09/12: 『ぼくはうみがみたくなりました』福田是久監督・伊藤祐貴 対談:第3回
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Posted by: HogaHolic

取材・文/水上賢治
第1回:内ではなく、外へと飛び立つ映画を目指して。
第2回:“天使”を探し求めた主役オーディション
第4回:監督が目指したこと。浅野淳一が現場にもたらしたもの
第5回:作り手として、演じ手として
自閉症の青年と心に喪失感を抱えた少女の交流を温かく綴る本作。自閉症の愛息への想いを込め、父親の山下久仁明が 書き上げた同名小説をもとに、1000名を越す賛同者からの協力や寄付金で映画化が実現。様々な人々の想いを乗せた作品は、障害者を扱った映画が陥りがちな教育的で品行方正なだけの内容に止まらない。弱者を哀れむような悲壮感とも無縁で、ある意味、“自閉症”というテーマに抱きがちな暗いイメージとは違った、大きく扉が解き放たれた快活な作品に仕上がっている。重要なテーマを真摯に受けとめて“全力投球した”と言い切る福田是久監督と主演の伊藤祐貴が作品に懸けた想いを語る。
第3回:伊藤祐貴、現場にて撮影期間中“浅野淳一”で居続ける
伊藤さんは浅野淳一という役を見事に体現されていたと思います。ほんとうにすばらしかった。ここまでにも役へのアプローチについていろいろと話が出ていますけど、ほかに演じる上で大きかったことはありましたか?
伊藤:原作は本文の一段下に淳一くんの心情が綴られているんですね。例えば「僕はおしゃべりが苦手です」とか。だから、てっきり映画ではここの部分は僕の声のナレーションを挿入するんだろうと思っていたんです。ところが脚本を見たら、そんなナレーションなんて一切出てこない。それで"これはナレー ションで語られる部分もすべて自分が言葉に出さない形で表現しなくてはいけないんだ"と悟りました。で、福田監督にお会いしたとき"原作からとは別ものと 考えた方がいい"とアドバイスされて。これは自分にとって大きくて、あらためてやりがいのある役をいただいたんだと思いましたね。
言葉ではない形で表現しなくてはならないとなったら、通常プレッシャーを感じるように思うのですが?
伊藤:それはないですね。むしろ役者冥利につきるというか、俄然やる気になって。目標が高くなった分、もっともっと浅野淳一という人物を掘り下げようと、ちょっと燃えましたね(笑)。
福田:この伊藤くんの意欲的な姿勢がよく現れているエピソードがあって。実は撮影期間中、現場で彼はずっと浅野淳一で居続けたんですよ。僕は "(ロバート・)デニーロ・アプローチだ"と思ったんですけど(笑)。ほんとうに本番もリハーサルも待ち時間もランチタイムもずっと淳一という人間のままでいたんですね。その期間は、伊藤祐貴としてほかの役者さんとコミュニケーションをとることをしなかった。これは、もちろん伊藤くん自身が浅野淳一という 役にブレが出ないようにと考え抜いた末の決断だったと思う。でも、これでほかの役者さんたちも実は助かったんじゃないかと僕は思っていて。シーンが代わる ごとに、伊藤くんとして向き合うのか、淳一として向き合うのか切り替えていたら、そのズレがどこかに知らず知らずのうちに出てしまうと思うんですね。でも、今回は伊藤くんが淳一として常にいてくれたから、芝居の核がぶれなかった気がするんですよ。伊藤くんが淳一で居続けていることで、ほかの役者さんも本 気で淳一と思って接し続けられたような気がする。
伊藤:なぜ、そうしたかとういと、監督の指摘にもありましたが、伊藤祐貴という人間として1度コミュニケーションをとってしまうと、そのつながり がなんとなく画面に出て、スクリーンの向こう側の人たちに伝わってしまう気がしたんですね。例えば僕が共演者の方とコミュニケーションを持つと、わからないですけどお互いに本番シーンに入ったときに"今は演技中で別人"という意識が無意識に出てしまうみたいな気がして。この作品に関しては、その隙さえ与えちゃいけないと思ったんです。登場人物と淳一はどうしても意志の疎通がうまくとれない。僕が共演者の方とコミュニケーションをもつことで、その登場人物と淳一の間にある距離感が僕はリアルに出ない気がしてならなかった。ですから、共演者のみなさんにも伊藤祐貴ではなく、浅野淳一として接してもらいたいと 思って。それこそ、淳一として接していて気に食わないことがあったら、"相手に飛び掛ってやろう"ぐらいに思っていましたから(笑)。そういうことで秋野 太作さんをはじめ大先輩もいらしたんですけど、失礼を承知で共演者との皆さんと待ち時間に会話を交わすことも控えました。あとでお礼やお話はいっぱいでき るので、そのとき改めて無礼を謝ればいいと思って。
そうだったんですか。そこまでやり抜いてるとは(笑)。でも、本当にここでこういうふうにお話しているのが信じられないぐらい、スクリーンの淳一は伊藤さんとは別人になっています。
伊藤:この前、試写会の司会の人にも"わかってはいるんですけど、なんか普通にしゃべっているのが不思議でならない"と言われて。そういうふうに言われることが今の僕にとってはちょっと快感なんです。良い意味で裏切れたと思って(笑)。
福田:試写会のアンケートなんかで、"淳一くんかわいい"という反応がすごく多かったんですよ。僕はこれってすごいなと思っていて。どうしても障害者の方を見るとき、僕らはその境遇を悲しむような目をもってしまいがち。淳一はそれとまったく反対の存在で見られた。これだけでも今までにない"障害者"を題材にした映画になったんじゃないかと思うんです。

「ぼくはうみがみたくなりました」公式サイト
http://bokuumi.com
東京都写真美術館ホールにて9月18日(金)まで公開中(全国順次公開)
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