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谷垣健治インタビュー

広東語、北京語、英語を操り、ジャッキー・チェンが会長をつとめる「香港動作特技演員公會(Hong Kong Stuntmen Association)」唯一の日本人会員。93年に単身で香港に渡り、現在は香港のアクション・スター、ドニー・イェン氏に最も信頼されるスタッフとして、世界中の撮影に飛び回っている。世界的に大ヒットした大作『孫文の義士団』では、スタントコーディネーターとして参加。自身も多くの作品を監督している谷垣健治氏に話を聞いた。

取材・文/植山英美

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中国、香港の映画の撮り方と
日本映画の撮り方の違いとは?


――『孫文の義士団』ではアジアオールスター出演ですね。大作ならではの苦労があったでしょうか。

  『孫文の義士団』
『孫文の義士団』
谷垣:ドニー(イェン)とカン・リー(格闘技スター)との格闘シーンが担当だったんですが、実は到着した時は撮影の最後の1ヶ月でした。大作なので、リテイクがあったり、俳優のスケジュールが合わなかったりと、いろんな事でつじつまが合わなくなっていて、僕が到着した時は、カオスの状態だったんです。監督を助けるために、テディ・チャン監督の他に、アンドリュー・ラウ監督、ピーター・チャン監督(本作品では兼プロデューサー)、そして僕らドニー・イェンのチームが集結し、3つのチームでそれぞれ撮影しました。

――スター監督らが共同撮影するなんて、他の国ではありえないですね。

谷垣:『孫文の義士団』もメインのスタッフやキャストも香港人が多いですよね。中国の作品は香港の監督や俳優を呼んで作っている事が多いですが、やはり香港とは勝手が違い、撮影がスムーズにいかない時があります。香港映画界は狭いですし、そういう時は、ギャラもクレジットも度外視で、映画人同士助け合うんです。僕たち自身が義士団みたいな(笑)。でも、制作側にとってはたいへんですよ。ひとつの作品に、ひとつの撮影隊ではなくて、3つ4つあるわけですから。弁当代も3、4倍になる(笑)。僕らの現場だけでも3つカメラがありましたし、カメラマンが足らない時は、僕が撮影をやったりという事もありました。

――セットのスケールの大きさが桁違いで。暗殺団との対決シーンなどは、エキストラも途方もない数のように思いました。

  谷垣健治
谷垣:僕らがアクションを担当した、ドニーとカン・リーの対決シーンはピーターが外で撮りたいと言い出して。通常アクションシーンはスタジオ内で撮影するというのが、香港映画の常識なんです。だってスタジオ内なら、天候も関係ないですし、昼も夜も撮影出来る。閉め切った状態なので5人くらいのエキストラがいれば十分ですが、外で撮るとなったらそれの200倍の人間が必要になる。あの撮影場所には、1000人のエキストラがいたんです。中国のエキストラはド素人なんで、いろんな事が起こるんですよ。勝手にケンカし始めちゃったりとか、携帯で電話していたりとか(笑)。アクション部が20人くらい居て、それぞれ50人ずつくらい担当して指示しながら動かしていくんです。

――中国映画は、スタジオの大きさや、スタッフの数も、世界でも比類のない存在になってきていますね。

谷垣:『HERO』や『始皇帝暗殺』などを撮影した杭州のスタジオでは、今現在40本の映画を撮影しているんですよ。いくら東宝でも、それはありえないでしょう。

――40本!年間じゃないですよね。

谷垣:今この瞬間に40本の映画が撮影されているという事です。映画産業はそれくらい盛んなんですね。

――『孫文の義士団』にも、中国資本が多く入っていると聞きます。今の中国映画の潤沢な資金源は羨ましい限りです。

谷垣:そこで問題なのは、映画の事を知らない人でもどんどん投資してしまう。撮ったら儲かると思っているみたいで、ここ数年で興行収入が倍・倍になっている。劇場の数が増えているだけじゃなくて、配給網がしっかりしてきた、やっとシステマチックになってきたのが理由で。『Painted Skin 畫皮』が2億元の興行収入に至り、『唐山大地震』は6億元くらいいってますが、記録を破らせる為に、外国映画に劇場を明け渡さなかったり、チャン・イーモウの新作ならば、ニュースの中で15分くらいの枠で特集したりとか。

――ヒットさせる仕組みが出来ている?

谷垣:中国では、DVDなどの海賊版があまりにも多いので、劇場上映で収益を出さないといけない部分があって、そこは日本と少し違いますね。といいつつ僕はやっぱり香港の映画人だと思っているので、中国映画の仕事はお客さん気分で、実はあまり詳しくないのです。

――香港の映画の撮り方と、日本の映画の撮り方での一番の違いはどこでしょう?

  谷垣健治
谷垣:全体的な話をすると、日本の映画は【終らせよう】とします。どういう事かというと、消化していく、台本なんかにも、「はい、今日ここまでいったね」と埋めていく。全てが終わりに向けての引き算方式なんですよ。僕がどうして香港の映画人に信頼されているかというと、そこなんです。段取りよく【終らせよう】とするんで(笑)。香港の映画の撮り方っていうのは、次やる事が全く決まっていない、香港映画は足し算なんですね。例えば階段で逃げる、それだけじゃ面白くない。「階段で逃げた後、立ち回りをひとつやったところで車にぶつかって、その後走り出す、こんなのどう?」みたいにね。「どう?」と言われて反対する人は一人もいない。香港映画の何が面白いって、いうなれば、ものすごーくお金を掛けた《自主映画》なんですよ(笑)。自主映画なみの柔軟性ですね。その日の内に編集作業をやって、明日何やろうか、とか。だから放っておいたら、いつまでも撮影してる(笑)。そのうち尻に火がついたボスから「あと1週間で撮りきれ」とか言われて、ものすごく雑に終わらせる(笑)。もったいないですよね。

――アクション映画ならばどうでしょうか。

谷垣:香港映画のアクションの撮り方は、「じゃあ今から椅子を壊すアクションをやります」となっても、美術部や小道具が「じゃあ今から椅子作ります」となる(笑)。だいたい20テイクくらいしますから、足りなくなっても、壊していくそばから直していく。そういう柔軟さがある。撮影部も、アクション部がやりたいシーンがあれば、そこに合わせる。レールを引くの面倒だから「レール引くシーンはまとめて撮ってくれないかな」なんて事は絶対言わない。全てがアクション部を中心に回っているんです。日本の場合だと、「椅子が壊れないようにやってくださいね」「はい、気をつけます」となる(笑)

――安全面での違いは?

谷垣:僕らは今すごく難しい時代にいるんです。10年前までなら、アクションしているなら、骨折しない程度なら当たり前だった。今はとにかく安全に、怪我なく、だけどエッジの効いた、危なく見えるような物をやってね、という矛盾の中で生きている。安全の確認は絶対しなくてはいけないですが、予定調和のアクションにならないかどうか、というところが難しい。


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「アクション映画のノウハウが途絶えないよう
次の世代にどう繋げていくか、を考えています」


――『カムイ外伝』など、日本映画でも多くの作品でアクション監督をされています。

谷垣:日本の映画業界は、いろんなジャンルの映画が作られていて、とても面白いと思います。香港映画ならば、ひとつ流行ると、みな横並びになってしまう。キョンシー映画が流行った時なんか、250本も作られましたし(爆笑)。“SUSHI TYPHOON”の映画が流行ったとしても、日本映画400本の内、390本が“SUSHI TYPHOON”になったらイヤでしょう(笑)

――そんな事にはならないと思いますが(笑)

谷垣:ならないところがバラエティの豊富な日本映画の強みなんです。それにしてもアクション映画の割合が少なすぎる。アクション大作系がすごく少なくなっていますから。僕はその割合がちょっとでも増えるといいと思っているんです。業界全体にどうとか、というのではなく、自分で納得できる作品を一本でも作ってみたいんですよ。

――仕事をしてみたい俳優さんというのは、どのような方なのでしょうか。

  谷垣健治
谷垣:やっぱりアクションというのは、意外性ですから、女性とか、子供とかがやるともっと面白い。『キック・アス』(2010米.英)がなぜあんなに面白いかというと、イノセントな小さい子供が、汚い言葉を吐きながら、オトナを残虐にバッタバッタと倒していくところじゃないでしょうか。同じ事をスティーブン・セガールがやっていたら、ハードルも上がるし、当たり前で面白くない。僕がやりたいのは、アクションをやりそうにない俳優とかで、裾野を広げる感じで。ジャンル俳優がジャンル映画をやったら、観る人が限定されてしまうでしょう。何をやったかも大事だけど、誰がやったか、が今は大事なんじゃないですかね。

――訓練されていない俳優さんでも、アクションはできるものなんでしょうか。

谷垣:例えば以前アクション監督をやった「タマホーム」(木村拓哉出演『日本の家は高すぎる篇』)のCMでも、これが千葉真一だったら普通で何の驚きもないでしょう? 僕らも忘れがちになるんですが、アクションというものが実は芝居の延長線上にあるもので、俳優として優れている人がアクションをやると、やっぱり上手いんですね。それはアクションをやっても、芝居の一部分としてアプローチするからです。いくらスタントマンが技術的に優れていようが、俳優がやったほうがその人にしか出せない面白さが出せると思います。

――以前ブログで金城武さんと仕事をされた時、金城さんはアクションが苦手ですが、芝居が上手いので、結果的に見事なシーンになったと書かれていたのを覚えています。

谷垣:例えば以前『ツインズ・エフェクト』という作品で、ジャッキー(チェン)と仕事をした時、編集で彼のクローズアップを挟むと、今まで凡庸だったシーンの中で、ジャッキーの存在がどんどんリードしはじめていったんです。次第に「ジャッキーの映画」になっていった。そこで思ったのは、彼の顔の演技が持つ説得力。アップを挟むだけで豊かさが全く違ってきてしまう。僕はね、これもひとつのアクションの持つ力じゃないかと思うんです。演技の上手い人はそこを理解しているので、アクションが上手く見えるんです。

――今後のご自身の監督作品の予定は?

  谷垣健治
谷垣:大作もいいですが、打ち上げ花火のようになってしまうのが、一番困るんです。イベントで終わっちゃいけない。コンスタントにずっと作り続けていかないと、スタッフの人たちにノウハウが生まれない。今の日本映画の若い監督も、助監督時代にアクション映画を撮った経験がないので、アクション映画のノウハウが、途絶えてしまってますよね。俳優にとってもスタッフにとっても、アクションは数こなして経験値を上げていかないと、なかなか皮膚感覚として身に付かないです。以前日本映画は、東南アジアに影響を与えた。今香港や中国映画で常識になっているワイヤーアクションも、ラウ・カーリョンが『仮面の忍者 赤影』でのそれを凄いと思って、やってみたのが始まりです。ブルース・リーのアクションの「間」にしても、侍映画の殺陣にヒントを得たと言われていますし。それほど影響力のあった日本の映画のアクションを、僕らの世代で進化させ、どう次の世代に繋げていけばと、考えているんです。



 
  Profile: 谷垣健治(たにがき・けんじ)

1970年、奈良県出身。
倉田アクションクラブで学び、93年にアクションの本場・香港へ単身で渡る。ドニー・イェンやジャッキー・チェンらの多くの現場を経験し、現在は国内外を問わず監督、アクション監督、スタント・コーディネーターとして活躍中。監督としては『マスター・オブ・サンダー 決戦!!  封魔龍虎伝』(2006)、アクション監督としては『カムイ外伝』(2008)などがあるほか、スタント・コーディネーターとして『新宿インシデント』(2009)『孫文の義士団』(2010)などと幅広く活動中。

映画『孫文の義士団』(日本配給:ギャガ/4月16日より全国順次公開)
公式サイト:http://sonbun.gaga.ne.jp/

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