の特設会場で、組織委員のメンバーである名優アン・ソンギや、巨匠イム・グォンテク監督ら韓国の主要映画人が多数詰めかけた。ところが生憎の集中豪雨で上映どころではない。なのに映画祭側は頑なに、続行にこだわった。


 
集中豪雨につきカッパ姿
「『本当に、この雨のなか上映するの?』と何度も確認したんですけど、それでも『やる』と。韓国人にとって“自由の橋”のたもとで平和をテーマに映画祭をやるというのは特別な意味があり、それだけで血が燃えたぎるらしいです(笑)。たしかに、板門店を見学したときに、朝鮮戦争はあくまで休戦であって、今でも戦争状態にあるのだと痛感させられました。結局映画の方は、あまりの豪雨に上映予定時間ギリギリに中止が決定し、2日後に市内のシネコンで普通に上映されました(笑)。義父がせっかくオープニングに合わせて現地入りしていたんですけど、結局、作品を見ずに帰国しなければならなかったのが残念でした」


映画祭バッグなど
 
 かくして、無事に上映された作品の評判は上々だ。席もほぼ埋まった。
 「猫の映画だと思った猫ファンが大挙して観に来ていたのかもしれませんが(笑)」
 しかし、本作の出演者である義母の評価には、なかなか手厳しいものがあるという。
 想田監督が前作『精神』を撮る際、舞台になった精神科診療所「こらーる岡山」の撮影許可は、診療所とつながりのある義母を通して得たという。同作品では、患者たちがモザイクなしに、赤裸々に自身の半生を語っている。その勇気ある決断が話題となった。そして、映画に意義を感じ、想田監督と患者たちの間を取り持ってくれたのが義母だったという。

 
韓国雑誌の取材中
「『選挙』や『精神』は社会に対して挑み、問題提起するような映画でしたが、『Peace』は、いわば“闘わない映画”。僕はその点がむしろ気に入っているのですが、活動家のような義母にしてみれば、ちょっと物足りないと感じたのかもしれません」

 ちなみに、『Peace』の仕掛人ともいえるヒョスクも女性。彼女は、webサイト「EUROPE ASIA DOCUMENTARY NETWORK」のインタビューで、「最近オススメのドキュメンタリー映画は?」と問われ、「アジアなら『Peace』」と挙げている。
想田作品は、“攻め”の女性たちによって支えられているようだ。


想田和弘監督作
『Peace

 
『選挙』(07)、『精神』(08)に続く、想田監督3作目の劇場公開作。しかし今回は前2作と異なり、テーマを与えられてから撮ったことなど成立過程が特殊だったため「観察映画・番外編」となっている。2010年東京フィルメックス映画祭で観客賞、今春の香港国際映画祭では最優秀ドキュメンタリー賞を受賞と、すでに国内外の映画祭で高い評価を得ている。『Peace』のメイキングを通した観察映画論『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか(仮)』(想田和弘著、講談社現代新書)も7月15日に刊行予定。

7月16日(土)よりシアター・イメージフォーラムなどで全国順次公開予定。

公式サイト: http://www.peace-movie.com


〈第2回DMZ(非武装地帯)国際ドキュメンタリー映画祭〉
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 2010年11月20日〜2010年11月28日
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●オープニングフィルム
『Peace』想田和弘監督
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●インターナショナル・コンペティション
『団旗の下に』大須賀康之&根来知宏監督

〈第3回DMZ(非武装地帯)国際ドキュメタリー映画祭・開催概要〉
2011年9月22日〜28日



《次回予告》
Case.17
「HORS RISTES」映像祭(フランス・パリ)
 


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